オセアンとポートレイト
フランス人のオセアンは、肩を少し過ぎるくらいまでミルクティ色のくるくるした髪を垂らした女の子で、まさにpale,青白いくらいに白い肌。ベジタリアンで、虫も殺さないで、なんて本気でお願いするようなところがあって、部屋には光るガーランド? っていうのかな、を持っていて、夜はそれを明かりにして、kindleで小説を読むのが好きらしい。
父親がスペイン出身で、スペインが大好きだ。いつもインスタグラムには本からの引用や自分でつくった詩を載っけたりしているし、ストーリーには、beautiful natureなんて書きつけて、寮の近くの林の写真を投稿する。自然を感じて……なんてキャプションで自分の自撮りをあげたりもする。
そういう投稿のひとつに、いつか写真撮らせてよ、とコメントすると俄然やる気で、じゃあ今週は? なんて返事が来た。あさ、8時半に寮のバーで待ち合わせる。一緒に撮られたい、お気に入りのものを持ってきて、と言っておいたら、曽祖母から受け継がれているというネックレスや、my most precious thing, という指輪を付けて、リュックサックの中には本やスカーフ、ベレー帽が入っていた。自分のセッティングを彼女に合わせて、ややファンシーな気分へ持っていく。
寮はkingswoodという名の通りwoodに囲まれているので、自然公園のある方へ歩き出す。
「自然を楽しんで、」
なんて普段の私なら言うわけもない言葉を選んで、軽くシャッターを切る。陶酔した表情の写真。ポートレートは、被写体の撮られたい表情と、わたしの撮りたい表情が交差し合うハメになる。ちょっとこっち向いて、顔はあっちに、いいね、いいね、と騒ぎ立て、めっちゃいい! と少し大げさに喜んで見せる。モデルの気持ちに入ってもらうのがまず大切な気がしている。ちょっとした気まずさやバカでかいレンズへの緊張感を取り去ってくれるから。
街灯を見つけたから、singin the rain っていう映画わかる? って聴いたら、もちろんよ、って日本語にすると「〜よ」っていう語尾がつきそうな微笑みと一緒の"Of course"が返ってきた。街灯を掴んでくるり、くるりと回って貰う。子どもの頃の、ピュアな気持ちを保ちつづけていたい、といつか言っていた通り、ニコニコとした笑顔になる。
いかにもモデルがするような、ひとを射抜くような色気のあるような表情を作ろうとするより、きらきらと楽しさが滲み出るような笑顔の方が個人的には好きだった。
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