100年目の雪

グンジョシキ キレイ

第1話

201X年。

世界は知らずして、滅亡への道を進み始めていた。


私立団体による人間の獣化トランスオブビーストの技術の確立。

それからいくつ時間が経ったか。


2027年。獣人たちは反乱を起こし、それに乗じたテロリストや、

危険思想の国々を巻き込んだ第三次世界大戦が起こった。


2064年の春戦争は圧倒的な獣人勢の勝利で幕を閉じて、

人類の人口はすでに一億人は遥か、一万人を切ったのであった。


以前の人類は“旧”人類と言われ奴隷同然(いや、もっとひどい)暮らしを

することになった。

だが、獣人からしてみれば当然の仕打ちであろう。


2126年。獣人は、『旧人類解放派』と『現状維持派』の二つに世論は分かれ、

(しかしながらも世論は解放派に傾いて、)100年目を迎えようとしていた。


そうそう。

自己紹介をしなければならない。

私の名前は「マリア・ハウンド」。

犬系獣人の令嬢とでもいうべきかな。

16歳で解放派の幹部といってもいいかもしれない。


【2126年12月20日・夜・ニューヨコハマ・コズクエエリア・河原】

私は、この日雪の降る林を私の親友の

イフと歩いていた。


イフこと、イフリートは世論が傾く前に父が保護した旧人類の一人で、

私と同い年だが、ロクに栄養を摂っていなかったので私よりうんと背が低い。

しかし、私よりも落ち着きがあって、それでいて…


「マリア様…どうかしましたか?」

イフが瞳を覗きこんで私からの返答を待っている。


同世代の少女とは思えないこの…

なんというべきか。

母性が激しくくすぐられる愛らしさ。

イフはこれまで私を幾度となく支えてくれた。

演奏会で失敗したときや、父に叱られたときや…


「マリア様じらさないでください。」

そんなイフの言葉に遮られて我にかえる。

「いやぁ、じらしているわけじゃないんだけど…」

気付くと一段と雪は勢いを増していた。

「さっさと帰りましょう。」


現代の本では占星術師の探偵の街だったツナシマ。

近未来になった今はうっそうとした林の中の我がハウンド家の私有地である。

私の学校のある、コヅクエからは少し遠く、

セントラルエリアを抜けていかなければならない。


【同日・夜・ニューヨコハマ・セントラルエリア・市街地】

市街地に来るとイフの身の自由を一旦奪わなければならない。

未だに維持派の連中は多く、イフが無残に切りつけられるからだ。

首輪・ウェイト・手錠など。

本当はこんなことしたくない。

それでも、イフは「マリア様のため」と付けてくれた。


円形状の塔――かつてはホテルだったらしい――を回っていこうと

アスファルトすら失って白い地面を歩いていたその時だった。


その塔の上から赤い光線が放たれたと思うと、

光線の一直線上にイフが立った。

銃音。火薬のにおい。倒れるイフ。

イフの胸から赤い液体が飛散したのであった。


予想だにしない襲撃。

イフは私をかばい倒れた。

私はリニアガンを取り出したが、既に居なかった。

そこから私は記憶がない。


【同月21日・早朝・ニューヨコハマ・セントラルエリア・ハウンド記念総合病院】

うとうとしていたが、いわゆる薬品臭で目が覚めてきた。

……そうだ。あのとき、イフがやられて、私が運んで…それから……

ぼやけた視界が一点に結ばれて、父の顔が見えた。

「無茶するなよ、マリア。」

そうか。私、輸血したんだった。

「心配するな、イフリートは大丈夫だ。」

一旦ほっとして病室へ行こうとしたが、

「一回落ち着け。話を聞かせてもらうよ。」


「しかし、イフリートを刺した連中はフェルリン派の奴らだったみたいだ。」

フェルリン派は、狼・犬系の維持派政党の事を指す。

私設傭兵隊を持つらしい組織だ。


「なぜそんなこと分かったの?」

私が探りを入れると、父は、

「銃が17式だったようだからな、あんな旧式使うのは傭兵隊を持つ奴ぐらいだろう」

ここらではみんなリニアガンを使っているから普通は近代の銃は使わない。


そんな話をしていると3番目の兄、リオンが姿を見せた。

旧人類のトミーも一緒だ。


リオンは旧と新人類を繋ぐ共生官である。

こうした事件の処理もリオンの仕事である。


「また厄介な案件ですねお父さん。」

私の頭を撫でながらそう言う。

「では任せるぞリオン・マリア。」

忙しい人なので、すぐに走って出て行った。


父が行った後、少しの沈黙があって、

「さて、時にマリア。」

リオンがしゃべる一方、トミーはベンチに腰を掛けていた。

「な、何?」

「襲われた理由は何だと思いますか」

そっけない質問だ。

「旧人狩りでしょうね。」

「それは、違いますよ。襲われたのはあなたですからね。」


私?

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