16
予定通りフルーツ村に頼まれた買い出しを済ませバッグに入れる。ルナちゃんへのお土産もばっちしだ。あの可愛い顔が綻ぶのが目に浮かぶ。
アテナとルナもキャーギャーいいながら、露天の色んなアクセサリに目を奪われているようだ。
買い物も済んだので自由行動にし、俺は串焼きをつまみながらぶらぶらと散歩をする……
「う~ん、どれにしようかしら……店主、そちらも見せてくださる?」
目の前の露店で、アクセサリーを手にうんうんと唸ってる金髪の少女に気付いた。
背はアテナと同じくらい、髪の長さはアルテミスと同じくらいだろうがふわっとしたくせっ毛を後ろ側で軽く結わえている。
年齢は17,8歳くらいだろうか?ゆったりとしたローブ姿は魔法使いを思わせる。ローブで隠れてはいるが胸も年齢にしては大きい方だ。
その喋り方・髪を結わえるアクセサリからしてそこそこの良家のお嬢さんだろう。顔はよく見えないが……と思った所で彼女はくるりとこちらを向く。
「……あら、すいません、お次のお客様かしら?わたくしに構わずどうぞお選びになって下さいませ」
……これまた物凄い美人だ。どちらかといえば可愛いというより気が強くかつミステリアスな雰囲気だ。紫色の細く鋭い目に小さい鼻と口、薄く口紅もつけているっぽい。
「あ、ああ」
彼女に促され、その屋台では買うつもりもなかったが一応見てみる。女性向けのイヤリングやネックレスだが作りは質素なものばかりだ。彼女の高貴さには似合わない気もするが……
「……丁度いいですわ、ねえ貴方、こちらとこちら、どちらがわたくしに似合うと思うかしら?」
……こういうのは実に苦手だ。二次オタだった俺にそういう女性のファッションなど判る筈もない。かといって適当な答えも出せる雰囲気ではない。
うーん……惹かれる女性ではあるが今自分はアテナとアルテミスで割といっぱいいっぱいだ。これによって縁を作るのもフラグっぽいし……
「初見でお嬢さんの様な美人に似合う物を決められるほど偉くはないよ。そこまで悩むのならどちらもお眼鏡に適ってるのだろう?片方を選んでも近いうちにもう片方を選ばなかった事に後悔するかもしれない」
「あら、褒められるのは嬉しいですが随分と優柔不断ですのね」
「言ったが初見で貴方の魅力や好みを全て判るほど己惚れていないだけさ……そうだな」
俺は彼女の持つネックレスを2つとも手に取り
「店主、両方ともいただこう。どちらも彼女に渡してくれ」
「え、ちょっと待ってくださいな、そんな施しを受けるようなつもりは……」
「俺が買おうと貴方が買おうと、入手は然程問題じゃない」
俺は買ったネックレスを彼女の胸元にかざし
「つける者の輝きによってどちらも更に美しく輝くだろう。人の扱いと同じさ、良い上司が部下の才能を引き出すように、貴族が家臣の能力を引き出すように、貴方がそのアクセサリの魅力を引き出せばいい」
「……ふーん、随分と面白い考えですのね。アクセサリと人を同列に扱うのかしら?」
「貴方は飾られたアクセサリーじゃないだろう?だがアクセサリーと同じで、つけてみないと判らないって事さ」
「あら、それってわたくしを試してみたい、という事かしら?優男のエルフさん?」
「いや、いくら擬装しても輝きを隠せない極上の宝石を買えるほどの甲斐性はないよ、せいぜいその露天のアクセサリーを買ってあげるくらいさ、アメシスト(紫水晶)の瞳のお嬢様?」
「あ、ちょっとお待ちくださいませ!せめてお名前を!」
彼女の追及を交わすようにゆっくりと背中を向けて立ち去る……
だ、駄目だああああああ似合わねええええええええええ!!!!!
どこぞの三流ライターだって感じの、歯に浮くようなセリフを吐いてしまった。
過去に妹に無理やりやらされていた女性向け恋愛ゲームの、キザな攻略対象たちの台詞を繋ぎ合わせて形にしたようなもんだ。死んだ目でゲームをやりながらよくもまあこんな歯の浮くような台詞を言えるもんだと思ったが……言えたじゃねえか。
ああもう、穴があったら入りたいわ……幸い知り合いが近くにいな……
ポーン!警告します。あまり女性を淫らに誘惑するような事は慎むようにお願い致します。
うわあああっ!!!!!そういえば女神には見られてたんだったああああああああ!!!!!
