『一撃必殺』

 何度も叩きのめされ、そして再び空中に持ち上げられた俺は、咄嗟に動く。


 即座に剣のグリップを逆さに握り、持ち上げられた反動そのままに、上体を限界まで逸らし、左腕を大きく振りかぶる。そして剣を槍のように、怪物めがけて投げつける。


「おらぁ!」

 

 怪物の頭を狙って投擲した剣は、狙っていた頭からは外れるも、胴体の浮き出た複数の眼を貫く。

 

 怪物がつんざくようなわめき声を上げると同時に、足首に絡みついていた触手が離れる。


 俺は身体を回転させ、地面に着地する。


 苦悶の叫びをあげた怪物が俺のいる場所へ向き直る。生き残った眼に、三度鮮血の光が収束される。


「そう何度も、同じ手を喰らうと思うなよ!」

 

 俺は意識して六割程度の力で真横に飛ぶ。その直後、鮮血の光線が俺のいた場所を通り抜ける。


 そのまま俺は、怪物の背後をとるようにダッシュする。怪物は俺を焼き尽くさんと、全身の眼から光線を乱射する。


「もう一度だ!来い!」

 

 上手くいくかどうかわからなかったが、走りながら俺は叫ぶ。左腕を伸ばし、剣を呼び戻すイメージを浮かべると、怪物に突き刺さっていた剣が光となり、俺の左手に集まり、再び剣と化す。

 

 このまま怪物に好き勝手させたら、終いには公園だけでなく、その周囲の民家にも被害が広まる。


 光線が徐々に消えると、怪物は俺に向かって何本もの触手を放つ。


 そこで俺は気づく。

 

 怪物は、あの光線を永遠に出し続けているわけではない。そして怪物は俺が剣で胴体の眼を複数傷つけたことによって、最初に放った時と比べると、明らかに光線の本数が少なくなっている。


「今しかねえ!」


 俺は怪物の背後の位置まで来ると、剣を両手で構え、一気に怪物めがけて突撃しようとする。遅れて怪物も向きを変え、俺を正面に捉えると、全身の眼に鮮血の光を集めだす。


 そのまま一直線に怪物に向かって行こうとした俺の脳に、とあるアイデアが浮かぶ。馬鹿げていると理性が抑えようとするも、俺はその閃きに賭けることにする。


 怪物との距離を詰めつつ、光線の照射のタイミングを図る。


「今だっ!」


 鮮血の閃光が放たれる直前、跳躍の態勢に入る。

 それは、俺が何度も練習をして体にしみ込ませたハンドボールの動きだった。


「いち」

 右足を大きく一歩前に踏み込む。

「に」

 左足をその勢いのまま前に出す。怪物が光線を放つ。

「さんっ!」

 三歩目の右足の踏み込みで、俺は急ブレーキをかけ、前に行く力を全て地面に抑えつけ踏ん張りつつ、ため込んだ力を全て直上に振り向け、大ジャンプをする。


 全力を込めた大ジャンプで、俺は砲弾のように空へと跳ね上がる。町全体を一望できるまで飛び上がった俺は、ジャンプが終わった一瞬、滞空しながら豆粒並みに小さく見える怪物目掛けて落下する。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 俺は空からピンポイントに怪物めがけて落下しつつ、両手で剣を大上段に構える。気づいた怪物の鮮血の閃光が、地面から落下する俺を襲い来る。

 

 何本もの閃光が鎧を直撃し、鎧が砕けるも、俺の勢いは止まらない。

 

 怪物がどんどんと目の前に迫り、俺はそのまま剣を振り下ろす。


「くらいっ、やがれぇええええええええええええええ!」


 地面にめりこむように激突し、それと同時に振り下ろされた剣は、怪物の甲殻を上から真っ二つに切り裂いた。

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