温泉旅行が当たりました8

「祭りやってるの近くで良かったな」


 俺達は夜道を歩きながら祭りが行われるという神社へ向かう。


「浴衣のまま行けるし本当嬉しい」

 旅館から好意で草履を借り夜道を行く。


 やはり浴衣が嬉しいのだろうか?少し踊る様に、はしゃぐたえ。


「やっぱり草履歩き慣れないか?」

 チラッチラッと、たえがこちらを見ては自分の腕をしきりに気にしている。俺は少し笑いそうになるのを堪え落ち着いた後に、彼女に向かって手を差し出した。


「行こうか」


「うんっ!!」


「ウワッ!!」


 手を取るかと思っていたら腕に向かって飛び込んで来て焦る。


「行こっ、まこと!!」


 柔らかい衝撃と共に嬉しそうな顔をして愛しい人は俺に体を預けて来た。


 アハハすげぇ歩きづらいと心の中で思いつつも顔には決して出さずに笑顔で対応する。


 ほんのりと甘いお酒の匂いがした。


 旅館の前の道を出ると緩い上り坂の方向に数百メートル位行った先から徐々に祭りの明かりらしき光が見えてくる。


「これなら間違えようが無いな」


 遠くに笛や太鼓の様な音がする。お囃子でもあるのだろうか?子供の頃、子供屋台で大太鼓や小太鼓をやった事を思い出してしまう。横笛も挑戦したけど音を出すのが難しいんだよね。


「お祭りっぽいね少しワクワクする」


「だな」


 俺達はゆっくりと緩やかな坂道を登って行く。サイドに露店が並び食事後じゃなかったら、きっと買い食いが楽しかったのだろうか?


「ねぇ見て!!綿アメだよ、うわっおっきい!!」


「凄いね、虹色!!可愛い!!綺麗!!」


「食べたいのか?」


 綿アメかぁ、いつから食べてないだろ?


「見た目は欲しいけど荷物になるからいらない」

 あっさりと断るたえ。


「別に荷物位持つぜ?」


 そんな言葉に首を降り一言だけ、


「こうして、いたいから良い」


 俺の腕に顔を埋めた。


「スゴ」「うわっ可愛い」「いや、綺麗だろ?」「男の方もイケメンかよ!!」「リア充はぜろ!!」「正直に言ってみろよ」「羨ましい」


「それな!!」沢山の人達の笑い声がきこえる。


「まこと、聞こえてる?」


 真っ赤な顔のたえが小声で伝えてくる。


「まぁ、まだ耳は悪く無いからな」


 はぜたくねぇなぁ?と言って笑う。


「きっと浴衣姿のお前が綺麗すぎるから悪い」


 そう言うと、たえはしがみついた腕の強さを強くする。俺は無言で彼女を抱き寄せた。


 たえの湯上がりのシャンプーの匂いとアルコールのほのかな匂いが混ざって鼻をくすぐる。


「行こう ランタン祭りの会場は向こうみたいだ」


「うっ、うん」


「うわぁ、見た?あいつ見せ付けやがったぜ?」「浴衣姿のお前が綺麗すぎるから、悪いだってよ!!」「お前、その顔で言うな、空気が腐る」「なんだと!!」「あれはイケメンのみに許された呪文だ」「じゃあ、俺が使うと!?」「◯ぬ」「し◯のか!?」


 ギャハハと下品な笑い声が背後から聞こえる。


「散々な言われ方だと思わないか?」

 

 おどけて言う俺に、クスクス笑うたえ。


 今はただ、君の笑顔が嬉しかった。


 そのまま、二人で歩いていくと目の前にランタン祭り会場の看板を見つける。


「今晩は」


「今晩はー!!」

 

