第31話
寝室でエイシャと一緒にベッドに入ったあと彼女が耳元で囁いてきた。
「ねぇ、二人は何に落胆していたのかな?」
「あれってやっぱり落胆していたの?」
「レオは二人に何か言ったの?」
「ん〜? えっと、夕飯に唐揚げを作るつもりだったから『今晩は期待しててくれ』って言ったな」
「ん、それでしょ。ぷふっ、あはっ」
「ん? あっ、そうか、二人はアレを期待してたのか」
「ん、きっとそう。でも、最初は私として欲しいなぁ」
エイシャは俺の胸元からお腹にかけてその細い指をゆっくりと這わす。どうしても、その指を意識せずにはいられない。ちょっとだけムラっときた。
「なぁ、そうされると意識しちゃうんだけど……」
「んふっ、誘ってるのよ……」
上目遣いで囁くように告げられるその言葉には艶っぽさが含まれている。追い打ちをかけるように「今から、しちゃう?」と囁かれると、どこがとは言わないがムククっと元気になってエイシャの華奢なお腹を押す。
「あっ…… 元気……」
そこに手を添えるのは勘弁してくれ。
「ん、入りたがってる?」
「ああ〜〜、そうだけど、そうなんだけど! 今は駄目っ!」
「ん、わかってる。二人のためにも、広いところを借りようか」
「いいの?」
「ん、二人もレオと一緒に寝たいだろうから、大きいベッドを買おう」
奥さんになると二人は言ってくれたけど、このままだと一緒にいる時間も限られてしまう。それは、ああ言ってくれた二人に悪い。
「なあ、エイシャ。こっちで夫婦になる時って結婚式を挙げたりする?」
「ん、んん〜、夏のお祭りの時に皆んなの前で夫婦としての宣言する」
「それまでは、夫婦じゃないの?」
「そんなことは無いけど、その時は知人を集めて宣言しないといけない」
「そうか、お祭りは、まだ先?」
「ん、まだひと月半ある」
「それなら先に知人を集めて夫婦の宣言する?」
「レオは、いいの?」
「あ〜〜、その、エイシャとそういうことしたいし、二人ともするとしたら、関係はハッキリしときたいだろ」
「ん、前向きな考えでレオがそう言うなら」
「因みにさ、奥さんが複数いる人って多いの?」
「経済的に余裕があれば」
「成程、ところで、そろそろ刺激するのやめて」
「ん、仕方ない。もう少し待ってあげる。でも、最初は私だから」
「ああ、約束だ」
ちゅっと唇を触れ合わせるだけのキスをする。
「そろそろ寝ようか」
「ん、おやすみ」
「うん、おやすみ」
俺の左腕を枕にしてエイシャが良い位置を探してモゾモゾと動く。良い匂いと柔らかな膨らみが身体に押し付けられて、凄く幸せ……
それほど時間をおかずにスースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。俺はそっとエイシャの身体を抱くように腕をまわして眠りについた。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
翌朝は皆んなより早く起き出して朝食の準備を始めた。
昨日仕込んでおいたフレンチトーストもどき、卵液が上手く染み込んでいるのかドキドキしながら取り出してくる。
「見た感じには大丈夫に見えるな。あとはこれを焼いた時にどうなるかだな」
本当は焼き加減を見るのにガラス蓋が欲しいところだけど、今は無いものねだりをしてもしょうがない。火力も多分強いから薪の量で調節を試みる。
最初の一枚は焼き過ぎた。
片面に見事な焼き色がついた。というか焦げた。
二枚目は逆に火力が弱くて焼き色はほぼつかなかった。火加減が難しい。
四枚目にしてようやく及第点の焼き加減になったので残りを焼いていく。
そうやって火加減を見ていると後ろから近づく足音がひとつ。水でも飲みにきたのかなと思って注意を払わずにいたらギュッと抱きしめられた。
「
「
欠伸が溢れて少し罰が悪そうにしている
「フレンチトースト?」
「ん、フレンチトーストもどき。ちゃんと卵液が染みてるかも怪しいけど」
「メープルシロップってあるの?」
「蜂蜜ならあるよ」
「じゃあ、大丈夫かな」
「ちょっとドキドキするけどね。それより髪が膨らんでるよ」
「ええ〜〜、ブラシかけて」
「朝食の準備が終わってからでいい?」
「むぅ、直してくる」
そう言い残して俺から離れて家の外に向かって行った。多分、敷地内の井戸に向かったんだろう。
入れ替わりに入ってきたエイシャと朝の挨拶を交わす。
「今朝も美味しそうな匂いがしてる」
「まあ、食べてからのお楽しみってことで」
「ん、楽しみにしとく。じゃあ、私も顔を洗いに行ってくる」
「は〜い、行ってら〜」
ん? と小首を傾げてエイシャは
あとの二人、ミドヴィスは俺が起きるより早くに目を覚ましていたので今は市場にサラダ用の葉物野菜を買いに、お使いに行っている。
その
「
「えっ、嘘ぉ!?」
「あっ! うわっ、わっ! いっぱい跳ねてる」
「朝食のあとでよければ風呂の準備するよ」
「うん、そっちの方が早そうだからお願い」
水で濡らして髪の毛を整えた
皆んなで「いただきます」を唱和したあと、早速フレンチトーストもどきを口にする。エイシャとミドヴィスはパクッと口に含んで顔を綻ばせていたけど、俺達三人は微妙な表情を浮かべた。
「なんていうか、コレジャナイ感が酷いな」
「そうだね」
「うん」
卵液はしっかり吸っていたのに思っていたよりもパンが硬いままだし、味も今ひとつ癖が強い。
「これ、ミルクの癖が強いのかな」
「それにこのパンが意外に柔らかくないよね」
「もっとしっとりするかと思った」
「ん〜、元々のパンと比べたら十分美味しいと思うけど」
「いやいや、こんなもんじゃ無いからな本当のフレンチトーストは」
などと話して最後には食パンを作ろうって話にまで飛躍した。
言い出しっぺの
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