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 2階(正確には3階だが、1階は例の石像が並んだ広間なので、冒険と呼べるものが始まった例の触手ボスがいた階を1階とする)以上のダンジョンはそれほど驚きのある物ではなかった。

いい意味でいうと順当な、悪い意味でいうとほとんど変化のない「普通の」ダンジョンというか……。

 まぁ1階のボス部屋がインパクトがあったので、それ以上の驚きがないというのは楽な反面、不謹慎だが少し残念な気持ちになった。

 勿論モンスターもゆっくりと、強く狡猾にはなって来ていた。人型に限るとゴブリン・コボルド・オークがホブゴブリン・トロール・リザードマン・オーガとなり、ボスもネメシスが予想していたコボルドキングやオークロード、ゴーレム、カッパードラゴン等……まるで定型RPGの敵を弱い順から配置したかの如く……。

 ネメシスも対峙した事のない敵もいて決して油断はしていないのだが、俺のRPG知識で初対面の敵もある程度対策を取れた(流石旦那さま、といちいち褒められるのはもう慣れた)。


 ウェンティも俺達と一緒に、随分実践経験を積めたと思う……最初は覚束なかったメイス及び槍の扱いも、ネメシスも感心するスピードでよくなっていった。今なら1階程度なら然程苦戦する事無く一人で踏破するかもしれない。勿論ネメシスの防御魔法あっての事だが、考えたら吸収の早い未成年時に命の危険のある実戦を何十回も繰り返しているのだ。下手に道場とかで命の危険のない稽古を繰り返すよりもずっと早く鍛えられるであろう……。

 ゲーム風にいうと「パワーレベリング」と言えるかもしれない。実際同じ敵を相手にしても、見て判るほどに素早く対処出来る様になってきている……やはりこの世界には、俺以外にもレベルの概念はあるのだろうな。


 因みにネメシスの防御魔法を貫通するほどの敵はいなかった。考えてみれば1階の段階で人の数倍のパワーと体格を誇るオークやグリスリーと戦っているのだ。それらよりも力が強いだろう敵はオーガやトロール・ゴーレムか? それらにしても1階の彼らの数倍の怪力を誇る訳ではない。

 勿論耐久力や回避能力も増え、魔法や弓で仕留めきれなく近付かれているのは問題だが、弱った敵は俺とウェンティの近接攻撃で対処出来たし、ネメシスもその杖に魔力が込められているのか、ただの木の杖で敵の頭蓋骨をぼんぼんと叩き潰している……コワカコワカ。


 そういえばウェンティの「奇跡」という物も使ってもらってみた。

 攻撃で受けた傷はないのだが連戦に次ぐ連戦で疲れた身体に「癒しの奇跡」をかけて貰うと、まるで旅館に宿泊しゆったり温泉に浸かったが如く疲れが取れた気がする……。

 「我ながら凄い……ここまでわたしの奇跡の効果、高くなかった……」

 「戦闘を重ねて身体が慣れると、使っていなかった魔法や奇跡の効果も増すという現象が報告されていますわ。無論その魔法や奇跡を使い続けた程ではありませんが、全体的に底上げをされる感じですね」

 うん、ネメシスの説明を聞く限り、やはりこの世界にもレベルの概念があり、多分に熟練度とかの要素もあるのだろう。

 俺のステータスを詳細表示にして戦闘毎に検証するのもいいが、まあそこまでしなくても実感として上がってるのならそれでいいか。


 適度に安全地帯にて休みつつ、数日をかけて数階層の攻略も済んだ。今は……5階か。このまま順調にイヤリングを手に入れ、ウェンティの記憶も戻るといいのだが……我ながらフラグの様な気もするな。

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