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 「この国・ウィスの東方にある軍事大国・バーボは知ってますよね?」

 その瞬間ウィンドウが開き、その国の情報が浮かび上がる。

 「嗚呼、北東の山岳地帯の国だな。豊富に産出される鉱石を使い武具を量産し、山国の苛酷な環境からか屈強な武人も多いらしい。替わりに食料資源に乏しく、鉱石の他に傭兵を派遣して外貨を稼いでいるとか」

 「最近は……具体的には前王が崩御し、今の王に変わってから、そのようなまだるっこしい取引じゃなく、直接その武力を持って他国を侵略する、という考えに変わったらしいですわ。我が国をはじめとする連合国家の目もありますしまだ表立った侵略戦争とまでは行ってませんが、周りの小国との小競り合い等で少しづつ領土の拡張を模索しているとか」

 「まぁ、大国にありがちな思想だな。それで、今回の件とどういう関係があるんだ?」

 「我が国・ウィスは直接バーボ国と国境を接してませんし、今は平和です。ですが平和に慣れ過ぎ、かの国が侵略を開始した時自国を防衛・他の国へと戦力を派遣する戦力に乏しい」

 ネメシスは俺の顔を見て

 「このフルーツ村の横に広がる、広大な森林……その奥にあるといわれるエルフの隠れ里……そちらはこの国が出来る前、いえ人間中心による国家が出来る千年以上前からずっと、様々な外圧に屈する事無くあり続けている……」

 大体だが判ってきたような気がする。

「ふん、なるほどな。お嬢様はそちらの隠れ里に行きたいのか」

 「ええ、わたくしはこの国を護る為、かのエルフの秘境に訪問し、その秘密を探りたいのですわ♪」

 「そこでエルフである俺に接触してきたのか?」

 「あら、接触してきたのは貴方の方ですわよ♪」そういえばそうだった。

 「……どっちみち、俺がエルフというだけではその隠れ里に接触をする理由には弱いな。先に調べているかもだが俺はそこの出身ではないし、記憶喪失でな。このフルーツ村に来る前の記憶も曖昧だ。ネメシスには悪いが力になれそうもない……」

 「そ、そうよ。大体今の話から、何故アヤカートを婚約者と言ったり……き……キスをしたのよ!」

 俺とアテナがいう。

 「ええ、わたくしもこの件だけで貴方と婚約などと、打算的な考えだけではありませんわ。我々貴族は政略結婚など当たり前ですが、我が辺境伯領は既に兄弟姉妹が充分各国の王族と婚姻関係にあって、今更わたくしが早急に誰かと婚約せねばならぬという事でもありません」

 「では……」

 「それでも辺境伯の娘として、残念ながら純粋な恋だけでは結婚をする事は許されません。その点ではわたくしは恵まれていますわね」

 ネメシスは立ち上がり、また俺に顔を近付けてくる。アテナも立ち上がりかけたが場の空気を読んで踏みとどまった。

 「最初に、信じて欲しいのですわ。わたくしが貴方に近付いたのは、決して今言った様な打算的なものだけではありません。わたくしは家の教育に対する反動か、淑女教育の傍ら武技を磨き、身分を隠して冒険者として魔物を狩ったりもしていました。このように筋肉もつき、立場もあり恋愛という物にも無縁な生活を送っておりました」

 俺はネメシスの身体を見る。そのドレス姿に見合わぬ健康的な感じではあるが、ボディビルダーの様な感じではない。その豊満な胸や肢体からは冒険者という言葉が信じられないくらいだ。

 「でも……貴方に出会ってしまった……貴方と別れてから、一度も貴方の顔が頭から離れた事はありませんわ。辺境伯息女として公務をしている時も、冒険者をしている時も、他の男性貴族と話をしている時も、お風呂の時すら……ずっと貴方の事を……」

 ネメシスはとろんとした表情になり、俺の肩に手を当て更に顔を近付けてくる……。

 

 「ちょ、ちょっと待ってー!ストップ、すとおおっぷ!!」

 アテナが溜らず、またキスをしようとしてた俺とネメシスの間に割り込んでくる。

 「ね、ネメシスの気持ちは判ったわ……その気持ちが演技じゃないのも判る。でも、アヤカートは……わ、私の……」

 「ええ、勿論アテナ様の事はご存じあげておりますわ。いい辛いですが……ご両親の事を含めてね」

 「……」

 「無論ご両親の敵を取ってくれ、そのお礼として純潔を捧げ、それからほぼ夫婦として過ごされたアテナ様からアヤカート様を奪い取るような事は致しませんわ」

 「じゅ、純潔って……」

 「ですがわたくしの気持ちも本物ですし、ここからは打算的なものになりますが、アヤカート様がエルフの里の出身者じゃなくても、エルフとの結びつきがある事はそことの接触に少なからず良き影響があると思いますの。婚姻関係なら特に、ですね」

 「そ、それで婚約者……って事?」

 「ええ、知っているかもですがこの国は3人までは妻を持つ事が許されておりますし」

 ウィンドウが開き、その旨が書かれた法案が写される。

 「既にアヤカート様には、口頭での約束とはいえ成人を迎えると婚姻という形になるであろうアテナ様、そして、幻の種族とも呼ばれ森の賢者ともいわれる白狼人族のアルテミス様」

