【短編小説】宇宙の旅人

Yusuke Eigo

1章:旅

美琴「ねぇ、おじいちゃん」


ひろ「うん?」


美琴「おじいちゃんは昔、地球に住んでいたって本当?」


ひろ「あぁ、本当だよ。でも、急にどうしたんだい?」


美琴「昨日、お母さんから聞いてびっくりしたの。お母さんもお父さんも、地球に行ったことがないって言ってたから」


ひろ「そうだったんだね。といっても、美琴が生まれるずっと前のことだけどね」


美琴「どうして地球から宇宙に出ようと思ったの?怖くなかったの?」


ひろ「そりゃあとても怖かったよ。不安もあったしね」


美琴「そうだったんだ。おじいちゃんにも怖いものがあったんだね」


ひろ「ハハハ、もちろんさ。あの頃は、地球を本当に離れるか、たくさん悩んだけれどね。でも・・・最後は勇気かな」


美琴「勇気?」


ひろ「そう勇気。うーん、そうだ。一つ例え話をしよう」


美琴「例え話?」


ひろ「美琴は江戸時代って知ってるかな?」


美琴「江戸時代って、おじいちゃんが地球で住んでいた国、日本のこと?」


ひろ「そうだよ。でも、おじいちゃんが生まれるもっと昔。今から500年前くらい、日本で始まった時代のことだね」


美琴「うん」


ひろ「その当時、どれくらいの人が日本に住んでいたと思う?」


美琴「住んでいた人?うーん、500年も昔だったら、1,000人くらい?」


ひろ「うーん、1,000人だと少ないかな。実はもっと多くてね、おおよそ3,000万人とされているんだ」


美琴「さんぜんまんにん?それってすごいの?」


ひろ「美琴やおじいちゃんが住んでいるこの冥王星第3スペースコロニーが約100万人の規模だから、それが30個分あると考えると分かりやすいかな」


美琴「こんなに大きなコロニーが30個も?うわぁ!すごいね!」


ひろ「それで、どうしてこの話をしたかというとね」


美琴「うん」


ひろ「その江戸時代を生きていた人たち。その中で、何人が今も日本に住んでいるか分かるかな?」


美琴「今も?」


ひろ「そう、今も」


美琴「えーと・・・さんぜんまんにん?もいると、きっとたくさんいるのかな?」


ひろ「そう思うよね。でも答えはね、ゼロ人なんだ」


美琴「ゼロ?どうして?みんないなくなっちゃったの?」


ひろ「そうだよ。みんないなくなってしまった」


美琴「みんなどこにいるの?」


ひろ「みんな、旅に出たんだよ」


美琴「旅?」


ひろ「うん。ある日にね、おじいちゃんはそのことに気がついたんだ。人はみんないつか旅に出るって。そう考えると、宇宙に行く不安がどこかにいってしまったよ。むしろ1分1秒でも早く、自分の子供の頃からの夢だった宇宙に行かなきゃって思えたくらいだ」


美琴「そうだったんだ。おじいちゃんは怖かったけど、宇宙に出発して夢が叶ったんだね」


ひろ「そうだよ。地球からの移民船に乗ってね。あとね、宇宙に来たおかげでもっと良いこともあったよ」


美琴「良いこと?」

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