第20話

 俺のことを意識している?

 好きになりかけている?


 いえいえ、殿下に恋をしています。

 嫉妬をしちゃうぐらい、どうしようもないくらい。


 えっと、私は悪役令嬢になる予定のエリアーナ。


 殿下がキャロル嬢と仲が良さそうにしていたのは殿下自身の自作自演ということだったの?

 わたしの気持ちを確かめたくて、キャロル嬢を巻き込んで、わたしから嫉妬という感情を引き出させたということ?


 それは見事な恋の駆け引きの手腕だわ。


 そのおかげでわたしは、殿下に恋をして、キャロル嬢に嫉妬までしているという自覚は持てたけど。


 このまま殿下に、好きになりかけているのではなくて、好きなんです。貴方に恋をしています。と言って殿下の胸に飛び込む?

 飛び込めたら… 愛されてみたい…

 殿下に包まれて、どろどろに愛されてみたい。

 夢に見たこともあったわ。


 でも、いやいや、エリアーナ。

 待て待て。よく考えよう。


 いままであんな塩対応だった殿下が、最近はめっきり甘くなったけど、わたしのことがずっと好きだったなんて簡単に信じるの?

 わたしが公爵令嬢で、殿下も立場があるからそう言っているのでは?

 わたしを見る熱っぽい瞳もこうなったら演技では?


 キャロル嬢は、あれは全て演技で殿下に協力してくれたということは、わたしたちを応援してくれているということなのだろうけど、本人に確認せずにそれを信じるの?


 おかしくない?


 なぜ殿下は、自分の気持ちを直接わたしに伝えるのではなく、1番にキャロル嬢に相談したの?

 もっと前にわたしに素直になってくれていたら。

 どうして、キャロル嬢なの?


 あ、これも嫉妬ね。


 相談をするってことはわたしよりキャロル嬢の方が気を許せるということよね。

 ふたりは気づかないうちに惹かれあっているのでは?


 殿下の気持を信じることが出来ない。

 このままふたりの近くにいるのはやっぱり危険だわ。


 わたしは今まで通りふたりから逃げよう。

 悪役令嬢回避のために!!!



 

「殿下、ごめんなさい。言葉が上手く見つからなくて」

 落ち着け、震えるな。わたし。

 心の動揺を落ち着かせようと、深呼吸をする。


「確かにあの時は嫉妬だったかも知れないです。3年間も婚約者だったのに、突然現れたキャロル嬢に一瞬で殿下を取られたような、そんな気持ちになってしまって…」


これは本当だ。


「殿下はわたしのことを婚約者となった時から嫌いでしたよね?だって、わたしの方を少しも見ようとしなかったし、わたしに笑ってもくれなかったでしょう。会話だって…。あれが素直になれなかったというのには少し無理が。 いろいろなお話しするようになったのもここ最近ですよね。わたしがいままでどんな思いをしていたのか、ご存知でしたか?だから、急にそんなことを言われましても…困ります」


 いままで胸の奥底にしまっていた感情の扉の鍵が開いて、溢れ出してくるのがわかった。

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