不死の皇帝、冒険者になる。放せ、朕はもう帝国には戻らぬ!
おいげん
プロローグ
第1話 転生でバチクソチートをもらった結果
荘厳なる玉座の間に糾弾の声が響く。
「暴虐の限りを尽くす皇帝ローラントよ、貴様をこの国から追放する!」
突然の宣言。こやつは自殺志願者か?
「何を寝言ほざいておる。この帝国で何人が朕に刃向かうことができようか。ふん、あの者を捕えよ。生きたまま串刺しにして臣民に知らしめるのだ」
「ふっ、もはや貴様に従う兵はもはやいない! 皇帝を逃がすな、捕縛せよ!」
なんと!? ええい、放せ、朕に触れていいのは妃たちのみ! どこの貴族家の出か知らぬが、この無礼、一家の命をもって償わせてやるぞ。
「動かないで下さい、陛下。この場で斬りたくはありません」
「おのれぬかったわ。近衛まで朕を裏切っておるとは……」
いないのか。誰も朕の味方はおらんのか!
「誰ももう貴様を必要としていない。これまでの経緯から斬刑が相応しいが、私はいたずらに血が流れるのは好まぬ。ゆえに『あの』南大陸へ島流しとする!」
人外魔境と呼ばれる南大陸……。朕を生かしておくつもりはないようだな。だが。
「ぐぬ、ここで朕の命を奪わなかったことを後悔するのだな。すぐに朕は力を取り戻して貴様らの首を刎ねてくれよう」
強がった高笑いとともに朕は玉座から降ろされる。帝国は新しく生まれ変わろうとしているのか。
◆
いやあ、今日はついている。終電に間に合うなんてすばらしい。
会社に寝泊まりしてどれくらい経ったのだろうか。もう椅子をつなげて寝るのは勘弁だな。まあまだ俺はいいほうだ。事務方だしなぁ。
現場に行っているプログラマさんたちは、今頃煉獄をさまよっているんだろうか。
気がつけば俺もアラサーか。役職試験に受からないと、会社から蹴りだされる頃合いだな。同期はもう誰も在籍しておらず、毎年大量に雇ってくる洗脳された顔つきの新入社員が弊社の戦力だ。俺もそろそろ潮時かもしれない。
だが、それはそれとして! 明日は休みだぁぁぁ! もうね、従業員千人以上いる会社の人事労務が四人ってどういうことだよ。目の前の席の中途入社の女性社員が、うつろな目で社会保険の加入状況をチェックしていたのが忘れられない。いや、手伝えよと言われるかもしれないけど、すまん、俺ももう無理なんすわ。
帰宅し、ビールを飲もうとして、冷蔵庫を開けたところまでは覚えている。
強い眩暈と、ドリルで削られるような頭痛に俺の意識はあっさりと刈り取られた。
◆
「目覚めるのだ、地球人よ」
む、しまった。貴重な休みが……って、ここはどこだ!? いつの間に俺は花園の中に来てしまったのか。ゴクリ……まさか……。
「そのまさかだ地球人」
「頭の中を読まないでください!」
すまぬ、と謝られてから気づく。ここはあれだ。死後の世界ってやつだよな。なるほど、人はこういう風に消えていくのかと感心していたのだが、さえぎられた。
「このたびはワシのバカ娘がしでかした始末、まことにお詫びのしようもない。できることならば何でもいってほしい」
「ん?」
「すいませぇぇええええん!! 転生の儀の力を授かったので嬉しくて、つい……」
「つい、なんだよ」
「くじ引きで連れてきちゃいました」
ファァァァァァ!?
え、マジ? 俺そんな理由で死んだの?
