19# 精霊憑きのファラティアナ
フォルは走っていた。
無意識に足に魔力を宿し、常人では出せない速度で。
ノルンと再会を果たし、その際に一緒に居たカルロスから言われた言葉。
ローファスはもう戻らない。
それを聞いたフォルが最初に抱いたのは、寂しさでも、悲しさでも無く、憤りだった。
フォルの命を救い、ローグベルトを救い、そしてもう会えないと思っていた幼馴染のノルンまで救われた。
感謝しても仕切れない程の恩。
なのにローファスは、礼一つ、ありがとうの言葉一つ受け取らずに、何も言わずに去ろうとしている。
なんて、身勝手で自分本意な奴だ。
それが無茶苦茶な論理である事はフォルも理解している。
そもそも、助けられておいてこの言い草では、こちらの方こそ身勝手極まり無い。
しかし、このまま何も話せず、顔すら合わせずに別れるのはどうしようも無く嫌だった。
そして、それを後押しするかの様に、ノルンが微笑んで言った。
「フォル、行っておいで」
その言葉を聞いたフォルは、駆け出していた。
後ろから呼び止める、ログやグレイグの声を振り切って、村の外へ一直線に。
走って、走って、走って、ただひたすらに走り続けた。
ローファスが何処に向かっているのかも聞いていない。
それでも、フォルは自分の進む先にローファスが居る事を疑わなかった。
それはまるで、何かに導かれる様に。
フォルは岩山を越え、森を越え、その先にある広がる丘に辿り着く。
丘を進む一台の馬車。
馬車にはローファスが教えてくれた、ライトレスの紋章が刻まれている。
そして御者は、昨日ローファスを治療していた黒髪の女治療術師——ユスリカだ。
間違い無く、ローファスが乗る馬車だ。
追い付いた事に喜び、フォルは息も絶え絶えに馬車に駆ける。
しかし、それに気付いたユスリカがそれを阻む様に立ち塞がった。
「待ちなさい。貴女は確か、ローグベルトの……若様に何か御用ですか?」
「ローファスと、少し話がしたい。通してくれ」
それにユスリカは僅かに目を細め、静かに首を横に振る。
「申し訳ありませんが、若様より誰も入れるなと命ぜられております。ここを通す訳にはいきません」
「頼むよ…まだ、何も…ありがとうすら、言えて無いんだ…」
フォルに頭を下げられ、ユスリカは気の毒そうに目を逸らす。
「…すみません、通せません。ただ、今の言葉は、確かに若様にお伝えします」
当然の拒否。
フォルは深く息を吐き、何か決意した目でユスリカを見据え、腰に下げた
「なら、悪いけど押し通るしかねえ」
鞘から刃を抜いていないとは言え、剣を向けられたユスリカは短く溜息を吐く。
そしてカルロスに対し、心の中で疑問を呈する。
——
剣を抜かれたユスリカは、それに対して腰からワンドを抜く。
「…本気ですか? 騎士に武器を向ける等、切り捨てられても文句は言えませんよ」
「なら退いてくれよ」
「会話になりませんね。今からでも、何もせず立ち去るならば見逃しますが?」
フォルはその申し出に対して、
それをワンドで受け、押し合いとなる。
ユスリカは今の瞬間的なやり取りで、常識外れのその腕力から、フォルが魔力持ちである事を察した。
そして押し合いは不毛と即座に判断し、
「…!」
剣を容易く弾かれたフォルは、めげずに
武器を打ち合わせる度にひしひしと感じる圧倒的な実力差、技量差。
そもそもフォルは、戦闘経験があると言ってもそれは魔物相手の話。
対人戦に関しては殆ど経験が無い。
対するユスリカは、対人戦闘のスペシャリストである暗黒騎士だ。
元より、勝負にもならない戦いだった。
「お前、強過ぎだろ…治療術師じゃねえのかよ…」
