第25話 自立した行動とは

ここは世界の中心にある十三都市に存在するKaus-Australisカウスアウストラリス地区。

厄災とされているcatastropheカタストロフィからの侵攻に備え、都市を守護している4聖人が戦場として指定した場所である。

目の前では、チリチリ毛のイケメンが、遭遇したならず者集団達を次々に問答無用でぶっ飛ばしていく姿が見えていた。

そのならず者達のstatusを『戦術眼』を使用し測定してみたところ、1人を除きゴロツキ全員がlevel9の『F』級の雑魚であり、姿だけはイキっている中身がスカスカな俺と同じクソモブであった。

———————注意すべき者は、人間型まで進化している機械生命体である1個体だけだ。

そいつは、俺達よりも格上となるLevel31の『C』級であるが、Level25の狂戦士である魔倶那ならば、その個体とも対等に戦えることが出来るだろう。

何にしても、モブである俺ごときが心配することではない。


ならず者達の誰かが俺達2人を『鑑定』したのだろうか。

『catastrophe』が攻め込んできたぞと声をあげると、魔倶那を囲んで威嚇していたモブ達は血相を変えて波が引くように逃走を開始していた。

俺についていうと、奴等に監禁連行され助けを求めてきた女達を解放するべく走っているところである。

女達の人数は10名。

下の年齢は15歳くらい。

皆、両手には手錠がつけられていた。

女達の容姿を3段階で評価すると、『中くらい』相当の評価になるだろうか。

見た目第一主義である俺様からすると、期待していただけに少しがっかりしたとしかいいようがない。

だがまぁ、それでも、この後、上目遣いをされ言い寄られてくる展開が待っていると思うと、女に免疫がない俺はその誘惑に耐えることが出来るかが心配するところでもある。


女達は助けにきた俺に対し、何故が『冷めた視線』を送ってきていた。

ついさきほど、『助けてください』と黄色い声を飛ばしてきていたはず。

緊張の糸が切れ、堰を切ったように甘え口調で泣かれてしまうのではないかと予想していたが、この展開は全く違うぞ。

動揺し対応に困っていた俺を置き去りにして、15歳くらいの少女Aが尖った声でお礼を言ってきた。



「助けにきてくれて有難うございます。ぼーっとしていないで、早く私達につけられている手錠を外してもらえませんか。」



少女Aが、両手に付けられている手錠を見せてきた。

他の女達も酷く不機嫌なように思えるのは気のせいなのだろうか。

それはおいといて、そうか。手錠か。

気持ちが全くこもっていないような感じでお礼の言葉を口にしたあと、間髪入れず手錠を外せと要求してくるのか。

思ってもない展開になってしまった。

当たり前だが、手錠を外すためには鍵が必要になってくる。

この局面は『鍵が無いのでそれは出来ない』と、答えてはいけないことを知っている。

俺はハーレム王になる男。

ハーレムを築くための3大鉄則とは、『恩を売る』、『出来る男であると信じさせる』、そして『私生活がポンコツ』であることだ。

ここは、女達に対して徹底的に恩を売り、出来る男であることを見せつけなければならない。

ふっ。少女Aからの要望を断る選択肢は無いだろ。

———————つまりだ。召喚個体にて、その手錠を切断しさえすれば、俺は出来る男になるわけだ。

手錠の鎖をぶった斬り、俺が栄光への道を駆け上がる未来が見えてきた。

さて、ここで問題だ。

どの個体を召喚するかであるかだ。

手持ちのカードは3枚。

魔術士、聖職者、影斥候となるが、普通に考えると影斥候を召喚するべきなのだろうか。

思考を重ねている俺の姿にいらついたのか、少女Aが急かすように再び声をかけてきた。



「あのー、私の声が聞こえていますか。私達の手錠を外してほしいのですが、出来ないのなら他の人にお願いしてもらえませんか?」

「安心して下さい。皆さんに付けられているその手錠。この俺が切断して差し上げます。」



俺の言葉に、女性陣が機械的に両手を出してきた。

ある者はため息を吐き、何故か残念そうにしている。

そしてある者はチリチリ毛のイケメンを目で追っていた。

ちょっと待て。

そういうことか。

少女Aは、俺に出来ないのなら、他の者にお願いしてもらえないかと言っていた。

その他の者とは、魔倶那のことを指しているのかよ。

確かにおチリチリ毛のイケメンは、拉致監禁していたならず者達をぶっ飛ばしている。

だがそれは、奈韻からの命令を粛々と遂行しているだけのこと。

お前達を助けようとしているのは奴ではなく、俺なんだ。

手錠を外す約束をしたのも、この俺ですよ!

