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 「……凄い!」

 ウェンティの驚嘆の声が響き、同時に冷気が頬を撫でる。晩夏の外より体感10度は低い感じがした。

 神殿の外観は崩れた石壁が苔生し蔦が生い茂り、放棄されてから数100年は経過してる感じだったが、内部はとても「綺麗」だった。

 「一階」は一辺が五十メートルほどの四角い広間で、入口から奥へ向かい直線状に、向かい合わせの状態で異形の石像が何十体も並べられている。

 石像の間向こう側には「上部へと続く階段」がある。

 「外から見たこの神殿は地上一階しかなかったし……そもそも天井が抜けていた。入った瞬間に天井が現れ、沢山の石像が出現し、更には上への階段が……俺は幻でも見ているのか?」 

 俺の疑問にネメシスが答える。

 「旦那様たちだけではなく、わたくしも知覚出来ております……この神殿は、「ダンジョン化」しているようですわね……」

 「ダンジョン……って迷宮の事? 迷路とか暗闇とかわーぷぞーんとか」

 「ええ、地上もしくは地下へと向かう数階、多い所では数十階層にも重なる迷宮です。壁に区切られ冒険者を惑わし魔獣や罠が配置された迷路、見通しの効き辛い暗闇の洞窟、果ては地下なのに何故か木々が生い茂ってたり、太陽や雲すら存在する広大な空間の場合もあると聞きますわ。無論現実の事象ではなく、膨大な魔力によって空間がねじ曲げられ、異なる場所へと接続しているという説もあります。今回の様に、外見から想像もつかない内部構造になっている場合もありますね」


 「しかしこの様な綺麗な状態で残されているとはな……」

 「あ、旦那様! 石像に触れませぬよう!」不注意に触れようとした俺をネメシスの声が制する。

 「……そうだな、すまん。だが近くで見ても判る通り……まるで最近作られた様な、欠損もない立派な石像だ。盗掘は勿論、研究者の調査の手も入ってると思えない。何よりこんな禍々しい像なら管理処か少し封建的な所もあるらしいイロハの国なら邪教の神殿として封鎖されてもおかしくはないな」

 俺は見ていた訳ではないが、前世ではこのような異形の、外宇宙から来た邪悪な神々が人々を恐怖に陥れる有名な作品もあった筈だ。

 「このローブ姿のタコ? イカ? の像とか、今にも動き出しそう……」

 「ウェンティ、今不用意に触ろうとした俺が言える事ではないが、ガーゴイルという、遠い昔ライタイという国の史上最強の生物ゲフン! 格闘家を殺した、石像に擬態する魔物も居る筈だ。不用意にフラグゲフン、嘘から出た真という言葉もあるし、あまり本当に起きたら困るような事は言わない方がいいぞ」

 「ご、ごめん」

 「あら、その様な希少な魔物の事をよくご存じですわね、流石旦那様♪ まあこの数が一斉に襲い掛かってきたら、とても敵いませんわね……旦那様は撲殺されわたくしとウェンティさんはその石の様な怒張で前も後ろも上も下も……ドキドキ♪」

 ねめしすさんがまたあっちのせかいにいっちゃった……まぁ事前に危険はないと調べているからこその軽口だが……もしかしたら動き出す直前までは石扱いで、動き出して初めて危険と判断されるやもしれんしな。


 「コホン、盗掘はどうか判りませんが、このガイドを見ると発掘・調査はされてますのよ?」

 我に返ったネメシスが、ギルドで貰った触手島のガイド地図を広げる。

 「そうなのか? 全く人が入った様な痕跡はないのだが……」

 「こちらには「島の高台には古惚けた神殿跡があるが、内部は神像の一つもなく、また魔法による長年の調査においても隠し部屋の一つも発見されていない」とありますわ」

 「え……でも、こんなに沢山の像があるのに?」

 ウェンティが疑問を言う。確かにこれらの像の事を書いていない奴の目は節穴を通り越してただのビー玉だ。

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