第7話 見合い開始 2-4
そして、羽柴莉緒が水野と牧田の入ったアンディーとお見合いをするために、新見家にやってきた。
かわいい!
莉緒を初めて目にしたケンディーの中の奏太は、跳び上がらんばかりに喜んだ。
こんなかわいい娘と一週間過ごせるなんて、何てラッキーなんだろう。
だが、すぐにその高揚した気分はひしゃげてしまった。
莉緒が兄の研二に好意をもっていることは、兄から聞いて知っていたはずだった。
実際の莉緒を前にして、彼女が兄を異性として思っているだけではなく、その眼差しには同じ研究者や技術者としての憧れや尊敬が混じっていて、まだ何も成し遂げてはいない未熟な男がアタックしても、容易に翻ることはないだろうと分かってしまったからだ。
ついつい対抗意識を燃やして、ケンディーの中で兄として振舞うよりも自分らしさを出しまい、研二にあまりしゃべるなと諫められた。
その途端、何だよ、莉緒ちゃんを自分の彼女にする気もないくせにと反抗心が起きる。
「新見さんは、二重人格みたいね」
莉緒の言葉にしまったと思ったけれど、面白がっているのが分かって、ひょっとしてひょっとすると、奏太として会ったときにイケるかもと期待を持った。
一回りも歳が違う兄は、奏太が真似ようと思ってもとうてい無理だと感じるほど、男としての落ち着きと知性を漂わせている。
同じ親から生まれたのに、奏太はスポーツマンタイプの野生味を帯びた顔をしているためか、当然好意を寄せられる女性のタイプが違う。自分に寄ってくるのは外見が派手で、いわゆるパーティーピーポーと呼ばれる今を楽しむことに精力的な女性が多い。
最初こそ誘われるままに付き合いはしたけれど、流行の中に身を躍らせるばかりで芯を持たない彼女たちに、奏太は次第についていけなくなった。
構ってくれないと悟った途端に女性たちは、研究に没頭する奏太を地味でつまらない男だと悪く言って去っていった。
そんな苦い経験から、もしかすると同じ技術研究に携わっている莉緒ならば、自分を理解してくれるのではないかと希望を持ったのだ。
だが、いくら奏太が自分を認めさせたいと思ったとしても、外見は研二なのだから上手くいくはずがない。
「ねぇ、ケンディーは家では普段どんなことしているの?」
身を乗り出す莉緒を見て、仕草の可愛さに思わず目を奪われたが、兄への一途な思いからの問いかけに、やっぱり自分が入り込むすきはないかという諦めが薄い笑顔を作り出す。
「大学の仲間たちとパルクールを楽しんでいます」
「えっ? 新見さんは、兄と同学年だから、今三十二歳ですよね? 大学の仲間たちって……」
「あっ、ああ、すみません。大学時代の仲間たちです。ついつい彼らの話をすると年代を忘れてしまって……ははははは…はぁ~」
莉緒に怪訝な目を向けられたのにつけ入るように、無視をされていた水野アンディーが質問を投げかけた。
「羽柴社長もやられていたのでしょうか? パルクールって街中にあるものを忍者みたいによじ登ったり、途切れることなく走り回ったりするスポーツですよね? 私は今二十八歳ですが、さすがにあの激しい動きはできないと思います。新見博士は、研究室に閉じこもっているイメージがあったのですが、とても意外です」
ガチャンと派手な音を立てて、茶と菓子の載った盆がティーテーブルに置かれた。
湯呑から茶たくにお茶がこぼれて、みんなの意識がそちらに向く。
テーブルの上に乱暴に盆を置いた張本人をケンディーが恐る恐る見上げたが、研二の怒りの視線とぶつかり、慌てて俯いた。
「そそっかしくてすみません。手が滑ってしまって……ケンディーお茶を淹れ直してきてくれるか?」
「う、うん」
そそくさとお盆を持って立ち去るケンディーに代わり、研二が莉緒の隣に腰かけた。
「すみませんね。ケンディーの内臓カメラでダイレクトに顔を写し取らせている最中に、パルクールの映像がパソコンで流れていたんです。ああいうのができたら、障害物などを迂回をせずに、カッコよく乗り越えられて面白いだろうなと言ってしまったのが、なぜだか趣味として入ってしまったんです。水野くんのアンディーは、一応本人に確認したのですが、そうした入力違いは無いようですね」
「はい。大丈夫です。私は水野さん自身を正確に再現しています」
「莉緒ちゃん、実を言うとケンディーは、アンディーのプロトタイプとは違う機能を試みている未完成品なんです。申し訳ないけれど、一旦休ませますね」
「ええ~っ。もうケンディーはおしまいですか? 代わりに新見さんが一緒にお話しして下さるんですか?」
「僕はケンディーのチェックをしてくるので、水野アンディーから牧田アンディーに切り替えておきましょうか? 彼も羽柴の優秀な部下だと聞いています。そのテーブルの上のリモコンで切り替えられるので、操作を教えましょう」
研二が簡単な説明をして、ディスプレーの牧田計也を選ぶと、外見が爽やかで話術巧みな押しの強い水野政人アンディーの瞳が閉じられる。すると、髪がベリーショートへと縮み、毛先まで整えた眉毛の周りに毛が生えて太眉になり、目じりが少し上がって、えらが張ったベース顔へと変化を遂げる。
確か水野より一歳年下の二十七歳のはずだが、外見上は五歳年上の新見よりも年上に見え、良く言えば実直そうで、悪く言えば頑固そうな印象を受けた。
水野が自分の顔を写し取ったアンディーのために選んだブランド服が、牧田にはまるで似合っていないことや、服を見て顔をしかめる牧田アンディーの様子から、普段来ている服がまるで違うのだろうということが見てとれた。
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