冷静に物事が考えられなくなってしまった俺は行動に移していた。



「俺は影斥候3体を召喚する!」



宣言とともに地面に魔法陣が浮かび上がってくると、影斥候達が姿を現してきた。

召喚個体には学習能力があり、多くの経験を積ませることにより、自立して行動するようになっていくのであるが、老練なる人狼のように意思を持っている訳ではない。

細かい行動が必要な際は、召喚主が管理下に置き常に指示を出し続ける必要がある。

手錠を切断する作業については未経験。

つまりこの局面は、可能な限り俺が細かく命令していかなければならないということだ。

とにかくだ。ここは俺が出来る男である姿を少女A達へ見せつけなければならない。



「影斥候。お前達に命令する。お嬢さん達が付けている手錠を切断し、解放するんだ!」



完璧な演出だ。

少女A達からすると今の俺は盗賊に追われている馬車を救った勇者のように見えているはず。

だが、最大の難所はここからだ。

もちろんそれは、手錠を切断すること。

これが失敗してしまうと、俺がハーレム王になる栄光の道が閉ざされてしまうような気持ちになっていた。

全ての意識を集中させようとした時のこと、想定外過ぎるあり得ない事態が起こってしまった。



影斥候達が首を振りながら両手を上げていたのだ。



こいつ等。一体何をしているんだ。

何故、命令を実行に移さない。

身振り手振りにて、俺からの指示を拒否すると意思表示しているみたいだ。

おい。まさか、そうなのか。

———————信じられないことだが、影斥候達が俺の命令に逆らっているとでもいうのか!

理解し得ないことが起きている。

意思を持たないはずの召喚個体が召喚主の命令を聞かないことなんて、あり得ないだろ。

この反抗的な態度。

まるで『老練なる人狼』みたいじゃないか。

混乱状態に陥ってしまった俺を置き去りにするように、影斥候が何やら勝手に動き始めていた。

———————自身の体である影を、女達の両手に付けられている手錠の鍵穴へ滑り込ませていた。

何をしているんだ。



「なるほど。そういうことか。変幻自在になる体を鍵穴に入れて手錠を開錠するつもりなのか。」



ん。ちょっと待て。

開錠させるそのアイデアはなかなかいい。

だが、問題はそこじゃない。

なぜ。どうして、俺からの指示とは違う行動を、やっちゃっているんだ。

どうして召喚主を無視して、自立し物事を判断しているんだよ。

やはりなのか。

そうなのか。

同じ召喚個体である人狼から学習し、成長したってことなのか。

———————自身で判断し、自立して行動することが出来るのならば、俺の戦術の幅が飛躍的に広がっていく。

だが、しかし、それは認めたくない。

あいつは召喚主である俺からすると、命令を聞かない反逆者のような存在なんだ。

その人狼から学習するなんて、絶対に駄目だろ!

俺は認めない!

気持ちの整理が追いつかない中、目の前では黄色い歓声が上がっていた。

少女Aをはじめとする女達は、手錠を外してくれた影斥候達へ向けて、笑顔でお礼を言っていたのだ。



「影斥候さん。手錠を解除してくれて有難うございます。」



3機の影斥候達は次々に手錠を開錠させ、自己判断にて召喚を解除し姿を消していった。

その一連の姿を見て愕然としていた。

俺の立場がないじゃないか。

少女A達は、俺ではなく、何故、あいつ等へお礼を言っているのだろう。

思っていた言葉が口から出てきていた。



「あいつ等を召喚したのは俺ですよ。お嬢さん達を助けのは俺ですよ。恩義を感じる相手は、俺のはずですよね!」

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