あおしの閑話恋人いるって本当ですか?3
「恥ずかしながら長年幼馴染みしてて最近やっと付き合いだしたの」
きついな、たえちゃん先生のはにかんだ笑顔が胃にくる痛みの様にズンと来た。
「本当!!たえちゃん遂に彼氏持ち!?」「どんな人?どんな人?」「ねぇ格好良い!?」「画像無いの?画像は? 」「ろくでもない奴なら、承知しねぇ!!」「俺の癒しがぁー!!」
恥ずかしがっている、たえちゃん先生と囃し立てる生徒達、居心地悪そうにしているのは俺だけなのだろうか?
「ねぇたえちゃん先生お相手は、どんな奴なの!?」好奇心旺盛なJKに囲まれて先生も困った様な嬉しい様な顔をしている。
一人、少し離れた場所にいる俺に恋が話し掛けてくる。
「あのさリオ、そろそろ行かない?」 恋が機嫌悪そうに俺の肩に手をかけた。
「バカ、俺達は日直だろ?」
「でもさ、ここにいたら先生の彼氏の話を聞く事になるんだよ?」
「そんなの、しょうがないだろ?大体お前だって見ただろ?先生達二人がお似合いだったじゃねぇか?」
「そりゃ確かにお似合いだったけどさ……」
恋が、釈然としない顔をしている。お前が俺の事気に掛けてくれるのは嬉しいけどさ。
「ねぇあんた達、もしかして先生の彼氏見たの?いつ?この前の休みに?二人で?」恋の友達の友菜さんが、いつの間にか近づいて来て、その目を光らせて矢継ぎ早に質問してくる。
「さっきから、そういってるじゃん」恋がムッとした顔で言うと友菜さんがニヤーッとした顔をして、
「あんた達こそ、やっぱり付き合ってんじゃないの?先生達どころじゃないじゃない。何してたの二人で?やっぱりデート?」
「ババババカ言わないでよ!!」恋が真っ赤な顔で声を上げて、俺が手で口をふさいで、「落ち着け!!何慌ててんだよ!?」
「ごめんねリオ」
「友菜も先生の話聞きに来たんじゃ無いのかよ?」真っ赤な顔をしている恋を何とか落ち着かせると友菜に文句を言った。
「ごめんね、つい白熱してしまった」ニャハハと笑いながら、
「改めて先生の彼氏、格好良かった?」
「ん?まぁそうだな……結構格好良かったと思う」
「ん?何で疑問系?」
「遠目で良く見えなかったんだよ!!」しつこい友菜に、イライラして吐き出すように言うと、
「まぁ、でも格好良かったと言うか、美男美女がベタベタしてた」恋が腕を組んで頷きながら言った。正直忘れたかったけど、あの時の風景が思い出される。あぁ嫌だけど良く覚えている。
顔も髪型もファッションも大人って感じだったし。
格好良かったしな。あの白黒コーディネート俺もやって見ようかな?
「へー見てみたいな先生の彼氏。でデート楽しかった?恋と理央?」
「しつこいなー!!そんなんじゃ無いんだから!!」
「俺達は、単なる幼馴染みだ!!」
それを聞いた、たえちゃん先生が口に手を当ててクスクスと笑う。
やっぱり笑顔が可愛いなぁ。
「どーしたの?たえちゃん先生、急に笑って」
生徒の一人に笑顔を指摘された先生は、少し遠い目をして微笑む。
「私達も昔よくそう言ってた事、思い出して……懐かしいなぁ」
「私達は単なる幼馴染みだーって」
懐かしむ様な優しい笑顔、彼女の脳内で、どんな思い出が、思い出されているのだろうか?
彼女の脳内で再生されている映像の隣にいる人が自分では無い事だけは確実なのが悔しくて、つい聞いて見たくなった。
「ねぇたえちゃん先生、彼氏ってどんな人なんですか?一緒にいた先生が凄く幸せそうでさ少し気になったんだ」
「リオ……」
恋の、少し寂しげな小さな声が聞こえる。まぁこいつは俺の気持ち知っているんだもんな。心配かけてるよな俺。
「そうね、まぁこの際だし貴方達も恋愛に興味がある年頃だと思うしね。私の言葉が何かの参考になれば良いですけど」
そしてたえちゃん先生は自分のスマホを取り出して待受を俺達に見せた。
「あっこの人」
待受を見た恋が声を出す。そこには一人の男性が写っていた。
「たえちゃん先生彼氏待受にしてるのかよ?」と茶化す声が耳に入る。
少しだけ茶色がかった自然なくせ毛、切れ長の二重はイタズラそうに目尻を下げ、この画像を撮っているだろう、たえちゃん先生を見て優しく微笑んでいる。
ラフなトレーナーを着て寛ぎ度MAXだ。
この人も、この画像がスマホの待受にされて皆に見られているとは思うまい。少しざまぁと思うと同時に少し羨ましく思った。
「はい、この人が私がお付き合いしている、幼馴染みの青葉まこと君です」
ちょっと恥ずかしそうに先生はハニカミながら続けた。
「私達は小学校低学年から家がご近所とだったんで、良く遊んだりしていたんです」
