可愛い妹は俺のソレを握らないと安心して眠れないそうです……。未祐side
「うにゃお、にゃお」
カリカリとドアを引っ掻く音で目が覚めた。
騒音の正体は分かっている、きっと飼い猫のムギだ。
いつもなら叱る所だけど今回はムギに感謝だ、怖い夢にうなされていたから。
母親が布団を新調してくれて快適な筈なのに、結構寝汗をかいてしまった。
布団を剥ぎ取った身体に、部屋の冷気が心地良く感じられた。
スマホを探そうとベット脇を探す、ふと壁に掛けられた制服に視線が止まる。
特徴的なセーラーブレザー、上着の裾からチェックのスカートが顔を出す。
「制服やっぱり可愛いな……」
これを着るために私、
……難関の名門私立女子校に合格するために。
「ムギなあに、ちゅーるなら寝る前に食べたでしょ?」
ドアを開けると横綱級のお腹を揺らしながら部屋に
私の足に激しく胴体や尻尾を擦りつけながらいつものおねだりをする。
「まったくしょうがないなぁ、カリカリをちょっとだけだよ」
こうなると少量でも餌を貰わないと切ない声で泣き続けてしまうんだ。
近所迷惑になるのでキャットフードを少量あげることにする。
「また、
お兄ちゃんに叱られる場面を想像して何故だか顔がほころんでしまう。
「やだ私、何でニヤニヤしてるの? 馬鹿みたいじゃん……」
耳まで真っ赤になった自分の顔が部屋の鏡に映る、お兄ちゃんのことを考えると最近の私は変だ。ムギにまとわりつかれながら部屋に置いてある猫用の餌置きに向かう。
「ほら、食べたら寝床に戻ってね、ムギ」
餌をすぐに平らげるとムギはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
まったく猫って現金だな、用が済んだらお愛想はしないんだ。
私もムギを見習いたいな、自分の性格を猫か犬に例えたら、
自分は絶対に犬だ。大好きなお兄ちゃんの顔を見ると、
ワンコみたいに尻尾をちぎれんばかりに振ってしまう……。
あっ、もちろん想像上のしっぽだけどね、念のために言っとくけど。
高ぶる気持ちを落ち着けながらもう一度ベッドに入る。
もう怖い夢は見ないといいんだけどな……。
中学まではお兄ちゃんと一緒の部屋で寝ていた。
両親やお兄ちゃんには一人が怖いからと無理を言って私が押し切ったんだ。
怖い夢を見ると眠れなくなってしまうのは小学生の頃からなのは全部が噓じゃない。でも夢のことは半分ホントで半分嘘なのは私だけの秘密だ……。
高校生になっても本当はお兄ちゃんと一緒のベットで眠りたいな。
最近、怖い夢を見ることが増えてきたから? 本当はそれだけじゃないんだ。
両親にもお兄ちゃんにも絶対に言えない秘密、それは……。
拓也お兄のことが好き、兄妹としてじゃなく異性として。
今でも鮮明に思い出す。お母さんに連れられてこの家を初めて訪れた日のこと。
初めて会うやんちゃそうな男の子は照れくさいのか私の顔を一度も見なかった。
どちらかと言えば初対面では私のほうがずっと大人だったな。
あの夏の暑い日に男の子と私は兄妹になった……。
そのまま深い眠りに引き込まれてしまう。
もう怖い夢は見なかった、あの叫び声が聞こえるまでは……。
*******
「ショコラ、私を一人にしないで……」
「おっ、おわあああっ、な、何、だ、誰だっ!!」
……お兄ちゃんの部屋からだ!?
急いでお兄ちゃんの部屋に向かう。
女の子みたいな声がした、こんな真夜中にまさか誰かいるの!?
すぐ開けて確認したいが考えたくない光景が頭をかすめ、
物凄く怖くなってしまい少しの間、私は
ふうっ……。
深く深呼吸しながらお兄ちゃんの部屋のドアに手を掛ける。
「拓也お兄、うるさくて未祐眠れないんだけど!!」
真っ暗な部屋をかすかな常夜灯の光が照らす。私の目線からではロフトのベッドは見えない。何やらガタガタとロフト付近が騒がしい。
「きゃうっ!?」
なに、何、いま黄色い声したよね、お兄ちゃん以外に誰かいるの!?