「これでも一応、暗黒騎士ですので。その気になれば、オークの群れ位ならこのワンド一つで潰せますよ。まあ、二度としたくはありませんが」
軽口を叩きながらも、ワンドで剣を弾き飛ばすユスリカ。
飛ばされた
ワンドがフォルに向けられる。
「逃げるなら、追いませんよ」
冷ややかなユスリカに、フォルはそれでも引かない。
「誰が逃げるか」
「…こんな所で女性を気絶させるのは気が引けるのですが、致し方ありませんね」
無慈悲に振り上げられるワンド。
「出来るだけ痛くしませんので」
ユスリカの僅かに優しさの混じった声と共に、ワンドが振り下ろされた。
「…ッ」
覚悟し、目を固く瞑るフォル。
しかし、衝撃がいつまで経っても来ない。
フォルが恐る恐る目を開くと、ユスリカは水の壁の様な物に覆われており、ワンドもそれが障害となり振り下ろせずにいた。
「なんだ、これ…」
フォルは目を見開く。
ユスリカを覆うのは、高度な魔法術式が編み込まれた水の籠。
「なっ、これは…!?」
ユスリカも突然の事に驚き、まさか敵襲かと周囲を見回す。
しかし周囲には、他に人影は見当たらない。
ふとフォルが、空を見上げると、そこには見覚えのあるタツノオトシゴがふわふわと宙を漂っていた。
青白く発光するタツノオトシゴ——海を司る水の高位精霊ルーナマール。
物語ではファラティアの相棒として行動を共にしていた精霊だ。
「なんで、お前がここに…」
ルーナマールは、魔の海域で、フォルがローファスと共に漂流していた所を付近の島まで導き、洞穴に案内してからはいつの間にか姿を消していた。
以降姿を見せなかったが、それが今目の前に居た。
「これ、お前の仕業か…?」
ユスリカを覆う水の籠を指して問うフォルに、ルーナマールは退屈そうにそっぽを向き、丸まった尻尾を伸ばし、その先でローファスの居る馬車を指し示す。
それはまるで、早く行けとでも急かすかの様に。
「…! 助かった、恩に着る!」
魔の海域に引き続き、何故助けてくれたのかは分からないが、フォルからすれば渡りに船。
フォルは、水の籠に閉じ込められて動けないユスリカの横を通り抜け、馬車の前に立つ。
「く、待ちなさい!」
ユスリカの声が響くが、フォルは構わず馬車の扉に手を掛ける。
そして、呼吸を整えると、フォルは馬車の扉を開け、中に入った。
*
水の籠に囚われたユスリカは、馬車に入り込んだフォルを見て舌を打つ。
水の籠を破壊するべく、幾度もワンドで殴打するが、高度な術式が込められており、衝撃を散らされ、びくともしない。
ユスリカは、水の籠を作り出した張本人であろう、宙に浮くタツノオトシゴ——ルーナマールを見る。
「精霊…」
ユスリカの目から見ても、かなりの力を内包しているのが分かる。
水の籠の中は、水で満たされている訳では無い為、どうやら殺す気はない様だが…。
これ程の精霊が、何故フォルを助ける様な行動を?
精霊が気まぐれなのは広く知られる事で、人を助ける事もあれば、その逆に人に仇をなす事もある。
しかし、それにしても…。
ユスリカが抱くのは疑問。
精霊のこの行動は、いくら何でもフォルに寄り過ぎたものだ。
気まぐれと言えばそれまでだが、見るからに水系統の精霊が、海が近いとは言え、水場の無いこんな所に居ると言うのもおかしな話だ。
「まさか——精霊憑き…?」
フォルに対し、疑惑を抱くユスリカ。
精霊憑きとは、特定の精霊に気に入られ、側に憑かれている者の事を指す。
しかし、ローグベルトでフォルを見た時には、近くに精霊の気配は感じられなかった。
ずっと憑いている訳では無い?
