敦賀へ

 朝はさすがに眠かった。エルも燃えちゃって三回戦までやったもの。三回戦目なんかどうなってしまうのかと思うほど悶えまくった。女ってあんなに感じれるものだと我ながら感心したぐらい。


 それとこれは当たり前だけど、連戦を重ねるほどに時間が長くなる。早漏の元カレでさえそう。だから丈太郎さんとの三回戦はまたまた凄すぎた。二回戦の時だって限界って思ってたんだ。だって二回ぐらい気を失いかけたもの。


 だけど三回戦は初っ端から我ながら全開マックスで、途中から何がなんだからわからなくってたもの。感じてイクってレベルじゃなくて、あれってひょっとして話に聞くイキっ放しになってたかもしれない。


 そりゃ楽しいし、嬉しいのだけど、あれって体力使うのよね。だってイクだけで全身に思いっきり力を入れるじゃない。丈太郎さん相手にマグロは辞書にないもの。お蔭で二時間半のフェリーは丈太郎さんとオネンネ状態。


「このリア充め爆発しろ」


 こんな声が聞こえた気がするけど、気のせいかな。新潟港で起こされた時は、


「特等船室にしといたら良かったな」


 特等船室ってなんだと聞いたら、ビジホみたいなツインの個室だって。そりゃ、二時間あれば出来るけど、さすがに休まないと無理。眠るだけだったらもったいないよ。やるなら今夜でしょ、


「コトリ!」

「抜かりはあらへん。スイートにしてある」


 やったぁ、フェリーとは言えスイートだ。このシチュエーションで燃えなきゃウソでしょ。今夜は昨夜より大爆発してやる。


「あら阿蘇山大爆発」

「富士山やろ」


 そんなものじゃない、メテオ・ストライクだ。


「地球を滅ぼす気か」

「その前にわてが滅びま」


 情けないこと言わないの、あんなに逞しいんだから何回戦でもウエルカムよ。昼には新潟に到着。へぎ蕎麦で昼食にしながら、


「十四時半にフェリーターミナルや」


 今度のフェリーの予定は、


「今夜はフェリーで泊りで、五時半に敦賀や」


 三度目の夜はフェリーなんてロマンチックだ。あの二人組はフェリーターミナルの近くの道の駅でまたまた土産物をあさってた。エルはエルで父親に連絡。結婚考えてる相手が出来たから、挨拶したいぐらいの内容。それ自体はあの親父だから、


「わかった」


 これで終わりだけど、


「結婚式は無理かもしれん」


 えっ、来てくれないの。


「行きたいのはヤマヤマだが・・・」


 経営が苦しいのか。こればっかりはエルではどうしようもない。だいぶ金策に走り回ってるみたいだけど、


「南梨の手が回ってるわ」


 あのクソ実家、まだ祟りやがるのか。トットと潰れやがれ。でもあれこれ影響力があるのは認めざるを得ないところがある。親父の経営手腕はコトリさんや、ユッキーさんがあそこまで褒めるのだから間違いないと思う。だけどね、親父は経営こそ任されたけど経営実権は持たされていなかったんだ。


 南梨グループは爺さんの時に株式会社化してる。グループ拡大の資金調達のためもあったと思う。だけど実権を握るために過半数の株は握っていた。だけど経営危機で親父に再建を託した時に、これまた資金調達のために、さらに株を売り、今では三分の一もないはずなんだ。


 爺さんは社長こそ親父に任せたが、社長の座は南梨家の一族で占めるべきだの考えはあったで良さそう。具体的には自分の孫だ。だから息子経由で株を孫に渡そうと考えたと言われてる。


 それに猛反発したのが娘だ。つまりエルの母親。南梨の家のために、好きでもない男と結婚しているのに、そんな仕打ちがあるものかぐらいだそう。爺さんも娘に甘いところはあったみたいで、スッタモンダの末に爺さんの息子と娘で二分割になったそう。


