『邂逅』Ⅰ

 まるで洗濯機の中に入り込んでしまったかのように、全身が回転し三半規管が狂いだす。俺は浮遊感と嘔吐寸前の気持ち悪さを目を閉じつつ何となんとか耐える。

 

 唐突に終わりは訪れた。地面に投げ出され、背中を強打する。一瞬息が止まる。目が回りすぎて、まともに立ち上がることもできない。


 俺は一分ほど目を閉じなんとか呼吸を整え、感覚を取り戻そうとする。

 

 乗り物酔いの気持ち悪さと平衡感覚の狂いが落ち着いた俺は、仰向けからうつ伏せになり、震える膝にようやっと力を入れて何となんとか立ち上がろうと顔を上げた時だった。


「は?」

 

 俺は鬱蒼とした森の中にいた。周りを見渡す。どこを見ても木しか生えていない。どこまで伸びているかもわからない木々に囲まれ、俺は地面に膝をつき茫然としていた。


「どこだよ、ここは……」


 あまりの出来事に、脳が誤作動を起こしたかのように、目の前の状況の理解を拒む。


 あの渦はここに繋がってたのか。どこか遠くから何かの鳴き声のようなものが聞こえる。そしてざわめく音も。現実離れした光景に俺は自分の頬をおもいっきしつねる。


「痛え」


 夢じゃないようだ。先も見通せぬ闇の森に独りは流石にきつい。何か道標のようなものはないのか、と思った時だった。


「ん?」


 俺の視線のはるか先の方に、光る玉のようなものが見える。それは、揺れながら段々近づいてくる。


 その光る玉は、目の前までやってくる。


 最初は幽霊かとびびるも、近づいて来たその光の玉は見たところ浮遊しているだけだった。俺の前まで来て頭上を飛び回る様子を見ると、何だか可愛く見えてくる。


「なんだ?」


 俺が光の玉に尋ねると、それは答える代わりに、揺れ動きながら森の奥へと飛んでいく。


「おい!待てよ」


 俺は取り残されないように立ち上がると、その光の玉について歩く。


 それはまるで俺を先導するように一定のスピードで浮遊する。


 俺は一瞬罠かもしれないと考えたものの、ここでずっと突っ立っているよりはましだと思い、光の玉に付き従う。


 5分くらい歩くと、前方から光が射し始める。


「出口か⁉」

 

 俺は気持ち足を速める。光が強くなっていき、森を抜けたと思ったら俺は、トンネルに入り込んでいた。


 それは木のトンネルとでもいうのか。両端に生えた木々がまるでお辞儀をするように折れ曲がり、アーチ状になっている。頭上の木々の枝葉の隙間から光が射す。


 おとぎの国に入り込んだのか。俺はぼーっとしていると、光の玉は先に進んでいく。


「おい!」


 声をかけても反応のない光の玉に苛つきつつも、俺は素直についていく。歩いていると、前方から先ほどよりも強烈な光が射している。


 眩しさに目を細める、そしてトンネルの出口から溢れ出る光に向かって迷わず駆け出す。


 

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