 「……えっ、アルテミスも入るの?」

 「……我が密偵の話によると、今は主人と奴隷契約の関係なれど、現在順調に奴隷商への支払いも進んでおり、更には毎晩アヤカート様とアテナ様の子作りへと参加を……」

 「わーわー!どこまで知ってるのよ!!そんな大きな声で言わないで!!」

 「今はサイレントの呪文で、外部には聞こえていませんのでご安心を。わたくしはまだ経験はございませんが、子孫を残すという行為は大切なものでございますよ。まぁ子種の方をお胸の方に出したり、飲むというのはいまいち理解が出来」

 「わーもう、このお嬢様はっ!!」


 ……かなり脱線してしまった。というかさっきから俺は話せていない気がする。

 「ま、まあ落ち着けアテナ。話を戻すが……ネメシス、君は俺と……婚姻関係を結びたいという事か?」

 「嫌、でしょうか……わたくしには魅力がないと……」

 「そのような事はない。あの時言った俺の気持ちも本当で、隠しきれない極上の宝石のように綺麗だ」

 「で、では……」

 「だが、俺にはアテナがいる。それに俺は知っての通り記憶喪失だし、仕事も狩人の銀級ライセンスはあるがまだ始めたばかりで安定していない。とても2人も妻を娶る甲斐性はないよ」

 「ああ、お仕事の件はご安心を。辺境伯息女としても小さな領地を拝借し、そちらの収入も現在安定した財源を確保出来ております。辺境伯の娘という事がなくても、既に冒険者として幾つかの依頼をこなし、それなりに蓄えはありますわ。また、アヤカート様もパートナーであるアテナ様に狩人のライセンスを取得させましたし、女性の社会進出には抵抗はないご様子」

 まぁ、ライセンス取得はアテナの才能のお陰でそこまで深く考えていた訳ではないが、別に結婚したら女は家を護るべしなどと言う考えではない。

 「それに……ネメシス、君の気持は嬉しいが、辺境伯様としては貴族の一族に俺の様な平民の、しかもエルフの血が混ざるのを許容出来ないのではないか?」

 「その点もご安心を。この国の歴史を見ても一部の馬鹿な……失礼、古い考えの貴族以外は血への拘りなんかよりも能力を至上としますわ。勿論愛情もです♪わたくしの叔父様の侯爵も、商家出身の叔母様とそれはもう熱々で……」

 「……ネメシス様、また話が脱線しております」

 ヘレネに諭され、一度咳ばらいをするネメシス。

 「お話も長くなってきましたわね。勿論この場で決めれと焦らせるつもりはありませんわ。わたくしはこの地周辺の視察という目的のほか、静養の為の別荘地を選定という名目もございますの。それをこの村へ建設させますので、わたくしもこの村へとしばらくの間移住し、こちらへ通わせていただきますわ♪」

 「ま、待ってくれ。それだとそれが理由のようになってしまう。別荘地ともなるとそれに見合った理由も必要だろうし、この村はいい所ではあるが温泉もなく貴族のお嬢さんが住みよい土地とは……」

 「あら、わたくしは冒険者でもありますのよ?男性のメンバーとも魔物や山賊の現れる屋外で何度も野宿をしましたし……こちらフルーツ村はエルフの里があると噂される場所に一番近い村でもありますし、わたくしの目的の為にも便利な土地ですわ」

 「しかし……」俺が言い淀む前に

 「繰り返しますが、わたくしも返答を焦らすつもりはありませんの。既に成人はしておりますし父にも兄上にも、弟にすら縁談を薦められてますが焦ってはおりませんわ、まだまだ冒険者も続けたいですしね。なので……」

 ネメシスははらりと、肩口にかけたケープを脱ぐ。その豊満な胸が揺れ、仄かな香水の匂いが立ち込める。

 「3人目で……何でしたらお試しで……構いませんのよ?せめてわたくしに……貴方の心を振り向かせる、機会をお与えくださいませ……勿論その間、わたくしを何度もお試しになっても構いませんのよ♪」

 「お、お試しって……」

 「無論わたくしの身体の事ですわ♪経験はございませんが……我ながら同じ年齢の他の貴族息女と比べても、成長は早いと思ってますの……何でしたら今夜からお試しになっても……」

 「わー!と、止まりなさい!」アテナが慌てて止めに入るが

 「もちろん、アテナ様も……」

 「え?……ってむちゅうううううううううううっ」

 ネメシスは止めに入るアテナに向き直し、いきなりアテナの唇を奪う。

 「ん、んんっ……ぷはぁ……な、何を……」2人の唇の間をてらりと唾液が伝う。アテナとアルテミスのキスの時も感じたが実にエロい♪

 「第一夫人の貴方とも、公私ともに仲良くさせていただきたいですわ……夜の方も、聞く所によれば複数による行為もあるといいますし……失礼、既にアヤカート様・アルテミス様と毎晩してらっしゃいましたね♪」

 「だ、だからもういいってばああああああああああ!!」

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