◆師、弟子からヌーハラをくらう

――学食

しぶる弟子をなんとか誘って学食に来た。私は師だからな、天ぷらそばをおごってあげたぞ。


それなのに、この弟子ときたら……、

「私、実は……ずず……学食来るの、実はですね……ずず……初めてなんです……ずる……ずるずる」


ずるずる、うるせーなぁ……。まぁ、ハッキリ言ったら必要以上にへこんだりいじけたりするヤツだ、もうしばらくはガマンしよう。適当に話を合わせるか。


「そ、そうなのか学食は初めてか!そいつはもったいないぞ、結構、ここは味が良いからな」


「ずず……ずずずるる……」



……あれ?何か違和感?

それとも、イヤな予感というか悪寒?

こいつ、自分で騒音を出していることにまるで気が付いていないのか。まじで……。


「……いや、味は良くても……ずるずる……そもそも私たち、ずすずすず……来ていいんですか、ここ……ずずずすす」


「あ、当たり前だろ!学生じゃなくても来ていいところだぞ」


「そういうことじゃなくて、ずる……ぐびっ……び」


うん、ダメだ、ガマンの限界だ。


「さっきからそばをすするか、話をするかどっちかにしろ!軽くヌーハラだぞ!ずずず、ずずずと!」


ヌーハラ……ヌードルハラスメント。

しかも、気を遣って軽く、とは言ったが軽くは無いぞ。


「ヌートリア?」

「ヌートリアじゃねぇよ、土手掘るヤツだろそれ」


「ずずず……」

「あぁ、ダメだ、ダメ弟子過ぎる。ベテランの落語家でも、そんなに音は出さないぞ、まじこれから、気を付けなさいよ」


弟子は、ぼけーっとしながら、説教を回避しようとしている。なんてやつだ。


「私がここに来ていいのかって言っているのは、私たち魔女ですよね。全身黒ずくめコーデの私となぜかウェスタンな師、そんなイロモノの二人が学生がたくさんいる学食に来たら目立つじゃないですか、ずずぅ……」


ヌーハラは一切、気にしないのに、目立つことは心配するのか、こいつの考え方が謎だ。


まぁ、そのことは言ってもムダの様なので、置いておいて、あえて目立つことの意味を教えてやるかな。


「あぁ、そういうこと」 


「さっきから、ずすずす、なんだかチラチラ見られている気がしていますし……ずるっ」


「いいんだよ!わざと目立つんだよ!積極的に目立つ!」


「は?ダメでしょ!ちゅる。魔法のことって秘密にしなきゃいけないんですから!ちゅる」


「秘密にするために目立つのさ、それに噂も流しているよ」


「噂を流す!?ずすずす?」

「あぁ、この大学には魔女が通っているぞーとか、魔法ってあるんだよーとか」

「えぇーー!!ずびびび」

「ははは!驚いたせいで、さっきから随分と目立っていたぞ!音的にも!目立つの心配していたのは、お前なのにな!」


弟子は、ぐぬぬ……という顔でこちらを見ている。面白い。


「うーんと、結局……どういうことですか?」


「わざと噂を流すことで、『真実』をうさんくさーくしているのさ、いわゆる逆転の発想ってやつだよ!」

「へっ……逆転の発想?」


「あまりにも、怪しい、うさんくさい都市伝説なら、かえって信じなくなるだろ!はっは!」


「ずっ!ずずずず!?」

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