ちょっと人命軽すぎませんか。
「ちなみに今地球では、冷蔵庫に頭突っ込み自殺として三面記事に載っていますぅ」
「死体に鞭を打ちすぎだろ! いや、まあ、後先が見えない人生だったからな。いっそいい機会かもしれない。で、俺はこれからどうすればいいのだろうか」
「ええと○○××さん、あなたにはこれから私たちが管理をあんまりしていない異世界へと転生してもらいます。そこでお願いがあるのですが」
「待って、ちょっと不穏な言葉が……いや、いいです。それでまさか裸一貫で行けっていうわけではないですよね? それは自殺と同義ですよ」
そこで主神と思しき白髭の爺さんが前に出る。
「××君、君には創造神の加護を授けよう。この世界を作成した我々の技術の粋を集めた、君一人だけの力だ。この力をもってして混迷の世界を治めてほしい」
「具体的にどうすれば治めたことになるんですかね」
「うむ、それは人という種族を深く理解する必要がある――長くなるぞ」
創造神様の説明がふわっふわで情報が全く伝わってこない。
「概ね快適」とか「頑張ればいける」とか「自己責任で」など。
今どのくらいの文明レベルなんだろう。一般的によく使われるマヨネーズとかの飯テロ系が効くのか、それともクラフト系の職業が優遇されるのか。治めろと言うくらいだから軍人や政治家にならなくてはいけないのかもしれない。
生まれも重要なファクターになるな。
一発逆転で貴族スタートとか。もしくは女体化していたり? 赤ちゃんからはちょっと厳しいな。スラムや孤児院も割と難易度高そう。
「とりあえず、ひねくれずに成長して周囲を統治していく方向でいいんですかね」
「うむ。創造神たるワシの力でうまくやるのじゃよ、それ授けものじゃ」
俗にいうスキルだとかギフトだとか、そういうものが辞書のように脳内に流れてくる。この細かい字幕とか説明文を読むのは後回しだ。
「火属性マスター・氷属性マスター・雷属性マスター……」
ん、おい。ちょっと多くないか。
「武器マスター・闘技マスター・創薬マスター・テイムマスター・工作マスター……まだつけるぞ。鑑定魔眼・空間収納魔法……もっと要るかの?」
おい待て待て。それにちょっと盛りすぎではないかな。これは胡散臭いぞ。
「若返った不老不死の体。魔法の天稟。またいつでも我々神と対話できる権利を授けよう」
神様のやらかし程度でここまでもらえるとは思ってもよらなかった。
不老不死とか空間魔法とかもう人外確定じゃないですか。
「もう、ありませんよね?」
「む? もっとほしいのか」
「違います。他に話していない情報、ありませんよね」
「どうだったじゃろう……あの前任者が鬱になるほどヤバイ世界は、新任の下級神たちに任せておったからな。あやつら毎日
「えぇ……」
神々の世界も世知辛いな。俺と一緒じゃん。
「挨拶代わりに首を狩りあったりする程度の蛮ぞ――勇敢な者が多い土地じゃな。まあ、各種災害イベントも随分溜まっていたような。うむ、飽きは来ない造りじゃな」
「そこに送られるほどの罪を俺は前世でしましたかねえ!」
くそ。まあこの期に及んで尻込みするのも意味がないか。どうせこの手の場合は地球に戻れない可能性が高い。それに俺はもう未練という奴は持っていないようだ。
「わかった。できるだけ安全な場所に飛ばしてくれ。ああ、割とマジで頻繁に連絡するから、物知りな担当をつけておいてくれると助かる」
「よかろう。それでは行くがよい! アルタリアの大地へ!」
◆
それから1700年以上たった。
端折りすぎなのはすまん。でもこればかりはしょうがない。
現代知識チートってのは、超絶記憶力がないとできない。だから俺は神を頼った。分からないことは相談するのは社会人の基本でもあるしな。
頻繁に創造神やお付きの神を呼び出しては、根掘り葉掘り聞く。もう神ペディアにしたよ。
おかげで俺は共同体の長となり、やがて地方都市の領主、軍人、聖職者なども兼任した。ついには不老不死が広く知れ渡る。俺を中心に北大陸を制覇する大帝国が築かれた。
俺は聖帝ローラント一世としてあがめられるようになった。
以後自称を『朕』としよう。
で、ちょっとやりすぎた。
やりすぎたというのは二つある。
一つは、文化を進めすぎた。
朕が来たときはまだ竪穴式住居に住んでいて、森でドングリ拾って食べてたりする生活だった彼らの時計の針を、爆速で進めまくった。
剣と魔法の世界で軍略内政無双というのは気持ちいいと思うかもしれないが、恐ろしいほどに知識を吸収し、応用していく人材を見るのはちょっと不安感も覚えるものだ。
俗にいうところの、『自分より頭の良い人にモノを教えちゃった』感がある。すくすく育ちすぎて朕怖い。
朕が降り立ったところは、南北二つに分かれた大陸の一つで、北大陸の方だった。
で、ここの人たち優秀なんですよ。地球では何千年もの間原始的な生活をしていて、緩やかに文明度が上がっていった。
北大陸の人々はわずか1700年で近代社会を作り上げてしまった。よくある中世的ファンタジーなんてものはマッハで過ぎ去ってしまって悲しい。
もう一つは、神格化されすぎたことだ。
しょっぱなから蛮族ズに執拗に狙われて、首を何度も狩られた。その都度はめなおしていたら、いつの間にか祀られていたところがスタートだ。
最初は楽しかったのだが、そのうちにうっとおしいぐらいの狂信者が増え始めた。
朕信仰の文化は時代を超えて肥大し、引き継がれていく。
気がつけば朕の発言は神の言葉となった。朕の行動はすべてが是とされる。朕の抜け毛すら聖遺物になる始末だ。
余計なことは一切できなくなった。朕が何かをすればそれが正義になってしまい、朕が立ち寄った建物は聖域認定される。酒を飲めばそれは神酒として祀られる。
実に息苦しい世界になってしまった。
何かにつけて死んで詫びを入れようとする部下だったり、金額の桁がおかしい聖帝の私財だったり、朕のことを疑わない臣民のまっすぐな瞳だったり。
努力した結果、こうなってしまったので仕方がない。
朕の役目は終わった。あとは民が自発的に政経を考え、よりよい統治形態を模索してもらうのが一番いいだろう。君主制から共和制へ。それぞれの価値観が認められる自由な世界になってほしい。
ゆえに、朕は自分を追放し、脱北することにした。
む? 冒頭はすべて朕の独り言よ。
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