第3話 クルードトイ社
クルードトイ社はなぜ賠償しなければならないのか?
答えは簡単だ。
各ままごと道具、各パーツは大きめに作られ、尖った箇所や刃になってしまう部分がないよう、極限までデフォルメされた丸みを帯びたおもちゃで人気だった。
だが、今の社長に交代したときからリアル路線に走り、本物の包丁と本物のガスコンロの小型版を、何の説明もなくおままごとセットに入れた。結果、子供たちが深い傷や火傷を負い、場合によっては失火で家が全焼することすらあったのである。
エイトオーが担当するヘヴンズコール市当局は、この事態にも住民の訴えに耳を貸さず、全く動かなかった。それとは別に被害者が集団で賠償を求めて裁判を起こしたのだが、なぜか敗訴した。向こうの弁護士が判事を買収したのではと、公然と噂されるほど不可解な裁判だった。
『あと二分で目標地点に到達します』
「分かった。続けてくれ」
『了解』
目標地点の上空に到達すると、ソリ男はそのまま六輪タイヤを出しながら垂直に降下し、静かに従業員用のドア近くに停車。工場の敷地入口には閉められた門があるが、守衛はおらず、監視カメラも警備ロボットも、そして
これは好都合と、エイトオーたちはぞろぞろと一度に外に出て、突入の準備を始める。トナ太郎たちトナカイフォースはトナカイの頭部を模した縦長のファンシーなヘルメット――通称カブリモノをめいめいに被り始めた。装着者の顔が外に出ている状態が第一形態。首の両側を掴んで下げ、顔を完全に隠したのが戦闘モードの第二形態である。
ファンシーな外観に惑わされることなかれ。第二形態ともなれば、通常のヘルメットとしての防御性能以外にも、エイトオーの多機能サングラスデバイス[エントツ]と同様に、暗視などの様々な機能を使う事が出来る、財団製の最先端のおもちゃなのだ。それと合わせる焦げ茶の迷彩服もサンタ服も、強力な防刃防弾耐衝撃能力を備えた、突入作戦にはもってこいの逸品である。
更にカブリモノには、後頭部に所有者の名前がホログラムで表示される機能も付いていた。夜間の作戦でも名前を間違えることのない優れものだ。無論、思春期の男の子には嫌がられる仕様であるが。
さて、準備万端となったなら、まずはトナ太郎とトナ五郎の二人が、そろりそろりとドアに近づき様子を探る。周囲の壁を慎重に観察した後、ドアに少し触れ、何も起こらないことを確認。すると、トナ五郎は腰のポーチから細長い工具を取り出した。それをドアノブの鍵穴に差し込み、柄の部分を操作するや、カチャリ、と解錠の音がする。
トナ五郎の仕事が終われば、今度はトナ太郎の出番である。慎重にドアを開けて中を覗きこむが、やはり敵方の反応はない。ドアからして旧式な工場のことだから、もしかしたら警備ロボットも配置されていないかも知れない、という考えがトナ太郎の頭に浮かんだまさにそのときだった。
「いっっっっっっっっっってええぇえぇぇぇ!!」
直後、トナ太郎の絶叫と、連続して壁や金属に銃弾が当たる音が闇夜に響く。
すかさずトナ太郎の体をトナ五郎が両手でつかみ、ソリ男のところまで素早く引き
「トナ五郎、いい判断だ」
エイトオーが褒めればトナ五郎は無言で頷いた。
しかし、彼を誉める前にトナ太郎のことを心配すべきではないのか?
その懸念はご
「トナ太郎、中の様子は?」
「すんません、しくじっちまって」
「いいから話せ。それにまだしくじっちゃない」
「……中はソリ男の見取り図通り、正面に鉄階段がある。人間二人が余裕をもって横に並べる幅だ。踊り場に拠点防衛型の警備ロボットが一体あった。旧式のガトリングアームのだ。社長室の前にももう一体あるかも知れねえ」
「どうしてそう思うんだ?」
「踊り場には遮蔽物が無いも同然だからな。油断して駆け上がった奴に背後から銃弾を浴びせられる。それから一階は工作機械がびっしりだった。階段以外に警備ロボットはいないはずだ」
「オーケー、さすがトナ太郎だ。よーし、いいか、みんなオホシサマを用意しろ!」
「全員か?」
すかさずロクが確認する。
「全員だ。
「親父、俺は?」
「トナ太郎、お前はダメージを受けている。最後方で皆をフォローしてくれ」
「おう、分かったぜ!」
そうしてソリ男を除く一同、ドアの前に集まればエイトオーの「ゴーゴーゴーゴー!」の声とともに、オホシサマを構えて一斉になだれ込んだ。
筋肉の塊たちが階段を駆け上がれば、直後に響くのは、モーター音と
そして間近に迫ったところでトナ三郎も加わり、何やら樹脂のようなものを特殊グルーガンで
その作業の裏では、ほぼ同時進行でトナ四郎とロクを先頭にB班が社長室を目指していたのだった。
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