「…よく、分かりませんね」
考えても無駄と断じ、ユスリカはワンドに魔力を込める。
竜種の堅牢な鱗すら叩き割る全力の一撃——それをユスリカは放った。
術式が散らし切れなかった衝撃が、水の籠全体を震わせる。
しかし、水の籠を破壊するには至らなかった。
「これも駄目ですか…」
渾身の一撃でも罅すら入らない水の籠に、ユスリカはうんざりした様子で天を仰ぐ。
そして、腰に下げたもう一本のワンドを取り出すと、それぞれを両手に構え、魔力が込められていく。
「疲れるのは嫌なのですが、仕方ありません。今の感じなら、千発も打てば崩れるでしょう」
ギョロッと、初めてユスリカに目を向けるルーナマール。
直後、水の籠に、凄まじい衝撃が絶え間無く響き渡る。
*
「ローファス…?」
馬車の扉を開け、中に入ったフォルが目にしたのは、椅子に腰掛け、すやすやと寝息を立てるローファスだった。
起こそうとローファスの肩に手を掛けようとして、フォルはその手を引く。
思えばローファスは、夜に寝ていないのだ。
ノルンがローファスに助けられ、村に戻ったのはつい先程の事。
つまりローファスは、昨夜宴の後にフォルを家まで送り届けた後、その足でノルンの救出に向かった事になる。
夜通し掛けて、寝る事もせずに。
それを思えば、起こせる筈など無かった。
フォルは、ローファスの真向かいの椅子に腰掛け、頬杖を突いてローファスの眠る姿を眺める。
「なんで…」
そこから先は、言葉にならなかった。
ローファスに言いたい事、聞きたい事が沢山あり過ぎて、一言では言い表せなかった。
なんで、ローグベルトの為にここまでしてくれたのか。
なんで、左腕を失ってまで自分を助けてくれたのか。
なんで、ノルンの事まで助けてくれたのか。
そして、なんで、何も言わずに去ろうとしたのか。
なんで、なんで…。
「…」
ローファスと、話したい。
そんな思いが、フォルの心を満たした頃、馬車に衝撃が響いた。
「えっ」
フォルは乗り出す様に、馬車の窓から外を伺う。
幸い、ユスリカを覆う水の籠は破られていない様だが、凄まじい衝撃だった。
水の籠から脱出する為、ユスリカの放ったものだろうとフォルは当たりを付ける。
——やっぱ、あの騎士ヤバいな…
フォルが戦慄していると、ふと、ローファスの寝息が聞こえない事に気付いた。
「…あ」
今の衝撃で目を覚ましたのか、何とも言えない目でフォルの事を見るローファスと、目が合った。
「…お、おはよ」
思わず朝の挨拶を口走るフォルに、ローファスは溜め息を吐く。
「…何故、貴様がここに居る。ユスリカはどうした」
「あの女騎士なら、色々あって外にいる」
思わず窓の外に目を向けるフォルの視線を気取り、ローファスも窓から外を見る。
ローファスの目に写るのは、水の籠に囚われ、それに向かってワンドを振るうユスリカと、宙を漂う青白く光るタツノオトシゴ。
ローファスは何と無く状況を察し、またも溜め息。
「ルーナマール…成る程な」
ユスリカを気の毒そうに見るローファスに、フォルは小首を傾げる。
「あいつの事知ってんのか?」
「逆に、何故貴様は知らんのだ」
「いや、あんなタツノオトシゴ、アタシが知る訳ねえだろ」
呆れ顔のローファスに、むすっと顔を顰めるフォル。
顔を顰めつつも、そんなローファスとのどうでも良いやり取りが楽しく、自然と顔が綻ぶ。
しかしローファスは、その雰囲気に早々に終わりを告げる。
「で、貴様は何をしに来た」
「何をって……なんで、何も言わずに行こうとしたんだよ」
「それを態々聞きに来たのか?」
「うるせえな。答えろよ」
「…」
ローファスは暫し沈黙し、口を開く。
まるで、言葉を選ぶ様に。
「貴様に会う必要性を、感じなかったからだ」
フォルは、その突き放す様な言葉に、歯を噛み締める。
思わず込み上げて来る涙を抑え、ローファスを睨んだ。
「…アタシの事、嫌いなのか?」
「嫌いだ、大嫌いだ」
返ってきたのは、抑揚の無いローファスの心無い言葉。
