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篠坂しのさか先生が一番好きな映画なんだってさ」


「えっ!?」


 マラソン後のストレッチをしながら、アタシは息が上がっていて、思わず大きな声が出てしまった。


星ヶ咲ほしがさきさん、どうしました?」


「い、いえ、何でもないです!ハァハァ……」


 元IOPic日本代表の体育の荒川あらかわ先生は美人だけど怒ると怖そうだ……


「……BoNブライトオブノアで流れてた映画」


「職権濫用やん。篠坂しのさか先生」


 そうちゃんとリイヤがコソコソ笑ってるのが荒川あらかわ先生にバレやしないか、ヒヤヒヤした。


 アタシたちは無事に帰れたし、シュウジのチーズほうれん草グラタンは美味しかった。


 何気ない日常がつつがなく過ぎ、すぐに雨の季節。


 時々、水の匂いがして、優しい雨が降る。


 篠坂しのさか先生はHRホームルームと和歌の授業には変わらずに来た。


 その他は一人で、あのブルーホールの傍らの、ジオラマルームに居るらしい。


「変わった人だよなぁ〜」


「まぁ俺は結構好きだけどね」


 そうちゃんがそう言った理由は、分かる気がした。


「あの映画が好きなんて意外だけど」


 篠坂しのさか先生は笑わない。


 でもアタシも、嫌いにはなっていない。


「まぁ担任やしなぁ」


「ねー☆何話してるの?☆☆☆」

「ぐぇっ」

星ヶ咲ほしがさきさん!?」

「……すいませんっ!」


 穏やかな時のなかでいつしか、いたみは晴れていくのだ——。


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