第3話
このままエリザとヴェルナーがいい感じになってくれれば私はスムーズに婚約が破棄できると考えた。
あわよくば平凡な子息でも紹介して貰えたら万々歳だ。
エリザは爵位も高いので他の令嬢から恨まれることも無いはずだし、何より親衛隊のリーダーだからな。
これ程、好都合な相手が他にいるはずがない。
「ヴェルナー様ァ~、わたくし喉が乾いてしまいましたわ。あちらでお茶でもご一緒しましょ?」
「ごめんなぁ僕は仕事中やから」
ヴェルナーの腕を引いて私から引きなそうと必死なのが丸わかりのエリザだが、ヴェルナーは一歩もその場から動かない。
「……ヴェルナー。仕事なら私に構ってないでさっさと行きなさいよ」
「まあ!!ヴェルナー様になんて口の利き方なの!?いくら婚約者だからってヴェルナー様は貴方とは格が違うのよ!?」
本当、毎度毎度よく人を罵る言葉が出てくるものだと感心してしまう。
私とて人から妬まれる人生なんて真っ平御免だ。
こんな婚約者から一日でも早く逃げ出したいって思っているのに。
「まあ、まあ、エリザ嬢。僕とアリアは生まれ時から一緒やし、家族みたいなもんやからね。口の利き方なんて気にならんよ」
「まあ!!流石はヴェルナー様!!お優しいですわ!!」
エリザはヴェルナーをうっとりとした表情で見つめ、その表情に笑顔で見つめ返すヴェルナー。
何だこの茶番……
「そんじゃ、アリアにも言われてしもうたし、そろそろ戻るとするわ」
「あっ、でしたらわたくしもそこまで……!!」
ヴェルナーの後を追って行こうとするエリザの手をすかさず掴んで引き止めた。
「……なんですの?その汚らしい手を離して下さる?」
ヴェルナーの時と態度が雲泥の差。
まるでゴミを見るような目つきで言われた。
しかし、我慢だ。きっとこの人物が私を自由にしてくれる唯一の鍵だと信じる。
「……エリザ様。少しお話宜しいでしょうか?」
「……は?」
──絶対逃がさない。
❊❊❊❊❊
「……なるほど?それでわたくしに手を貸せと?」
何とかエリザをあの場から連れ出すことに成功し、お茶が飲めて目立たない様な小さな店へと移動した。
「えぇ、私は婚約が破棄が出来る。エリザ様はヴェルナーと恋仲になれる……お互いに利のある取引だと思いませんか?」
最初は怪訝そうに話を聞いていたエリザだが、次第に興味を示す素振りを見せ始めたとこで、一気に畳み掛ける。
「……と言うか、貴方、本気でヴェルナー様を何とも思っていなかったのね」
「ですから散々申していたでしょう?」
「……貴方、ヴェルナー様以上の殿方を求めるのはおやめなさい。高望みし過ぎると婚期を逃すわよ?」
何故かヴェルナーよりいい男を落とすために婚約を破棄しようと考えているのだと勘違いされた。
まあ、そこはおいおい誤解を解くとして、先にやることは協力者を募ること。
話を聞き終えたエリザの反応は中々の好感触。これなら確実に協力してくれる。……そう思っていたのだが。
「その話、お断りするわ」
「……へ?」
まさかの応えに力の抜けたような声が出た。
「まず先に、ヴェルナー様は崇拝する方であって恋人や夫などという括りには到底及ばない方なの」
……何を言ってんだ?
「いい事?ヴェルナー様は見て楽しむもので、自分のものにしたら楽しめないじゃない!!推しというものはそう言うものなの!!分かる!?」
……いや、全然分からない。
「だって、エリザ様は私を婚約者だと認めてないですよね?」
「あら?誰がそんなこと言ったの?認めないとは言っていないわよ」
あれ?確かに「認めない」とは一言も言われたことない。
……ちょっと待て、なんか雲行きが怪しい。
「え?だって、私が気に食わないから私の事をいつも罵っていたのでしょう?」
「別に気に食わない訳じゃないわよ。ただ、貴方一人でヴェルナー様を占領するのは良くないと忠告してたのよ。ヴェルナー様は皆のものですから。それに隣にいるのなら貴方にもちゃんとして頂かないとヴェルナー様の品が疑われますからね」
……何かツッコミたい所が所々あるが、エリザが言うことが本当ならば、先程の平民姿を罵った時も要は「ヴェルナー様の隣にいるのになんて姿……ヴェルナー様と釣り合いの取れる格好をしなさい」という事?
口の利き方を罵った時も「その様な口の利き方は品がありません。いくら婚約者でも人前ではわきまえなさい」という事?
………………………あれ?
「…………それに、ヴェルナー様が貴方以外の女性に興味を持たないのも周知の事実ですからね。今更ですわ」
「何か言いました?」
「いいえ?」
頭が混乱してエリザが呟いた言葉が聞き取れなかった。
おかしい……絶対上手くいくと思っていたのに……
エリザの言ったことを総まとめすると、ヴェルナーはエリザ達にとっては憧れの存在で推しであると。
そんな推しの為に動いているのがエリザ率いる親衛隊。
ヴェルナーはあくまでも
「まあ、こうしてお話する機会があったのも何かの縁。わたくしで良ければいつでも話し相手ぐらいにはなってあげても宜しくてよ?」
「……話し相手が欲しいんじゃなくて、協力者が欲しいんだけど」
私が未練がましく言うが「諦めなさい」と一脚された。
「──あぁ、それと、大抵のご令嬢はわたくし達と同意見ですから他を当たっても無駄ですわよ?」
追い討ちをかけるようにエリザが最終通告をしてきた。
他の令嬢も使い物にならないなんて……
「けれど、中には本気で貴方を嫌っている者も少なからずいることも確かですわ。……………まあ、ヴェルナー様が先に動いて牽制しているから貴方は気づいていないと思いますけど」
「え?なんて?」
「自分の身を心配なさいと言うことです」
後半小声で言ったからよく聞き取れなかったので聞き返したが、何か違う回答が返ってきた。
「まったく……このような方がヴェルナー様の婚約者だなんて……」
エリザが溜息を吐きながら頭を抱えている。
だから、婚約破棄する為に協力しろって言ってんじゃんねぇ?そんな事言うなら協力しろよ。
「仕方ありませんわね。これも
ふんっと胸を張って言われたが、誰もそんな事は頼んでいない……
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