第55話 判明した見えぬ仲間

 嵐が訪れる前に世間では事件が起きていた。海斗が次のターゲットして粛清に急いでいた者の失言問題が世間を騒がせていた。国益を自らの趣向によって攪乱させる者へのリコール制度の決起が高まりを見せていた。そやつが失言を犯した。「毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです」。そ奴の価値観が見えたものだった。自分たちが一般の労働者より優秀だとする正に強酸党の信条を吐露するものだった。そ奴の知性の高さは、課題を理解し解決策を導くものでなく、難癖を付け妨害する努力を指していた。

 そ奴は、騒ぐマスコミに「問題発言があったかのごとき状況に…」と不快感を顕わにした。自分に投票してくれた有権者を馬鹿にする発言に気づけない。その背後には、ズイキ工業の会長の怨念から生み出され組織票と献金があるからいち有権者など我関せずの思いが垣間見えていた。

 この地域には国益に重要な計画が進められていたがそ奴・知事が妨害し続け、日本の国益である重要な計画を挫折させた。ある意味、そ奴の目標は達成できた。次期選挙にも出馬し、国益を踏みにじろうと画策していたが、周囲から受ける嫌悪感は敗退の色を濃厚にしていたことから、自分の信条を受け継ぐ者に委ね、様子を見ることも含め辞任を表明して見せた。ほとぼりが冷めれば、復帰もあり得る。ズイキ工業の会長の胸先三寸だ。そ奴の辞任会見も話題になった。細川ガラシャの辞世の句を用いたことだ。「散りぬへき 時しりてこそ世の中の 花も花なれ人もひとなれ」だ。ガラシャは細川家を守り世の混乱を避けるため自ら逝った。河負は、ズイキ工業の会長の意を後世に引き継ぎ、断念と言う嘆きを導き出した。世の混乱より、他者の利益を妨害することで成し遂げ、自慢気に引き際を現した。表音文字でしか理解できない脳で気高い武家の魂を踏みにじってみせた。崇高な理念が理解できない者は、真似ることで満足する典型的な愚か者だ。

 魂界の者は河負を拘束島から抜け出させ、思考に入り込み暴言を吐かせた。魂界の者は万能ではない。洗脳するには外部からの情報を遮断し、孤立化させ閉塞感を与え、意図する思考を注ぎ込む必要があった。拘束島は最適な場所だ。ただ、完全支配できるものではない。河負の発言は、意味を穿き間違えたものであっても、自己都合で改竄してしまう汚点のようなものだ。その間違いを正すにはあまりにも時間がなかった。とは言っても魂界の者の目的は最小限達成されたことに変わりなかった。

 完全な形でなくても終結に向かわせる魂界の者にとって受け入れがたい事だったが背に腹は代えられぬ、で動かざるを得なかったのだ。


ゲル「お前が動く前に痺れをきして魂界の者が動いたぜ。残念だったな、先を越され

   て悔しいか」

海斗「遅かれ早かれだ」

ゲル「でも、河負は拘束島にいるはずじゃないか」

海斗「拘束島の場所を知っているのは俺たちだけじゃない」

ゲル「信用されてないんじゃないかお前」

海斗「信用か、そんなもの必要か。魂界が絡んでいるんだぜ。おれの考えているこは   

   筒抜けだ。嘘も裏切りも不可能だ。しいて言うなら絆かな」

ゲル「絆か、絆って孤独なものなんだなぁ」

海斗「孤独じゃない。それぞれの持ち場で出来ることをしている。ひとつの目的に向

   かってな」

ゲル「物は言いようだな」

海斗「言ってろ。魂界の者は思考に入りその者をコントロールする現世の者を通じて

   な。本来、今回のように私の合意を受けずに動けるのも神仏の関りが巨大だと

   言うことだ。それが分かっただけでも収穫はあった」

ゲル「負けず嫌いだな、嫌いじゃないぜ」


 と海斗は強がってみたが、決断の遅さが身に染みて悔しさに纏わりついていた。「焦りは禁物だ」と言い聞かせ、同時に感情的にならないように自分を戒めていた。


海斗「静岡に向かうぞ」

ゲル「終わったんじゃないのか」

海斗「仕上げが残っている。根絶のための事後処理が残っている」

ゲル「掃除は俺たちの役目だからな」

 

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