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霧谷きりたに君。気になるなら来れば良かったのに」


 リディアがモバイルを立ち上げてため息をついた。


「あ、あぁ、玲鷗れおん?なんか岡山に帰るんだってね」


「まぁ写真を送ってあげよう」


 リディアのモバイルのシャッター音が、海の景色を切り取っていく。


 アタシもジュンに送ってやるか。


 月と星の岩にレンズを向ける。


「女神と騎士ナイトみたい」


 レンズの端に入り込む由子ゆうこさんとマックスを見て幸子さちこが呟く。


「そ、そう?」


 少しレンズをずらしたら、空と月と星がいい感じに切り取れそう。


「気になる……」


「ほっしーちゃん、どうしたの?」


 撮影を終えたのか、リディアが伸びをしながらアタシを見つめた。


「い、いや、大丈夫大丈夫。いい写真とれそ!」


 シャッター音がアタシの思考の確かさをクリアにする気がする。


 ……んだろうな。


 カシャ、カシャ、と切り取られた景色は綺麗で、切ない。


 なら来れば良かったのに。


 そばに居たい、とは違うんだろうか。


「アタシにはまだ分かんないや」


 けどせめて、ジュンが傷つくことが無いように……そう願って写真を送る。


「あ、すぐ返ってきた」


 リディアが見せた玲鷗れおんは、地元の子どもたちに囲まれて嬉しそうだった。


 ――ありがとう。


 これでいいのかは分からないけど、ジュンもそう言った。



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