第43話 それぞれの結末・首謀者。
それぞれの結末・首謀者
リリアナ・セラーズ侯爵令嬢&セラーズ侯爵夫妻。
まずは、リリアナ・セラーズ侯爵令嬢。
彼女の罪は、明らかにはしなかった。
罪を明らかにしてしまえば、ジーク殿下や多くの令息達が、愚かにも騙され、毒に害された事実まで、明らかになってしまうからだ。
だから、彼女の罪は、明らかにはしなかった。
けれど、リリアナ侯爵令嬢の罪は、明らかには出来ないだけで、確かに被害者は存在しているし、彼女の罪が消えるようなことは無い。
それに、被害者達が忘れるわけではない。
しかし、たとえ被害者達が忘れなかったとしても、セラーズ侯爵令嬢・リリアナ嬢が必死に主張していた様に、この事件には侯爵令嬢を検挙出来る程の、明確な証拠は残っていなかった。
彼女の施した隠蔽は、ベルトハイドさえ黙秘をすれば、事件関与を握り潰せる程、完璧なものであった。
もし仮に、ベルトハイド以外の他者が、彼女の罪を強引に追求した場合、菓子を食べて毒に侵された令息達だけが、唯一、侯爵令嬢を追求出来る、証拠になり得ただろう。
だが、その唯一の可能性でさえも、今では存在しない。
被害者達は、どこかから秘密裏に、高価な治癒のポーションを入手し、治療を施し、症状が完治してしまっている。
現在の元気な令息達では、証拠にはなり得なかった。
それに、被害者の親達も、自分の息子が毒を盛られ、おかしくなった話を、わざわざ蒸し返し、敢えて辱めを受けるさせる、そんなくだらない事をするような、貴族の親は存在しないだろう。
▼△▼
けれど、彼女の罪を追求出来なかったとしても、被害者達が被害を受けた事を、忘れるわけではない。
だから、セラーズ侯爵が爵位を返上する前に、被害に遭った各家に、幾らかの金額を名目なく支払っている。
それは、多くは無いにしても、少なくも無かった。
そして更に、ベルトハイド公爵家が、被害者達に対して、【マーテル男爵夫妻が、手下を使って毒を盛ったことが判明した。彼等はすでに捕らえられ、追及を受けている】と、説明した。
だから、セラーズ侯爵家やリリアナ嬢に対して、意を唱える被害者は、1人も居なかった。
▼△▼
後はもう1人。
忘れてはいけないのは、最も高貴な被害者の親である、王妃様だ。
リリアナ嬢は、本来なら処刑され、一族ごと斬首のうえ、晒し首にされるような罪を犯している。
その罪を明らかにせず、闇に葬ったのだ。
彼女は確かに犯罪を犯していて、被害者も存在している。
たとえ事件を闇に葬ったとしても、彼女が罪を償わなくても良いわけではないし、彼女がのうのうと生きる事を、王妃様は許さない。
だから彼女は、本来なら死をもって償う罪を、生き続ける事で償う事になった。
その為に、最も厳格で、最も過酷な修道院へと収容された。
リリアナ嬢が入った修道院は、修道院とは名ばかりで、犯罪者や無法者を公正させる為の、とても厳しい施設だった。
その場所で彼女は、若くて綺麗な全ての時間を、自由無く、自死も許されず、ただただ自身を顧みて、犯した罪を反省し、生きていく事になる。
そして彼女は、セラーズ侯爵夫妻が返爵した事により、リリアナ・セラーズ侯爵令嬢から、ただのリリアナ・セラーズになる。その状況は、プライドの高い彼女には、さぞかし屈辱的であろう。
泣いて、叫んで、悔いて、憎んで、嘆いて、絶望するかもしれない…。
それでも彼女に、助けは来ないし、同情もされない。
彼女はこれから何をしても、どんなに反省をしたとしても、過去の彼女の罪からは逃がれられない…。
甘やかな環境で、穏やかに生きてきた彼女にとっては、きっと、死にたくなる程、辛いだろう…。
更に、彼女が逃げ出さないように、ずっと監視が出来るように、彼女はこの国から出る事を禁止された。
そして、セラーズ侯爵夫妻には、リリアナ嬢との接触禁止が言い渡された。
以上が、リリアナ嬢が犯した罪を、闇に葬る代わりに、王妃様が妥協した条件であった。
本来なら、家門ごと晒し首になるような罪なのだ。
セラーズ侯爵夫妻は、この条件を受け入れた。
娘の命が助かるのならと、何もかも投げ打って受け入れた。
そして、セラーズ侯爵夫妻は、慰謝料の代わりとばかりに、贖罪の気持ちを込めて、爵位と領土を王国に返還した。
その後、彼等はなぜか、急ぎ他国へと旅立った。
この出来事は、実質的に王の直轄領を増やし、国庫を潤した。
▼△▼
彼等が迎えた結末は、完璧に幸せな結末では無いかもしれない。
けれど、セラーズ侯爵夫妻とリリアナ嬢が、今も生き続けらていられる事は、ベルトハイドの協力無くして、実現不可能だっただろう…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます