第5話 婚約

「サリーエ、入ってもいいかな?」

「ルア様、どうぞ。」

「お邪魔するよ。伯爵に、サリーエが王城にいるとは伝えずに君に対する意志を聞いてみたんだ。これが返事の手紙だよ。」

「拝見致します……。」



『ルア殿へ


帰りたくないと言うのならば、帰ってこなくて良い。

好きにしろと伝えておいてくれ。


ルザリシャルエ伯爵家当主』



そう書かれていた。

あのシファナが、私を好きにさせるとは思えなかった。

用済みと判断したのでしょう。

婚約者まで奪ってしまえば、私から奪えるものはないのだから…。

しかし、私にとっては都合が良かった。



「サリーエ。妹に、仕返しをしたいとは思わないのかい?」

「……思いませんわ。全ての責任は両親にあると思うのです。ですが、私は誰を責めるつもりもありません。そんな事をしても、良いことなんて何も無いのですから…。」



奪われたから奪い返す。

そんな事をしたくはなかった。

奪われる悲しみを知っているから、……例え自分のものであったとしても、奪い返す行為は奪う者と変わらないのだから……。

そう思っての発言だった。



「君は優しいんだね…。サリーエ、突然で申し訳ないんだけれど、僕と婚約してくれないか…?」

「え…?」

「学園で君を見かけたと言ったよね。その時、私は君に一目惚れしたんだ。でも婚約者がいたから諦めた。……悲しんでいるところ本当に申し訳ない。でも私は君を諦めきれないんだ…。」

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