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 「村に貴族様が来るのか」

 アテナがいつもの材木問屋の女護衛から得てきた情報を聞く。

 「この辺り一帯を治める辺境伯様のご息女様らしいわよ。何でもこのフルーツ村付近の視察と、別荘の選定を兼ねてるとか。まぁ、浮かれている村長には悪いけど、こんな樹と川以外何もない所に作るとは思えないけどね」

 「いや、案外ここはいい所だぞ。その辺境伯殿の館を見た事はないが、案外都会に住む者にとっては何もない、ただ身体を休める事それ自体に価値を見出すんだ。俺の国ゲフン、知ってる国でもそうだったな」

 「ふうん、まぁそれでもここに暮らすよりは、アヤカートが言ってた温泉だったっけ?そういうのがある所のがいいと思うけどね」

 まぁ一理ある。ここはいい所だが別荘となると不便も過ぎる。

 「……実はそのご息女様、成人して1年ほど経つのだけど、結婚はおろか浮いた噂の一つもないらしいわよ。その為に実の親や兄弟からいくつも縁談を薦められてるけど、それを嫌って街に出たり、冒険者の真似事とかもしてるんですって、全部聞いた話だけどね」

 アテナは俺の顔を覗き込んで

 「ちなみに、金髪でおっぱいも大きくて、凄い美人さんなんだって……アヤカートみたいなスケベな人は、そういうタイプのがお好みなんじゃないかしら?」

 からかい半分、不安半分の表情で覗き込んでくるアテナ。

 「馬鹿だな、俺にはもう素敵な彼女がいるよ」アテナをぎゅっと抱きしめ

 「ま、確かにもっと胸は大きい方がいいかもな。ほら、最近筋肉もついて来て余計に胸が小さくなあいたたたたすいませんじょうだんですゆるしてくださいうでがおれいたたたt」

 俺の腕を決めながらもアテナは少し嬉しそうに笑った。

 「ふん、小娘という彼女がいるくせにわしに襲い掛かってきたではないか、このケダモノが!」

 アルテミスが愚痴る。

 「いやアテナも混ざってたし、大体アレの時の声はアルテミスのが数倍大きく気持ちよさそいたたたたすいませんかみつくのやめてくださいけいどうみゃくがあいたたた」

 「おねえちゃんおにいちゃん、おなかすいたよー」

 ルナちゃんの助け舟の様な声に心から感謝をする。

 

 「それにしても貴族のご息女様かぁ♪私は見た事ないけど、きっと凄く綺麗なんだろうな♪」

 「スレイの街で別の貴族の女性を見ている筈だぞ?ほらあの……アクセサリーを売っていた屋台にいたあの金髪の女性もそうだろう」

 「……嗚呼、あの人もとても綺麗で、おっぱいが大きかったわね……」

 途端にアテナが不機嫌になる。

 「あの人にも随分と甘い言葉を囁いてたし、やはりアヤカートはおっぱいが大きい人が」

 「いやいや、確かに目を引く巨乳ではあったいや違う、そ、そうだ、エルフは体型の違いよりも、内面の美しさを重視するんだ。可愛くて元気で、ちょっと怒りっぽいけど、俺はアテナの方が好きだぞ♪」

 「でもあの人も、凄くよさそうな人だったじゃない!それに貴族だとしたらどうしてああいう所で買い物なんかしてるの?」

 確かに貴族にしては似つかわしくない、庶民が集う屋台って感じだった。

 「そういわれてみれば、どうしてだろうなぁ……あの屋台のセンスが悪い訳ではないが、無論宝石などではなく海辺に落ちている貝や少し綺麗な石を磨いた民芸品だったし」

 ……ちなみにあの後同じ屋台で(また彼女に会わないよう少し時間をずらして)アテナとアルテミス、ルナちゃんのお土産としていくつか買っている。今もアテナとルナちゃんはつけている。

 「確かに素敵だけど、貴族の人はもっときらきらとした宝石とかをつけていると思うけどね」

 アテナは髪をかき上げ、瑠璃色の貝で作られたネックレスをしげしげと見る。


 ……辺境伯の息女が来るという当日、アテナがどうしても見たい、という事で、狩りを休んで見に行く事にした。本来は村のものが総出で出迎えるべきなんだろうが、息女側がその様な派手な出迎えを固辞したそうだ。その為俺たちや、助平な若い男、アテナの様に貴族に興味津々の女以外は普段通り仕事をしている。

 残念ながらルナちゃんは昨日から体調を崩し、欠席する事となった。まぁこの村には2週間ほど滞在するという事だし今回は無理をせず、貴族に興味が無いというアルテミスに看病を任せてお留守番になった。


 「ほら、到着したみたいよ」

 ……村の正門が開けられ、数頭の馬に乗った護衛らしき騎士達と一台の馬車が到着する。馬に乗っていた一人の女騎士が馬車の扉を開ける……

 そこから出てきたのは……

 「あ、あれ?あの人は確か……」

 アテナが目を丸くする。そう……あれはあの時の……衣装を含めた彼女の美しさに貴族を見慣れない村の皆は歓声を上げる。

 「……まあ少し予想はしていたが」

 アテナから特徴を聞いた時、実は真っ先に彼女の顔が思い浮かんだ。金髪の巨乳で街に出たりしている貴族。そういえば酒場の方でも噂になっていたな。

 

 「出迎えご苦労様ですわ」

 そういって村長に貴族風の礼をする彼女、そう、身なりこそ違うがあの時スレイの街の屋台の前で出会った、あのお嬢様だった。

 ……何か面倒そうな匂いがプンプンしてきた。俺は慌てて顔を伏せ、野次馬の男衆の陰に隠れたが……


 少し遅かったようだ。彼女はこちらに向けて護衛の制止を聞かずにずんずんと歩いてくる。そして……


 「やっと見つけましたわ。やはり噂通り、この村に住まわれていましたのね?」

 むんずと肩を掴まれ、ゆっくりと振り向く。

 「ど、どちら様だったかな?」無論忘れる訳がない、俺が脳みそをフル回転して呟いた黒歴史になる位の恥ずかしい台詞を呟いた相手だ。


 「私の名はネメシスですわ。さ、今度こそお名前を聞かせて貰いますわよ、わたくしの愛する婚約者様♪」


 「……へ?」

 「……こ?」


 「「こんやくしゃさまああああああああああああ?????」」

 にこやかにほほ笑む彼女、ネメシスの前で、俺とアテナはほぼ同時に叫んでしまった。

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