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「えっ、でも本当に、緊急じゃ無さそう。でもエッ!場所って……また富士山だ!」


 幸子さちこは既に搭乗ジャケットを羽織っている。


「行くの?母もさ、ずっと頑張って来たじゃん……」


「ミカ、疲れてたり、他にやることがある時は、休んだほうがいいと思う。でも母、元気になったから。協力できる時は協力しようと思う。 HyLAハイラっていい職場だと思うし」


「ミカ、私もごめん。やってみたいことがあるんだ」


 幸子さちこは脱いだ浴衣の袖を探って赤い宝石を取り出した。……違う、宝石じゃない。ルビーみたいなライズブレスだ。それとホログラムモバイル。


「ゴーグルおじさーん☆私、赤のほうで出ます!」


「OK!」


 そうちゃんの声。


 幸子さちこはルビーのライズブレスのボタンを押して赤いワープペーパーに乗る。


 アタシはなんだか、取り残されたような気持ちになった。


あね、ハイドロレイダーは僕とそうちゃんでも大丈夫だけど、三人で乗ってみない!?先に行ってるね!」


 アタシのモバイルから、シュウジの声が聞こえた。


 見上げた母の顔は強くて優しくて、アタシの心は揺れた。


 辛かったし、甘えたい。


 でもアタシが行ったらきっと助けられる。



 幸子さちこがさっき歌った、


 蛍の歌がリフレインしてる。


 優しい、許しの歌。




 でも……




「行く」


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