第63話

 今後の方針を話し合った結果。


 唯奈ゆいな里依紗りいさそれとミドヴィスの三人はルゥビスに向かってユイナとリイサが死んだこと(という方便)を報告して捜索されないようにしようというのがひとつ。

 擬態した二人とミドヴィスが看取ったという体で話を進め、その証拠として支給されていた武具を返還しようという話になったけど「返すのは武器だけにしましょう」というアフェクトの言葉に俺達は疑問符を浮かべた。


 やれやれという表情と「ふぅ〜」と深いため息を吐いたアフェクトの「背嚢はいのうから防具が出てきたら秘密に気づかれるでしょう。それに嵩張る荷物を持っていくのも不自然すぎない?」という言葉に俺達三人は「あっ!」と揃えて声を出した。

 ということで唯奈ゆいな達はルゥビスに向かい、俺達はセリシェールの荷物の奪還に向かうことになった。


 なったんだけど、こっちは問題が山積み。

 まずセリシェールにはセプテシズムの逃走方向を掴めていないことがあった。そもそもの話、セプテシズムという名前が偽名である可能性が高いこと。犯罪者が本名を名乗ると思えないと言うのが俺達の共通認識だった。

 更にいうと容姿さえ当てにできないこと。

 コレについてはここにいる俺達のうち唯奈ゆいな里依紗りいさ、アフェクト、セリシェールの四人がそれぞれなんらかの方法で容姿を擬態させていることが大きい。

 七人中四人が擬態しているからこそセプテシズムが容姿を偽っていると俺達は疑っていた。

「セリシェールはセプテシズムの外見以外でなんか特徴を覚えてない?」

「特徴と言われても……」

 普通はそうだよなあ。特徴って言われて外見以外ってなるとそれなりに付き合いが長くないとわからないだろうし、それを他者に伝えて捜すとなると難易度は跳ね上がる。なんか、コント的な展開になりそうな予感がする……


 荷物から探索する方法は無いものかという意見も出たけど、こっちは近くにあれば探知できる道具があるらしいけど、有効範囲は大体十メートル。補助的に使用する方針としたけど、肝心の何処に向かうかということが決まらず、ルゥヴィス方面の情報は唯奈ゆいな達に任せて俺達は暫くアンクロで情報収集をしてそれから決めることにした。

「アンクロを離れる時は探索者組合に書簡の入った木箱を預けていくよ」


 この木箱はちょっとした細工をしている。

 二重底にしてダミーの書簡を入れておいて本命は使用者制限をかけた収納魔術で俺達以外には取り出せないようにしておくことにした。

「あんまり考えたく無いけど組合に内通者がいないとも限らないからね」

「うん、唯奈ゆいなの言うとおりだよ」

「そうだな、よその探索者組合で特定の商人との癒着を調べて欲しいという依頼をアンディグで受けたことがある。大きなとこだといろんな人がいるから中にはそういう者も出てくるんだろうな」


 俺に比べて多くの依頼をこなしてきた三人にそう言われると気を回し過ぎたってことはなかったんだと安堵する。俺が警戒し過ぎてるんじゃ無いかって考えていたんだ。


「じゃあ、今日はシェリーナ(唯奈ゆいな)達の旅の準備をしながら情報収集でいいかな?」

「あ、アンクロの街案内は私が引き受けよう」

「そう? 助かるよ」

「皆んなは行きたいところとかある?」

「う〜ん、私は防具を見に行きたいかな」

「女の子っぽくない……」

「うっさい! 今のが悪いわけじゃ無いけど、なんか物騒なことになりそうだし、備えておきたいんだよ。エンリもミドヴィスも装備の更新考えたら?」


 唯奈ゆいなの意見が現実的ではあるけど、それを言われると俺とかエイシャなんて駆け出し探索者以下の装備だよなぁ。

 セリシェールは論外だし。ん? 論外だよな、実はとんでもない付与がかかっててそこらの鎧より防御力が高いなんてことないよな、ゲームみたいに。そんな疑問を持った俺は訊いてしまった。

「セリシェールの服って防具としての機能ってあるの?」


 民族衣装のような雰囲気のワンピース。

 白緑びゃくろく色を基調に萱草かんぞう色と金糸雀かなりあ色をした小鳥と萌黄もえぎ色と鶸萌黄ひわもえぎ色の柳の葉のような刺繍が入ったものに紅海老茶べにえびちゃ色に金糸の飾りが入った幅の広い布を胸の下に巻いたものが彼女の着ていた服だった。まあ、今はその服も洗濯されて室内で陰干し中なんだけど。

 俺やエイシャのようにアンディグの町で買った服と比べると随分生地が厚い。

 セリシェールの着ていた外套の付与のことを考えれば服にもなんかありそうな気はしている。


「さあ、ないんじゃない?」

「えっ、結構生地、厚いよね?」

「でも、古いだけよ。これお母様が若い頃に着ていたものだから」

「ん? んんっ!?」

 セリシェールに年齢を尋ねかけた俺の口にズバンと音がしそうな勢いでアフェクトの人差し指が突きつけられて言葉を発することができなかった。


 後日判明したことだけど幼い見た目のセリシェールだけど、その実は七百二十三歳…… 彼女のお母様の若い頃ということは……

 俺には想像のできないくらい前なんだろうな。

 補修技術が凄いのか、なんか付与がされているのか、セリシェールは結構雑に扱ってるけど良いのかそれで……


 俺はそれ以上のことを考えるのをやめた。

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