って何だよ淫らにって。そりゃ俺には似合わない気障な台詞だったかもだが、淫らなとかまで言う事ないじゃないか……彼女は確かに魅力的ではあったが俺はロリコンだし、決してあの豊満な胸に惹かれてはいない!
……はぁ……私の胸には反応しなかったくせに……(ボソッ
……今ため息ついただろ?後何か言ったか?
ついておりません、何も言っておりません。それより警告です。彼女に向かって毒矢が放たれますた。貴方に直接被害はありませんが、先ほどの誘惑行為により関与を疑われ、間接的に被害が及ぶと推測されます。対処をお願いいたします。
だから誘惑行為って……それより毒矢だと?彼女に?
確かに良家のお嬢さん風な感じをしているが、暗殺だよな?そこまで重要な人物なのか?
周りを見回してみると、いつの間にか緊急回避が発動したのか、周りの風景が停止していた。
彼女の首辺りを狙ったのか、毒矢というよりは針に近い小さい吹き矢?が光っていた。とりあえず触らないように慎重に無力化し、更にこちらに向けて筒状のもので吹き矢を吹いたらしいフードを被った顔色が悪く痩せた男を見つける。
ううむ、どうするべきか?ここでこいつを無力化するのも簡単だが、殺してしまうとこの案件に積極的にかかわり過ぎてしまう……かといって縛るようなロープも持っていない。それに暗殺に失敗して立ち去られたら、またこのお嬢様が狙われてしまう……。
考えた末に……とりあえず男の着ているローブを脱がし、全裸に近い恰好にさせる(パンツは勘弁してやった)。そして彼女の目の前でバンザイをさせ、いかにも変質者の様に振舞わせる。
えーと、近くに……お、女の衛兵の様な人がいるな。男に気付いていたようで剣を抜きこちらに向かってきていた。多分に遠くから彼女を見守っていたのだろうが、危なかったな。彼女の前の観客をどかし、邪魔をさせないようにする。
その間に俺は観客に紛れ、クールに去るって寸法だ。
そして時間は動き出す。
俺の背後ではローブの彼女らしききゃああああああああという叫び声と、男の叫び声、そして女騎士と思わしきものの声が聞こえていた。
軽く聞き耳を立てていたが、どうやら俺の思惑通り、彼女の前に現れた変質者は無事女騎士に取り押さえられたようだ。
周りが彼女たちに気を取られているのを尻目に俺は何事もなかったかのように立ち去る……
「ふーん、そういう台詞もいえる訳ね、私とかベットの上でもほとんど言われた事ないけどね」
「エルフにしては若いと思ったが……腐ってもエルフか、随分と経験豊富なようじゃのう……このケダモノが!」
……フラグだった。恐る恐る後ろを振り向くと、そこには地獄から召喚された悪魔と地獄の番犬が恐ろしい表情で立っていた……
「な、何の事だ?」
「アルテミスは耳がいいのよ、先ほどの誰かさんの甘~い台詞も一字一句教えてくれたわ♪」
「こ、こっこっこっこっこれは違くてっ!」
初夜の後ルナちゃんに見つかったアテナと同じ台詞を吐く俺。
「とりあえず、あら、そちらに丁度いい場所があるわね……そちらで正座、してみようか?」
「……って、随分ごつごつと尖った石があるじゃないか……そっちじゃなくてもそこの草の上で……」
「……何か、言った、かしら?」
「……イイエ、スミヤカニスワラセテイタダキマス」
……公共の面前で2人の美少女に公開説教される俺。こういうのがご褒美だという奴とは一度じっくり話し合う必要がありそうだな。
「ところでご主人、先ほど「能力」を使ったじゃろう?あの場からご主人が不自然に消え、一瞬でこちらに10mほど近付いたと思えば、先ほどの女が叫ぶのが聞こえたわい。一体何をしたんじゃ?」
「そ、そうだ、彼女たちは……」
そちらの方を見ると大きめの馬車が見える。どうやら先ほどの騒動の後始末の為こちらの方には意識は向いていなさそうだった。
「……いや、何でもない。変質者が出たのをきっかけにそいつを利用してこっちに逃げて来たのさ。彼女は無事か?」
「嗚呼、動転しているようだが特に被害はなさそうじゃ」
「そうか、ではアテナさん……そろそろ足がしびれびれびれしびれびれしてきましたし……残りの説教は宿屋の方で……」
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