52
ゆっくりと階段を上がる……暗闇になってる所をぬぷっと? 抜けると一階とは全然違う風景が広がっていた。ネメシスが言っていたようにいきなり敵が待ち構えている事もなかった。
「これはまた……典型的な……」
……階段を上がった処は、幅、高さ5メートルほどの石壁の通路だった。正確に測った様な同じ大きさの石が積み上げられ、どう見ても人工物である。それらが一つ一つ仄かに青白く発光し、更に等間隔で松明の様なものがつけられている。
エルフの視界で通路の先を見ると、長さは差し渡し50mほどで、所々直角に曲がる横道が見える。昔ながらの3DダンジョンRPGの迷路の一角にしか見えない。
20mほどの近くに……4匹の人間大のモンスターが見える。
「ここは俗にいう「迷宮」のようだな……ネメシス、すぐ近くに4匹、食事中の様だが……」
「ええ、わたくしの探知魔法にも反応が幾つもありますわ……ウェンティさん!」
「う、うんっ!」
「いなくなるのを待つのもいいですが、どのみちこの先戦闘は避けられないようですわ。未ライセンスの僧侶見習いである貴方に無理に戦闘参加はさせませんが、もし私たちが取り逃し、此処の様な安全地帯に逃げ込めない場合、訓練通り壁を背に、何も考えずとにかく大きい的を狙ってください! 躊躇してはいけません。ある程度防御魔法も効いていますが組み伏せられたりして魔法が切れたら……お分かりですね?」
「……」
青ざめた表情でこちらを見てくるウェンティ。昨晩、いざという時の為にネメシスのマジックバックからゴブリンを模した人形を取り出し、簡易の戦闘訓練をしていた。ネメシスの変な拘りがあった為刺した時血が噴き出て俺もウェンティもパニックになっていたが、今回のような突発的な時は却ってあれが良かったかもな。
「ここは安全地帯で、右前方20mほどにいる敵は食事の最中の様で我々に気付いていない。だが奴らは鼻が効き、出た瞬間にこちらに襲い掛かってくるだろう。多分俺とネメシスで仕留められるとは思うが、覚悟はしておいてくれ」
「わ、わかったよ……あれは人形、あれは人形……」
「では……行きますわよ!」
ネメシスの声と共に敵が向こうを向いている時に奇襲をかける。安全地帯から出るまでは気配はおろか匂いや光まで遮断されているそうだ。
敵は……4匹とも、小柄な人間の身体に犬のような頭がついている……コボルドって奴か。雑魚の代名詞の様な敵だ。
とはいえ、ゲームとかと同じ感覚で見てはいけない。例え今まで戦ったゴブリンやオーク、グリズリー(これはネメシスが倒したが)らがテンプレ通りの姿・行動だったとしてもだ。
俺は弓を引き絞り、落ち着いて一匹の頭を狙って矢を撃つ。必中範囲だったせいで見事に突き刺さり、ギャウッと小さな鳴き声を上げて倒れた。
残る3匹は突然の外敵、しかも飛び道具に戸惑ってあたふたとしている。
「……目前の敵を焼き払えっ! フレイムッ!!」
それを見たネメシスが出る直前から唱えていた呪文の詠唱を終え、コボルド共に向け杖の先から火炎放射器の様に炎を出したっ!
それは残り三匹のうち二匹に当たり、その獣毛が炎に包まれるっ!! ネメシスは薙ぎ払うように残り一匹にも当てようとするが、そいつはとっさに身を交わし当らなかった。
襲いかかってくるだろうそいつを狙い俺は次の矢を番えたが……奴はあっさりと、仲間を見捨てて逃走した……。
「旦那様、逃げる敵を無理に狙う事はありませんわ……それより……ウェンティさん、既に死んでると思いますが……その三匹にとどめを」
「えっ……う、うんっ!」
ネメシスがあえて俺じゃなく、今回戦闘に参加していないウェンティにとどめを刺すように言う……俺もアテナにやらせた事があるが、こういう時に命のやり取りを経験しておくのは重要な経験になるだろうしな。
「え、えーと……油断せず……槍で遠くから……うっ!」
焼けたコボルドの噎せ返る匂いに一瞬口を押さえるが……そのまま事前に教えたように、口や首の付け根を狙い、次々突き刺していくウェンティ。
「……最初からよく吐かずにとどめを刺せましたね、大丈夫でしたか?」
「う、うん……か、覚悟はしていたけど……これが命を奪うって事なんだね……」
「その感触を、忘れずに……相手も必死ですので、完全に命を奪うまで油断してはいけませんわ。敵に情けをかけたお陰で抵抗にあい命を落とした冒険者仲間も沢山おりますし……繰り返します、くれぐれも油断なさらず……」
色々辛い事があっただろうネメシスの助言に、俺もウェンティもただ頷くだけだった。
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