 入り口で、祭り様に作ったのだろうか、ランタン祭りのTシャツを来た女の子達数人、入ってくる人達にしきりに挨拶をしている。


 一人は、ダルそうに一人は元気一杯に。


「今晩は、お疲れ様です」


 俺達は、彼女達におじぎをするとランタンの作成会場の場所を聞いた。


 祭り自体は近くの神社で行い、ランタンの作成は近くの小学校で行い、その運動場でランタンを飛ばすのだと言う。


 ランタン作成と言ってもランタンを実際作る訳ではなく、出来上がっているランタンに夢や願いを書いた短冊を張り付けるだけの作業らしいのだけど。


 先ほど挨拶をしていた少女の内の元気な子が俺達を案内してくれる事になり、二人で彼女に着いていく。


 何故か、案内を誰がするのか数人で口論となって、結局、彼女が案内する事になったのだけど、どこから来たのか?2人の関係は?とか、根掘り葉掘り聞かれて、タジタジになってしまう。


「お兄さん達、良く抽選に当たりましたね」

 運動場の明かりだろうか?明るい光が見えてきて学校が近いのだと解る。


「そうだね、応募したのはギリギリだったから、当たるとは思って無かったよ」


 まぁ、ランタンを上げる所が見れたらラッキー位に考えていたから、正直びっくりした。


「貴方達はボランティアなの?偉いのね」


 たえが、微笑んで言うと何故か少女は真っ赤になって照れてしまう。


「先生が学生生活の良い思い出になるって言ってくれて、その……」


「うひゃーお姉さん美人だから、めっちゃ照れる!!」


 その可愛らしい反応に2人してホッコリしていると学校らしき建物が見えて来た。



「こちらが短冊になります」


 体育館の入り口でメガネの先生(身分証明らしく胸に学校名と名字が書かれた名札を着けている)が短冊と筆ペンを渡してくれる。


 これで書いた短冊を向こうにあるランタンに張り付けるらしい。


 先ほど案内してくれた少女は先生が送ってくれるらしい。


 じゃあね!!お幸せに!!と元気良く言って帰って行った。


「可愛らしくて元気な子だったよね」


 少し、憧憬が混じった様な笑顔を見せて、たえは笑う。自分の学生時代を思い出したのだろうか?「学生時代か……」長い様な短い様な時間の流れに僕らはしばし想いを寄せていた。


「筆ペンかぁ、微妙に筆とタッチが違って書きづらいんだよね」


 たえが、真剣な顔で字を書き始める。


「たえ、めちゃくちゃ習字、上手かったよな?」


 たえは、子供の頃から、習字を習っていて確か段位を持っているはずだ。


「まぁ、子供の頃からやってたから」


 あまり書いた字に納得がいかなかったのか、良い顔をしていない。


「何で高校、書道部入らなかったのさ?」


 不思議に思って聞いてみる。


「まぁ高校時代はバレー部とテニス部の2つ掛け持ちしてたからね」


 あれは、キツかったとため息を吐くたえ。


 こいつも俺も高校時代は妙に目だっていて、俺はサッカーと陸上たえはバレーとテニスにと大忙しだった。


 本当は、俺はバスケ部にも誘われていたのだけど団体競技を掛け持ちは無理と言うことで何とか諦めて貰ったんだけど、今考えると、運動部の掛け持ちって無茶苦茶ハードだった気がする。


「俺は足やったから途中リタイアだったけど、たえはやりきったから凄いもんだよ」


 ずっと一緒だったから、辛いとき楽しい時も隣にいたから、良い思い出も辛い思い出もいっぱいあった。


 もっと早く気持ちを伝える事が出来ていればと思う事もある。


 でも今一緒にいれる事が嬉しかった。


 お互いに出来た短冊を見せ合う。


『たえが笑顔でいれます様に』


『まことの笑顔を隣で見ていられます様に』


 お互いの顔を見る事が出来ずに、しばらく赤面していた。



「へぇLEDライトなんだ凄い!!」


 たえは赤く光るランタンを渡されてびっくりしている。


 やはり、火を使うランタンでは危険だと言う事らしい。


 すぐにでも飛んで行ってしまいそうなランタンをたえはしっかりと抱き締めていた。

 


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る