ありがとうを何度でも7

「ただいまー!!」「ご無沙汰しています!!」先程までの大騒ぎがどこへ行ったのか?俺とたえは、にこやかに、たえの実家に入って行く。


 玄関を開けた途端に家の奥から

 ドタドタと音を立てながら大勢の足音が聞こえる。久しぶりのたえの実家の匂いは少し磯の匂いがした。たえの実家の稼業は漁業に農業。


 たえのお父さんが他界したおりに、上のお兄さん二人が学校を辞めて稼業を継いで必死に働いて来た。基本はキンメダイをやっていてシーズンになったら、伊勢エビや色んな魚をやったりする。俺も良く魚を貰ったりしたし、おやつ代わりに伊勢エビ一匹茹でて貰って食べたりと考えてみれば豪勢な事をさせて貰っていたなと思う。


 本当に海が大好きな人達で、僕も乗せて貰った事はあるけど、遊びながらカツオやキメジマグロを釣りに行ったりした事もある。

 兄さん達は夢中で釣りをしていた。あんなに揺れる船の上で酔わずに釣りを続けられるのは本当に凄いと思う。その時の俺は酔って散々だったけど……。


 玄関まで迎えに来たのは、たえの二番目お兄さんのシマズ兄さんとその奥さんと息子さんの家族、楠木と柊さん、そして中学からの俺達の友人、悪友達数人。一番最後を一番上のアカギ兄さんとたえのお母さんがゆっくりと歩いてくる。


「良く来た、まこと!!」嬉しそうに満面の笑顔で笑い掛けてくる、短髪イケメンのシマズ兄さん。


「いらっしゃい、たえちゃん、まこと君」おっとり美人で少しふくよかなシマズ兄さんの奥さん。奥さんはシマズ兄さんの二つ下で、奥さんが18歳になったと同時に籍を入れた。


 本当は結婚は、もっと時間を掛けたかったらしいけど、病床のたえのお父さんに安心させたくて急遽結婚する事にしたらしい。


 見た目通りの優しい人で、ちょっと気の荒いシマズ兄さんとは、若い結婚って事もあり、色々大変だった様だ。俺達はその一部始終を近くで見ていたし、まるでドラマみたいだと、たえと語り合った。


 普段、気の荒いシマズ兄さんが、ただ静かに奥さんのご両親に頭を下げる姿は凄く格好良かったな。


「ご無沙汰してます」俺とたえ、二人で頭を下げる。


「おー、あおしのだ!!あおしのが揃って来たぞ!!」酔ってるのだろうな?友人の一人が赤い顔をして陽気に騒いでいる。「「あーおしの!!あーおしの!!あーおしの!!あーおしの!!」」五月蝿いあおしのコールに苦笑いしながら、


「うっせ!!あおしのあおしの言うんじゃねぇよ!!」「あおしのって聞くと地元に帰って来た感じするわねー?」俺とたえは乱暴に友人達と挨拶を交わす。


「たえー!!先ほどぶりー!!」「まことー!!、親孝行してきたか!?」柊さんと楠木も出迎えてくれてたえと柊さんがバグを、俺と楠木がグータッチを交わす。

「さっきは車サンキュー楠木、つくしちゃんは大丈夫だったか?」「楠木君、つくしちゃん可愛いわよねー!!」

 つくしちゃんの話になると、楠木はデレッとした顔になって「サンキューたえちゃん、つくし可愛いだろ?つくしも、また会いたがってたよ。まぁ今日はハンバーグにはしゃいでいたけどな?」


 その言葉に笑っていると、


「お帰りたえ、まこと君」たえのお母さんが嬉しそうに話しかけてくる。その手には、お盆を持っていて、もしかしたら宴会の料理か何かを運んでいた最中だったのかも知れない。


 やっぱりたえに似ていて若い頃は、モテたのだろうなって思える。以前、家の父さんが、たえのお母さんと俺の母さんで、地元の学校の美人ツートップだったと事が聞いたあるが何となく分かるな、まぁウチの母さんが美人かは、ともかくとして。


 最後に出てきたアカギ兄さんが、

「いつまで、玄関先で騒いでるんだ、さっさと家に入れ、たえとまこと、みんな待っていたんだぞ?」


「そうだ、そうだ!!」「早く来いよ!!」「みんな待ちくたびれてたんだぜ?」「早く上がって、料理が冷めちゃうわ」


「まこと、運転手だから、お酒駄目だからね?無理に勧めないでよ?」「何だよ?まこと酒飲めない日か?」「代わりに、酒豪の忍野たえ先生が飲んでくれるからさ?でも、まぁ程々に頼むよ」


「私、日本酒飲みたーい!!」「よーしこの前、通販で銘酒十本セット買ったばかりなんだ、飲むぞ、たえ!!」「辛口が好きでーす!!」「なぁたえちゃんって良く飲むの?」「ザル」「ザルて」「まーこーとー!!人を酒飲み見たいに言わないで!!」「……酒飲みじゃん、ほっぺたひっひゃるなー!!」


「じゃれとるじゃれとる、あおしのがじゃれとる」「本当にくっついたんだな、あおしの」「感慨深いな」「あの、絶対の幼馴染とか安定の進展無しって言われてた、あおしのが……」「「失礼だな、君らわ!!」」みんなが笑った。


 たえが、美味しそうに日本酒を飲んでいる。「嬉しそうだな、たえ」たえのコップに、日本酒を注いでやる。コップに書かれた酒豪の二文字が妙に笑える。

「お酒美味しいし、久しぶりのお友達も楽しいし、まことは優しいし……」赤くなっているのは、お酒のせいなのか恥ずかしがっているせいなのか?たえは、俺の肩に寄りかかって、嬉しそうに微笑む。

「今日は、甘えるな……」ゆっくりと、ふんわりと俺の肩にもたれ掛かって、少しお酒の香りがする吐息が香る。

「ここが、私の居場所なの……ここが一番落ち着くの」


「そっか……」その言葉の甘さに、お酒を飲んでいないのに酔ってしまいそうだった。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る