「うっわ、えげつない位に格好良いな」「芸能人じゃないの?」「たえちゃん先生の脳内彼氏じゃない?」「画像は、最近流行りのAIに書かせたとか?」「これこれ、現実逃避も良いけど、私達実物見てるから」「アハハだよなぁ」「でもさぁ完全部屋着だよなぁ」「寛ぎ度MAXだよね」「えっ?誰の部屋?」「よせっ!!深く考えるな!!後、事後とか事前とか言うなよ!!」「テメエが一番妄想してんだよ!!」
俺達の下らない雑談もニコニコと笑顔で笑って待っていてくれる。やっぱり、たえちゃん先生は女神だ。
「申し訳ありませんが、まことは存在してますよ。それに馬鹿な事も言うし結構、天然ですしお酒は弱いし少しオタクだし駄目な所も沢山ある一人の男性です」
「えーこの人がオタク?アニメとか?」
「えぇ、この前も天使と旅するアニメだとか見て……」人差し指を口元にあて考え込む先生。
「あっ!!旅天だ!!」
友菜が、急に大きな声を出した。
不思議そうな顔をする先生に、友菜は続ける。
「君と歩もう旅天使ってアニメだと思う!!名作だよ!!名作!!へー旅天のー……」
そのアニメなら俺も知っている。ヒロインの天使が可愛くて、誰かに似てて……あっ。
「あー成る程、そっかそっか」
友菜がニヤニヤしながら、たえちゃん先生に耳元でゴニョゴニョ言っている。
先生は顔が真っ赤だ。多分ヒロインが先生そっくりだから見てるんだと思うよとか言って、からかっているのだろう。
「やだもう、からかわないで……」照れながらはにかむ、たえちゃん先生は可愛かった。
そう彼の事を話す時のたえちゃん先生は、きっと先生じゃなくて……。
さっきまでとは笑顔も質が違って彼女をこんな顔にさせる青葉まことって男に正直俺は嫉妬した。
「やっぱり、この人の話してる時の先生、可愛いっすね」
「こらっ、大人をからかうな!!」
真っ赤な顔で照れ笑いする先生に、
「いやマジっすよ。多分、他の誰にも先生をあんな笑顔にさせる事なんて出来ないっすよ。」
「流石に、自分と比べても、勝てる所無いなぁって思っちゃいました」
俺は少し自虐的につぶやいた。
「おー言うじゃん、身の程知らず」「まぁ、いくら理央でも無理だ」「まぁ、相手が悪いな」からかう声を俺は無視した。
「ありがとう、内山君。あなたみたいに素敵な子に言われると凄く嬉しいわ。彼、自分の事卑下してばっかりだから。でも貴方には……」その後の事、色々言っていたと思うんだけど先生の言葉は、ほとんど覚えて無い。
ただ、たえちゃん先生の笑顔がこびりつく様に頭に残っていて……。
☆☆☆
たえちゃん先生の頼まれ事を終わらせた俺は、気がつくと教室に戻って来ていた。
一人だけだと思っていたら恋が少しうつむき気味に後ろからついて来ていた。
凄く不機嫌そうな顔で俺と目を合わそうとしない。
「バッカみたい、ヘラヘラ笑っちゃってさ」
「悪いかよ、他にどんな顔したら良いか解らなかったんだよ」
恋は、俺の左腕にパンチする。痛みは何も無いけど、何となく胸に傷みがあった。
「それでもさぁ……リオ可愛そうじゃん」
恋の目から大粒の涙が溢れていた。
今の俺、最低だな。
「お前が泣くなよ」
俺の代わりに泣いてくれている幼馴染みの頭に手をおいて撫でてやる。
「リオわたし……」俺は、恋をゆっくりと抱き締めて、その先のセリフを止めた。
「止めろよ。今、何か言われたら勢いで行動しちまうかもしれない」
「……別に良いじゃん」腕の中の少女は涙を堪えながら呟く。
「バカ、俺は振られたばかりだぞ?と言うか、舞台にも上がれなかったけど……」
「リオ!!私、貴方の事!!」恋の言葉を手で制した。
「もう少し考える時間をくれよ」
「……リオ」グスッグスッと鼻をすする音が二人しかいない教室に響く。
「でも、ありがとうな俺の代わりに泣いてくれて」
恋の背中を抱き締めながら、頭を撫でた。
「良いの?リオはこれで、告白も出来なかったじゃない」
「うん、あれは無理だろ」俺は苦笑いをする。
「だったら、好きな人に迷惑かけたく無いだろ?」
「リオの癖に、格好つけすぎ」
「格好良かったら勇気だして告白してるだろ?俺は弱いよ本当弱々だ」
ヤバい、ちょっとウルッと来た。
「泣く?」
せっかく代わりに泣いてくれたのにな。恋が背中を優しくポンポンと、してくれた。
「泣かねぇよ……バカ」
「泣いてんじゃん』
「うっせ』
二人だけの教室で二人だけで静かに二人だけで抱き締め合いながら、俺の恋は終わった。
きっと、この恋はいつか思い出話になるのかも知れない。
でも、今はこの胸の痛みに向き合いながら、ゆっくりと傷を癒す時なのだろう。
幸い俺の傷を温かく癒す、優しい傷薬は近くにいるらしい。
俺は幸せ者なのかも知れない……。
悪いな恋、もう少しだけ待っていてくれ。
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