フォルは衝動的にローファスの胸ぐらに掴み掛かる。
そして、睨みながら一筋の涙を流した。
フォルは、まるで泣き顔を隠す様にローファスの胸に頭突きし、そのまま力無く顔をうずめる。
フォルは、消える様なか細い声で呟いた。
「…アタシは、ローファスの事好きだ——大好きだ」
「——ッ」
意図せぬ突然の告白に、動揺して目を逸らすローファス。
「馬鹿な、事を…まだ、会って二日だぞ」
「関係ない」
「俺はまだ12歳だ」
「関係ない」
「俺は貴族で、貴様は平民…」
「関係ない」
「俺と貴様では住む世界が違う」
「関係無いッ!」
フォルはがばっと顔を上げ、泣き腫らした目でローファスを見つめる。
そして、ローファスの頬を両手で優しく触れた。
「手を伸ばせば触れる。ほら、アタシとローファスは今、同じ世界に居る。違う世界なんかじゃない」
ローファスは、感情を噛み殺した様に、抑揚の無い声で言葉を紡ぐ。
「そう意味で言ったのではない」
「——分かってるよ…」
フォルは再び、ローファスの胸に顔をうずめ、その背中に手を伸ばして抱き締める。
「——でも好きだ。例え嫌われても、アタシはローファスの事が好きなんだ。それは世界が違っても変えられない」
フォルの感情に触れたローファスは、その心を大きく揺さぶられる。
ローファスは、抱き締めてくるフォルの肩にそっと手を掛けた。
「フォル、俺は——」
ローファスがその先を口に出そうとした瞬間、馬車の扉が勢い良く開け放たれた。
そして、酷く憔悴した様子のユスリカが、馬車内に足を踏み入れる。
どうやら、水の籠はユスリカの強力な連撃の前に破られた様だ。
ユスリカは馬車に入るなり、頭を下げる。
「遅くなり申し訳ありません! 若さ…」
頭を上げたユスリカは固まる。
馬車の中にて、ローファスを抱き締めるフォル。
そして、それを受け入れるかの様な雰囲気のローファス。
フォルは見る見る内に顔を紅潮させ、ローファスは残念なものを見る様な目でユスリカを見る。
ユスリカは動揺し、視線を逸らした。
「……お邪魔、でしたか…?」
漸く捻り出したユスリカの言葉に、ローファスは深い溜息を吐く。
「そうだな、邪魔だ。外で待っていろ」
「…………御意」
長い沈黙の末、ユスリカは露骨に肩を落として出て行った。
閉められる扉。
こうして馬車の中は、再びローファスとフォルの二人きりとなった。
今更ながらに自分が何をしているのか気付いたのか、顔の紅潮が引かないフォル。
ローファスはそんなフォルの左の頬を、ふにっとつねって伸ばした。
「——いへへへ! ローファふ!?」
「よく伸びるな」
頬をつねるのを止め、笑うローファス。
フォルは赤く腫らした左頬を摩りながら、涙目で睨む。
「何すんだよ! こっちは真剣に…」
ローファスは呆れた様に肩を竦める。
「人に抱き付いて好き好き連呼しておいて、何が真剣か」
「し、真剣だっつの! てか、さっき何か言い掛けてたろ…あれ、何て言おうとしたんだよ…」
もじもじと視線を合わせれないフォルに、ローファスは首を傾げて見せる。
「さあな。忘れた」
「忘れたって…いやいや、思い出せよ!」
「そもそもだ。俺には侯爵家嫡男と言う立場がある。どうあっても、平民である貴様の気持ちに応えられる訳がないだろう」
「なら、この気持ちはどうしたら良いんだよ」
「きっぱりと諦めるか…」
「それは嫌だ」
「…ならば、貴族にでも成り上がって出直す事だな」
フォルは、目をぱちくりと瞬かせる。
「貴族…」
反芻する様に呟くフォルに、ローファスは笑って見せる。
「嫌いな貴族に成るのは嫌か? ならば諦める事だ。身分が平民では、侯爵家嫡男の婚約者にはどう足掻いても成れん」
「いや、成るよ」
「あ?」
「貴族に成るから」
「貴様…自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「分かってるよ。貴族に成れば、ローファスはアタシの気持ちに応えてくれるんだろ?」
