鍵を開けよう1

 物件は意外とすぐに決まった。


 以前から、同棲自体はしたいと思っていて色々雑誌やアプリで調べていたんだ。


 毎週、たえが泊まりには来ていたけど、不安はあったし、別れる時の損失感が辛くて出来るなら帰したく無かった。


 何なのだろうか?たえと正式に付き合う様になって、自分がこんなに独占欲が強いとは思っていなかった。いや、心配症なのかな?過保護なのかな?正直よく分からない。でも、たえに心配し過ぎだって言われる位に、たえの事が心配でしょうがなかった。


 あの夜、びっくりするたえに、俺は前から考えていた同居の事を口にした。そうすれば、二人分の家賃も多少高い部屋にするにしても、一人分になるし、結婚資金も貯めやすくなる。まぁそれもこれも、結婚情報誌に書いてあった事を色々読んだせいだったけど……。

 まぁ、付け焼き刃な知識だとはしてもお互いの通帳の一本化とか、結婚式や生活にかかるだろう資金の目安。一人では考える事は出来ない事ばかり、だからまず俺はたえに、こう聞いた。「俺、勇み足してるのかな?」って、


「少しね、ビックリした……かな?急に結婚とか言われるし……」


「でもさ、まことが私の事ん~ん、私達の事を良く考えてくれているのは、良く分かったよ?」たえは、優しく微笑んで、ゆっくり物思いに耽りながら考えている。


「私の言える事は、今は一つだけ」たえの言葉に緊張した俺は、ゴクリと喉を鳴らした。


「同棲しよっか?」ニッコリ笑うたえを強く抱き締める。「こらこら、甘えん坊だなぁまことは」そう言いながら、俺の頭を優しく撫でてくれた。


 子供扱いするなよ……。


 それから俺達は、ネットを駆使して近くの不動産会社を調べて、これが良い、これが悪いと夢を見る様に語り合った。今まで、お互い1DKだった部屋を2DKにするか?それとも、職場との距離を考えるか?家具や家電はどうするか?


 単純に考えてもこれだけ出てくる。細かい所をこだわり始めたら、もめ事だって起こるだろう。それ位は当然だし、どちらかの意見だけで行動したら駄目だ。上手く行かなくなった時に、その人のせいだと思いたくなくても思ってしまうし、考えてもしまう。


「ねぇ部屋は、1DKでも良いかな?」「うん、その代わりに、前より駅か職場に近い場所へ」「ここは?」


「次の休み行って見るか?」「うんっ!!」


 そんな会話をしたのが一週間前、不動産会社の会社員のお兄さんに連れられて、本命の前に2~3件回らされて、最後についた場所が何だか、正直、思ったよりも築が古い感じがしたが床の軋みもなく、壁紙もサービスで張り替えてくれるらしく、セキュリティも良く2DKでオール電化で、月十万で敷金礼金一ヶ月、駅まで一キロだけど、たえの今の学校には近い。


 俺には自転車もあるし、何とかなるか?、いや駐車料も事はもあるし、歩くか?


「まことは毎日マラソンになっちゃうね、大丈夫?」「最近、運動不足だし、調度良いさ」


 結局、俺とたえは、この部屋に気に入ってしまった様なのだ。


「家電も家具もお互いのを持ち寄れば良いよな?」余分に持ち物が増えそうな気もしないが、その辺は上手く調整しよう。そんな事を考えていたら、

「部屋に統一感出したいな……」


「何だよ急に?」


「だって、私とまことじゃ、趣味も好きな色も違うじゃない?」まぁ、そうなるだろうけどね。


「確かにそうだけど、無駄に金は掛けられないだろ?」


「別に無駄になんて思って無いけど……」


「色々と必要なのは分かるだろ?」少しムッとした顔のたえを見てため息をつく。家具も高いからな。小さなソファーだけで数万円位軽く飛んでいく。


「でも、折角なんだから少しは考えても良いでしょ?」


「あのな、考えたらそれを実行したくなるのが人間ってもんだろ?最近、物件探しで出歩いてばかりだったんだ、ゆっくり休んだ方が良い。どうなんだ体調は?」俺の言葉に、機嫌が悪そうに俺から顔を反らす、たえ。


「どうしたんだ今日は?今から、色々忙しくなるんだ体調悪かったり、辛かったりするなら、すぐ言えよ?」熱でもあるのかな?俺がたえの額に手をやろうとすると、やめてと言う様に俺の手を彼女は払い除ける。何だよ、人が心配してるのに……。


「やめてよ、私の事心配してくれるのは嬉しいけど、心配心配って、ちょっと過保護過ぎるんじゃない?」


「そんな事言ったって、最近体壊したばかりなんだから、しょうがないだろ?俺は、恋人として婚約者として、お前を管理する義務があるんだ?」


「義務?本当に最近何かあれば体調はどうだとか?辛い事は無いかとか、なんか婚約者ってよりもお母さんみたい。私は、そんなに体弱くないんだから!?」


「そんな事言ったって、現に体調壊してるんだから仕方無いだろ!?そういう事は、体調管理しっかりしてから言えよな!?」自分でも、少し口調がきつくなっているのに気付いていた。でも、これは無いだろ?こっちは心配してるんだぜ?


「私だって好きで体調崩した訳じゃ無いんだから?」たえの目に涙が滲んでいるのに気付いたけど、俺の言葉は止まらなかった。


「なら、心配掛けんじゃねぇよ!!」


「私、帰る……」急に歯を食いしばったたえが、下をうつ向いて後ろを振り返る。


「待てよ、たえ!!」俺が掴もうとした手を、たえは払い除ける。


「何で……」言い過ぎた事は分かる。でも、この態度は無いだろ?


「俺は、たえの事考えていただけなのに!?」不満を口にした俺にたえは一言、


「同じ所に住むのも、少し考えよ?」


「どうしてさ、あんなに乗り気だっただろ!?」


「だって、今の私達、一人になって考える時間が欲しいでしょ?……少なくても私には……」


 そう言って、ゆっくり去っていく、たえの背中を俺には、見ている事しか出来なかった。










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