第76話 変な夢
変な夢を見た
真っ暗な部屋に自分と鏡しかない
俺はその鏡を見つめている
そうするとスーッと鏡に自分が写し出された
鏡とは自分を写しているので自分と同じ行動しかしないはずだ、だけどこの鏡は違った
急に鏡の中の自分が口を開いた
「なぁお前、いや俺か、なぁ俺、唯さんのこと好きだろ?」
自分でも知らない自分の気持ちを鏡の中自分に言われる
「俺は唯さんのこと好きなのかな」
ぼそっと自分の気持ちを確認するように呟いた
「でも、しっかり向き合わなきゃいけないことがあるだろ、」
しっかり向き合わなきゃいけないこと?
全く見当がつかなかった
「なにそれ?」
自分相手にはタメ口でいけるというのは楽だな
なんていう絶対に今考える必要のないことが頭の中をぐるぐると回っていた
「はぁ?まじで言ってんの?」
「うん?」
そんなに重要なことか分からなかった
「はぁ…俺が初めて唯さんに会ったのはいつだ?」
「二週間くらい前の駅」
忘れるはずがない
今までの人生で1番楽しい二週間なのだから
「違うだろ、そこじゃない、」
「違う?」
違うはずがない、だって、唯さんと初めてあったのはあの日で
「もっと前だ、今よりもっと」
「今より、」
もっと前に唯さんと会っていたのか?
「ヒントはそこらじゅうにあったはずだろ」
この二週間の記憶の中で旅をするように思い出が溢れてくる
「思い出したか?」
「ごめん、全然」
昔の記憶はロックがかかっているかのように思い出すことができない
それに付随することも
「くっそ、そろそろ時間か」
「時間?」
時間とはなんのことだろうか
「次は絶対思い出させるからな」
もう一人の俺がそう言うと
なにかに引っ張られているかのように意識が遠くなった
「おはよう純平くん」
「お、おはようございます」
こちらを向きながら微笑んでくる唯さんにドキッとしてしまい言葉が詰まった
「よく眠れた?」
「はい、多分?」
「最近疲れてたみたいだったから寝られたならそれで良かったよ」
「ありがとうございます」
会話中ずっと唯さんが俺の頭を撫でてくれていた
はずかしいような嬉しいようなそんな気持ち
気持ち?
そういえばさっき変な夢を見た気がする
気がするだけで思い出せない
ということはどうでも良い夢だったのだろう
「そういえば今って何時ですか?」
「今?えっとね」
唯さんはそう言うと部屋の壁に掛けてある時計に目線を移した
「3時半だね」
「え!?3時半ですか?」
「うん」
今が3時半ということは2時間ほど寝ていたことになるのか
「すいません、今どきます」
流石に唯さんの足が痺れてしまう
そう思い頭をあげようとする
「いいの、このままで、このままでいさせて」
唯さんは俺の頭をさっきまで寝ていた位置に固定し直すとゆっくり、ゆっくり、と頭を撫でてくれた
「わかりました、でも疲れたら言ってくださいね」
俺は断ることができず唯さんに身を委ねた
唯さんのしてくれる頭のなで方はどこか母さんに似ている、今はもういない記憶の中の母さんに
嬉しいような、気まずいような、懐かしいような、申し訳ないような
心のなかでそんな葛藤をしている
カーテンから入ってくる夕日はそんなこと知らないと言わんばかりに俺と唯さんのことを照らしていた
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