「は? いや。いやいや待て、仮に貴様が貴族になっても、俺が貴様の気持ちに応えるとは言ってな…」
「いーや、言った! 貴族になったら気持ちに応えるって言った! 自分の発言に責任待てよ! 貴族だろ!?」
「フォル、貴様…」
呆れた様に天を仰ぐローファスに、フォルは勝気に笑い掛ける。
「それに、知ってるか? アタシの爺ちゃんの代は、船乗りじゃなくて海賊やってたんだ。ローグベルトの海を荒らし回る、結構名の知れた海賊だったらしいぜ?」
「…急に何の話だ」
「だからさ、アタシの血にも海賊の血が流れてんだよ。海賊はさ、欲しいものは何でも手に入れる。どんな手段を使ってもな」
フォルは、じっとローファスを見つめる。
「だから、ローファス。逃げられると思うなよ。アタシはどんな手段を使っても、絶対にお前を手に入れるから」
いつに無く真剣なフォルの目に、ローファスは顔を引き攣らせる。
「止めろ貴様、拉致予告にしか聞こえんぞ」
「それと…」
フォルは改まった様にローファスの手を取ると、両手で包む様に握る。
「ありがとな」
「なんだ、急に」
訝しげに目を細めるローファスだが、フォルは構わず続ける。
「アタシの村を…ローグベルトを救ってくれて、ありがとう。魔物討伐を買って出てくれて、ありがとう。船乗り皆を助けてくれて、ありがとう。アタシの命を救ってくれて、ありがとう。あの鯨を倒してくれて、ありがとう。ノルンを救い出してくれて、ありがとう」
フォルの口から繰り返される感謝の言葉。
フォルはひとしきり言い終わると、そっとローファスの胸に頭を預ける。
「聞いてくれて、ありがと。ずっと言いたくて、言えなかった事だ」
「——そうか…」
ローファスはそれを噛み締める様に天を仰ぎ、そっとフォルの頭に、撫でる様に手を乗せた。
そして意を決した様に口を開く。
「…魔の海域で海に投げ出された時、フォルが居なければ俺は死んでいた。あの時一緒に来てくれて…その、助かった」
ローファスから出た、思わぬ感謝の言葉に、フォルは顔を上げて目を丸くする。
顔を真っ赤に染め、感極まったフォルは、縋り付く様にローファスに迫った。
「ローファス」
「なんだ」
「…キス、して良いか」
「駄目に決まっているだろうが」
冷ややかに拒否するローファス。
だが、フォルはそれでも構わず、ローファスの首に手を掛け、引き寄せた。
限りなく接近するローファスとフォルの顔。
そして唇と唇が、今正に重なり合う——
——その刹那。
フォルの唇は、紙一重で半透明の膜の様なものに遮られていた。
それは、高密度の魔力が練り込まれたローファスの魔法障壁。
フォルはゆっくりと顔を離すと、何が起きたのかを把握して「ハハッ」と自嘲気味に笑い、直後に絶叫した。
「——信ッじらんねええええ!!!」
隻腕故、右耳だけでも塞ぐローファス。
馬車の外でビクッと肩を震わせるユスリカ。
馬車の中では、収まりのつかないフォルの怒声が響く。
「今の流れで止めるとか、どういう神経してんだローファスお前!」
「貴様こそ、貴族相手に何をしようとしている。普通に犯罪だぞ」
「うっせえ! 二回目なんだから良いだろうが別に! 減るもんじゃねえだろ!」
「二回目だと!? なんだそれはどう言う事だ!?」
「大体お前、アタシの裸だって見たんだから責任取れよ!」
「あれは救命処置だったのだろう!」
馬車の中から響く二人の怒声。
内容が内容なだけに、これは聞いたらまずいやつだとユスリカは死んだ目でそっと耳を塞いだ。
その二人の声は、それから暫くは馬車の外——丘中に響き渡った。
その後、ローグベルトの住民達に、奴隷から保護した住民を港町の教会で保護している旨を説明し、後を追って来たカルロスが仲裁に入ると言った一幕もあり。
フォルと別れ、本都への帰路に着くローファスの様子は、心無しか少し寂しそうであった。
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