「み、未祐か、お兄ちゃん悪い夢でうなされていたんだ、ごめんな」
お兄ちゃんも悪夢を見てうなされていたの!? 可哀想に声も裏返っているみたいだ。私と同じく寝汗を掻いていて風邪でも引いたら大変だ……。
「拓也お兄、大丈夫、変な声だけど汗を掻いて風邪引いたりしたら未祐心配だよぉ」
最悪の想像が外れてほっ、としている自分がいた。あの人と一緒じゃなくて良かった。
「風邪薬、洗面所に用意しておくから忘れずに飲んでね、じゃあ、おやすみ……」
急ぎ足で部屋を後にする。自分でもその
ロフトの階段を上がってお兄ちゃんの顔が見たかった。
昔みたいに一緒の布団で寝れたらどんなに幸せだろう。
きっと顔を見てしまったらその胸に飛び込んでしまうかもしれない。
泣きたいくらいに想っている、それほどお兄ちゃんに恋をしてるんだ、私。
だけど言うのが怖い、だから逃げ出してしまった……。
自分の部屋に戻り泣きながらベットに飛び込む。
高校に入ってからのお兄ちゃんはどこか寂しそうだった。
その
幼馴染みの
彼女と高校が別々になってからお兄ちゃんはすっかり変わってしまった。
悔しいけど私では埋められない。
後から妹になった私よりも長く幼馴染みとしてお兄ちゃんの側にいる。
私の知らない部分も知っているんだ。
一緒にいる時間は妹の私のほうが今では
でも真奈美ちゃんはとても素敵な女の子だ、私にも本当のお姉さんみたいに接してくれる。子供のころから三人でいつも一緒だったし私も真奈美ちゃんのことが大好きだ。だけどお兄ちゃんに関しては絶対に負けたくない。
そんな子供じみた意地から真奈美ちゃんと同じ女子高を受験した。
*******
同じ部屋で寝ていた頃のある日、こっそり私はお兄ちゃんのベットに隠れていたんだ。
普段は二段ベットの下にいる筈の私を見て天井に頭をぶつけて驚いていたっけ。
今、思い出しても吹き出しちゃう!! あの時のお兄ちゃんの顔ったらなかった。
『みっ、未祐、ここはお兄ちゃんのベッドだぞ、また寝ぼけてんのか!!』
自分でぶつけた頭を痛そうに押さえるお兄ちゃんから叱られた思い出……。
『お兄ちゃん、未祐ね、また怖い夢みたんだ、おばけに連れて行かれちゃうよぉ。お願い、お兄ちゃんの布団で一緒に寝かせて……』
『ちょ、おま、ふざけんなよ、同じ部屋で寝るだけって約束じゃないのか、それを一緒の布団で寝るなんて……』
ドキマキしているのが暗闇でも分かる。お兄ちゃん、ホント純情で可愛いな。
『えっ、お兄ちゃんは未祐と同じ布団で寝るの嫌なの、私のことが嫌いなんだ……』
ここは一気にたたみ掛ける場面だ、ごめんねお兄ちゃん。
『そ、そんなことないよ、未祐はかわいい自慢の妹だし嫌いなわけないだろ、だけど……』
『だけど?』
『お前も女の子らしくなってんだから色々マズいの……』
『マズいって何が、お兄ちゃん?』
『そ、それは、あ~~とにかくマズいの、いろいろ俺の事情もあるし、お前はそ、そのすごくいい匂いもするし……』
よし!! 親友の茜ちゃんから貰ったプチプラの香水の効果だ。
柑橘系のいい匂いなんだよ♡ おさかなはあみのなかだ。
『お兄ちゃん、小学四年生のときの夏祭り、おぼえてる?』
『四年生の夏祭りって俺が五年生の頃か……』
神社に向かう長い路地、赤い金魚、わたあめの甘さ、
浴衣の私を見てお兄ちゃんは照れながら言ってくれた。
(そうやってお淑やかにしてれば、ちょっとは女の娘らしいぜ)って、
その言葉を聞いて浮かれた私は、はしゃぎすぎて神社の階段で転んでしまったんだ。
ご自慢の浴衣が泥だらけで泣きべそをかく私に黙って背中を差しだして、
私をおんぶしてくれた帰り道でお兄ちゃんは約束してくれたよね。
『未祐、もう泣くなよ、お兄ちゃんがこれからも守ってやるから』
『本当!! 約束だよお兄ちゃん、痛いことだけじゃなく怖いことからも全部』
『ああ約束するから心配すんな、なんもかもだ!!』
その日から私の中でお兄ちゃんの存在が大きく変わってきたんだ。
『あの日おんぶしてくれたみたいに未祐をぎゅっとして……』
ついに言ってしまった……。やっぱり恥ずかしい。
お兄ちゃんは少しの間、悩んでから私に向かってこう言った。
『おんぶみたいに後ろ向きでもいいのか……』
えっ、後ろ向きって何!?
『おんぶじゃお前の顔が見えないだろ……。そ、その前じゃないと頭もナデナデ出来ないし……』
お兄ちゃんの言っている意味がやっと理解できた。
子供の頃から泣いている私を慰めてくれたお兄ちゃんのあたたかい手。
『泣くな、未祐、あんまり泣くと
そう言ってくしゃくしゃの笑顔で私の頭を撫でてくれた、優しい手のひら。
『お兄ちゃん、大好き……』
*******
私は決意した、自分に正直になるんだ、明日の夜お兄ちゃんの部屋に行こう。
そして昔みたいに一緒の布団で眠るんだ。
私はお兄ちゃんの胸に思いきって飛び込こむ。
想像上のしっぽをちぎれんばかりに振りながら……。
大好きなお兄ちゃんのソレを握らせてください!!
拓也お兄の優しくて大きな手のひらを……。
未祐side おしまい
次回に続く。
☆☆☆お礼・お願い☆☆☆
第二話まで読んで頂き、誠にありがとうございました。
未祐みたいな健気な妹が好き!!
お兄ちゃんとの可愛い恋、応援したい!!
と少しでも思ってくださいましたら、
レビューの星★★★でご評価頂けたら嬉しいです。
つまらなければ星★ひとつで構いません。
今後のやる気や参考にしたいので、何卒お願いしますm(__)m
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