『ゲームショップEDEN』
家から出て、隣町へと向かっていた俺は、車道の横を走る路面電車を横目に自転車をこぐ。
俺の住んでいる高鷲町とその隣町を繋ぐ鉄橋を、汗だくになりながら渡りきる。橋を下った位置の真横に、広い駐車場がある。その奥に剝がれかけた白色の壁の年季の入ったお店があり、飛び出た屋根には、おもちゃ屋とでかでかと電光掲示板が掲げてあった。
店の脇に自転車を止める。俺は自動ドアを抜けて店内に入ると、エアコンの冷気を纏った風が、汗を一気に拭い去る。
「やあ太陽君。いらっしょい」
と温和な人のよさそうなエプロンをかけた眼鏡をかけた男に声を掛けられる。
「店長、来たぜ」
俺はその店長と呼んだ人に挨拶をする。店の中は、マンガ、雑誌の棚や、小説、ゲーム機やゲームソフトがそれぞれの棚に所狭しと並んであった。
俺は店の中央にあるガラスのショーケースの内側にいる店長に向かって、財布を取り出す。
「金は用意してきた」
「待ってたよ。例のやつだね、もう届いてるよ」
店長が悪そうに微笑む。
「少し椅子にでもかけて待っててくれ」
店長が奥に向かって歩き、カーテンを抜けて店の奥にいる。
俺はドキドキしながら、店長が戻ってくるのを待っていた。店長がカーテンを開けて店の奥から、正方形の箱と別の縦長の箱を持ってくる。
「おまたせ。これが最後の一個だよ 」
店長がショーケースに持ってきた箱を並べる。
「これが、例の……」
「勿論。初回限定版、数量限定特典付きさ」
箱の表面には、エルフ耳や金髪お嬢様、色んな二次元の可愛いアニメ風の女の子のキャラが表紙を飾っている。
「今年、覇権間違いなしの、超大作エロゲだ」
店長が手を伸ばす。
「18才、おめでとう」
「店長、あんがとよ」
俺と店長は固い握手を交わす。
「君が初めて来た時のことを思い出すよ」
感慨深げに、遠い目で店長は俺を見る。会計を済ませた俺は、涼しい店内でダラダラ過ごしていた。
「いきなり君が店に来たときは、驚いた。高校生が迷い込んできたからね」
「そんなに違和感あったんすか?」
「ああ。自分でいうのもなんだが、ここはアニメとかゲームとかに詳しい人しか知らない、いわゆるマニア向けの店だからね。普通の学生さんは来ないよ。だけど君の探しているタイトルを聞いた時は、君が僕と同じ人種だってわかったよ」
店長が眼鏡を人差し指で上げる。
もともとファンタジー小説が好きだった俺は、中学時代にとある人気ライトノベルにはまり、気づけばマンガ、アニメ、ゲームなどオタクコンテンツの沼にどっぷりとはまっていた。
そしてクラスのオタク友達に、泣けると勧められたあるノベルゲームのアニメを見て、感涙した俺は、その原作のゲームをぜひやってみたいと友達に話したところ、この店、ゲームショップEDENを紹介された。
「ちょうど一年前だったすかね。ダチに紹介されたエロゲを買おうとしたら、止められたのは」
「そうだね。うちの店はしっかり年齢確認をしてるからね。当時はまだ18才になってなかった君に、売るわけにはいかないよ」
「あの時は私服で行ったんだけどな。よくわかったすね?」
「長年お店をやってるとわかるのさ」
店長がそういって、黒い袋に、エロゲの箱を入れると微笑む。
「だが、君は18才になった。存分に楽しみたまえ」
「あざっす」
俺は店長と今やってるアニメやおすすめの小説、アニメ化したライトノベルについて雑談をしながら、店で涼む。
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