 そういう状況で親父は動いた。エルの母親は経営にタッチしていないけど、伯父は取締役に名を連ねている。これを解任してしまおうとしたんだよ。目的は南梨グループから南梨家を排除すること。


 親父の見るところ南梨グループの先行きは暗いらしい。だからこそ後継者は重要になるのだけど、伯父の息子もまたボンクラだ。南梨グループに勤めてるカンナでさえ口を極めて罵るぐらいのボンクラ。


 社内的にもあのボンクラが跡継ぎでは南梨グループの倒産は必至と見られていたらしく、この機運に乗じたぐらいで良いらしい。メインバンクも親父の計画を支持していたとかなんとかだって聞いている。


 そこにエルの婚約破棄騒動が起こる。エルの婚約者だったエリート・イケメンがカンナに略奪されたんだけど、結果として南梨家の次期社長の手駒が出来たとなったようなんだ。まあ経歴としてエリートなのはウソじゃない。


 カンナの旦那が次期社長になれば、女系だけど南梨グループは南梨家の手の中に残るじゃない。土壇場であの仲が悪かった伯父とエルの母親が手を組んだんだ。最後はメインバンクも兄妹連合に乗っかり、親父は離婚、社長辞任になっている。


 これで親父は南梨とは手が切れたはずなのだけど、かなりの遺恨劇があったじゃない。とくに南梨家側からすれば南梨グループから追放されそうになってたから、離婚や社長辞任ぐらいで腹の虫がおさまらないぐらいの展開になっているで良さそうだ。


 たく陰険で器の小さな連中だ。南梨の家がどうなろうとエルには関係ないのだけど、親父を見殺しにはしたくない。親父の事業自体は苦しいとは言え、赤字ってわけじゃない。苦しいのは運転資金だそう。これだって枯渇すれば不渡りが出て倒産に直結する。


 これは丈太郎さんに頼み込めば、それなりの金額を用立ててくれるかもしれない。丈太郎さんぐらいのカリスマ・モトブロガーなら可能のはずなんだ。だけど、そんなことはしたくない。そんなことをすれば、まるでエルがカネのために丈太郎さんのモノになるようなものじゃない。


 そんな要素が混じってしまう結婚はやりたくない。エルは純粋に愛されて結婚したい。けど、けど、親父は結婚式に出席して欲しい。そりゃ、エルの晴れ姿だもの。それだけじゃない、あの陰鬱な実家で冷や飯を食わされた同志としてもある。エルの肉親は親父だけだ。言っとくがファザコンじゃないからな。


「どないしたん」

「もう喧嘩?」


 喧嘩なんかするものか。昨夜だって三回戦・・・は置いとく。そこから、なんか上手いこと聞き出されちゃった。


「そういうことか」

「それは悩むよね」


 二人でなにやら話をしていたけど、


「わかった。結婚祝いを贈ってあげる」

「お返しは親っさんからもらうから心配せんでエエからな」


 えっ、なに、


「小籠包と春巻きのコラボや」


 なんだそれ。


「どっちも単品やったら無理あるってことや」


 なにする気。


「ツーリング代の回収」


 こいつら、


「だから結婚祝いやって」

「出席は無理やけどな」


 フェリーは乗り込んでご飯食べたら寝るだった。朝の五時半着だから四時半ぐらいには起きなきゃならないものね。


「そこそこにしときや」

「敦賀からの帰りもあるからね」


 ほっとけ。そして敦賀でお別れ。ここからは丈太郎さんと高速で大阪に向かうけどコトリさんたちは、


「下道ツーリングで神戸に帰るわ」


 でも不思議な二人組だった。最初は余計なお邪魔虫だと思ったけど、あの二人がいなかったら、丈太郎さんとここまで深い仲になれなかったかもしれない。それと晴れの女神の威力はおそるべしで、これ以上はないツーリング日和だったよ。

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