第82話 閑話休題 錬金術師の祖父と錬金術師見習いカオルコ
5歳の薫子は神戸の北野の古い洋館に住む祖父母が大好きだった。
祖母は祖国を追われた元王女様で、祖父は随伴の
祖父の実験室にはいろんなガラス瓶に入った薬品がずらりと並んでおり古い洋館の雰囲気もあって、まるで魔法使いの部屋のようであった。
祖父は祖国にいるときに、
プラチナ原子に原子核を打ち込めば一つ増えて金より安いプラチナから高額な金に変化する。
化学反応ではなく、本物の錬金術なのである。
「おじいさま!今日も来たわよ!」
「おう、カオルコ、よく来たな。」
「今日は何をするの?」
「そうだな、今日はルビーの錬成でもしてみるか?カオルコ、宝石好きだしな。」
「え、ルビー!やったー。」
「そしたら
「カオルコ、ちょっと、聞くけど、その、とんがり帽子と杖は必要なのかい。?」
いかにも魔法少女を連想させる帽子と杖だ、祖母にねだって魔法使いの本場イギリスから取り寄せてもらったものだ。
「おじいさま、これは錬金術師とか魔法使いの正式な制服ですのよ。」
「そうなのか。日本では。」
おじいさまはそれ以上突っ込んでこなかった。
「そうしたら
「それではまず白い粉の
アルミとはあの台所にあるアルミ箔のことだ。これを、魔法で、宝石に変えるのだ。
古びたガラス瓶から小さな匙で白い小さなるつぼに慎重に入れる、重量は正確に測らないといけない。
「カオルコ、ルビーとサファイア、どっちを錬成したい?それによって混ぜる秘薬が違うんだ。」
「ルビー!赤いルビーがいい。」
「ルビーは難しいぞ、秘薬がわずかでも多かったら緑色や変な灰色になってしまうし、わずかでも少なければ赤くならない、サファイアのほうが簡単だよ。」
「ルビーがいいの!赤いの!」
「そうか、それならこちらの
先に測った白い粉の秘薬酸化アルミ粉末の質量のきっかり1%を計らなければならない。
薫子は質量計の表示を睨みながら、誤差なく1%に揃える。
「よし、それをるつぼに入れようか。」
5歳の薫子はこぼさないように慎重に秘薬を入れる。
「あとはよく混ぜるんだ、混ぜれば混ぜるほど綺麗な色になる、ねるねるねーるね。」
おじいちゃん、どこかで覚えたコマーシャルでボケをかますが、カオルコに華麗にスルーされる。
「そろそろいいだろう、ここで木炭を、」
「はい!先生!シャープペンシル持ってます!」
薫子はシャープペンシルから芯を抜き出しるつぼにお線香のように刺す。
余談だが、シャープペンシルとは和製英語であり外国人のおじいちゃんには通じない、英語ではメカニカルペンシル、である。
これで、準備はOKだ。
あとは
良い子は一般家庭では、絶対に真似してはいけない。
やるなら経験豊富な人物の監督のもと発動しなければならない。
一歩間違えば爆烈魔法により大惨事となるからだ。
薫子は詠唱を始める。
「カオルコ、その詠唱とやらは必要なのかい、詠唱なしでも。」
「何を言ってるのですが、おじいさま、詠唱はマナーですよ。」
ちょっとわからない理屈を述べる。
秘薬の混ざったるつぼを電子レンジくらいの大きさの箱に収納する。
「炎の精霊よ、我が元へ集え、雷の精霊よ、我に力を与えよ、電磁波の精霊よ駆け回れ、プラズマの精霊に祝福を!エクスプロージョン!」
薫子は持っていた杖で魔法箱の右上を突く。
箱の中では電磁波の精霊が飛び回り、雷の精霊の力がシャープペンシルの芯を直撃する。
みるみるるつぼの温度は上昇して簡単に1万度を突破。一気に12000度まで上昇してプラズマの精霊が喜びの声をあげる。
白色に近い小さな爆烈が起こり箱の中でるつぼが回り続ける。
「チーン」
ルビー錬成の
家庭用電子レンジから断熱ミトンでるつぼを取り出す。
充分冷えた後に白い紙の上に出してみる。
おお、一回目で成功するとは、薫子は天才だな。
そこには直径3ミリほどのピジョンブラッドのコランダム、ルビーを生成していた。
ルビーの化学式は「al2o3」であり酸化アルミそのものなのである。
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