悪役令嬢を回避しようと足掻いている公爵令嬢は前世を思い出した王太子殿下に溺愛される。

植まどか

第1話

 今日はレークライン帝国の建国200年記念祝賀式典と王家主催の舞踏会の日だ。

 先ほど、つつがなく祝賀式典も終わり、残すところはあとは舞踏会だけだ。

 わたしは公爵家令嬢エリアーナ・ディステン。

 そして、いま舞踏会の会場の大きな扉が開くのを待っている。


 今日は早朝から支度に追われ、式典では公爵令嬢として気を配り笑顔を振り撒きで、体力的にも精神的にもガッツリ削られ、もう疲労困憊だ。

 こんな舞踏会、早く終わってしまえばいいのにと、つい心の中で毒づいてしまう。


「もうすぐ出るぞ。その長ったらしいドレスの裾を踏んで階段から落ちるようなことはするな。」

「はい。重々承知しております。アーサシュベルト殿下。」

 殿下を見上げ、口角をムリに上げてニコリと微笑む。

 わたしの精神をガッツリ削る原因のひとつ。

 

 目も合わしてくれず、正面だけを見据え、わたしの隣でドレスを褒めるぐらいのお世辞のひとつも吐くことなく、さらりと嫌味を言い放ち、わたしを渋々エスコートしてくれているこの方がレークライン帝国の王太子殿下アーサシュベルト殿下でわたしの婚約者でもある。


 わたし達は同い年。14歳の時に婚約をしてからすでに3年。こんな状態がずっと続いているのでもうアーサシュベルト殿下のこの塩対応にもだいぶ慣れたがそれでも疲れるものは疲れる。


 アーサシュベルト殿下は、小麦の豊穣を彷彿とさせる眩ゆい金髪に、整った顔立ちと深いグリーンの瞳、今日も彼が舞踏会会場に入れば、間違いなく黄色い声のお出迎えが待っている。

 わたしにはニコリともしないので実感がないが、殿下が微笑むと春の優しい光が差し込むようらしく「春の殿下」とも言われている。


 見目麗しいアーサシュベルト殿下と婚約が決まった当初は夢のようだった。

 わたしも王子様との結婚を夢見る少女のひとりだったので、あまりにも眩しいアーサシュベルト殿下に頬を染めた。


 でも、公爵令嬢とはいえ病弱だったこともあり、長い間王都から遠い領地で育ち、突然王都に戻ってきて殿下の婚約者に収まったわたしに、嫉妬からくるご令嬢達の様々な嫌がらせや、厳しいを通り越した王太子妃教育の日々。


 それでも文句ひとつ言わず、ひとつひとつ丁寧に対処して、必死にこなしてきたつもりだったが…


 でも、現実はこの隣にいるアーサシュベルト殿下に塩対応をされ続け、婚約者同士の関係も上手く築けずに、気がつけば残すところあと1年で学園も卒業。そして結婚が待っている。


 夢からはすでに覚めている。

 もう精神的にも限界がきている。

 殿下と信頼関係も政略結婚とはいえ淡い恋心すらもお互いになく、この状態で王太子妃殿下という責務が務まるわけがない。

 もうなんとかして、婚約者の立場をさっさと返上したい。

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