第63話:サンティエゴ占領作戦①

 サンティエゴ海軍基地司令官『アーノルド・フィッシャー』中将は朝から底知れぬ不安な気持ちが体を支配していた。


 昭和十六年に完膚なきまで破壊されたサンティエゴ基地であったが大国の意地で日々休みなしの突貫工事で八割まで回復していたのである。


 湾内奥には対潜用駆逐艦を始めとする小型艦艇五十隻が毎日、ローテーションで海中を見回り潜水艦もそれに参加していた。


「何か悪い予感が今朝からしているが……相変わらず偵察の成果は出ていないのか?」


 航空参謀の一人が眉を潜めながら頷くと昨日も10機が飛び立ちましたが一機も帰ってこなかったとの事と言う。


「一体、何が起きておるのだ?」


 フィッシャー中将の問いに誰も答える事が出来なかった。

 何か言おうとした時、レーダーに大編隊をキャッチしたとの報が入る。


「周辺の空軍基地に連絡! 直ちに全機出撃しろと!」


 彼の報告は直ぐに各空軍基地に連絡がいき日々、待機していたパイロット達が愛機に駆けより操縦席に座る。


 その空軍基地の一つの滑走路に10機の4発機が並んでいたが従来の爆撃機よりも遥かに大きく銀色に輝いた未だ新造されたばかりだとわかる。


 その機体の下に少将の肩章をした人物が満足そうな表情で眺めていた。


「ほう、これがテスト段階だが各種項目をクリアしている最新鋭空の要塞B-29か! 何とも勇ましくて美しいシルエットだ」


 その人物の下に一人の男が来て緊急電ですと伝える。


「カーチス・ルメイ少将、出撃命令が来ました! サンティエゴ沖合に大編隊をレーダーにて捕らえたとの事です」


 カーチス・ルメイは頷くと共に出撃用意のサイレンが鳴り響く。

 この基地には陸海合わせて戦闘機300機が常駐していたのである。


「来年にはこのB-29が大量生産されると聞いた。薄汚い黄色い猿のジャップを焼き尽くすに相応しい空の要塞だな」


 そう呟いた瞬間、彼の意識は途切れると共に一瞬で爆散して肉片一つ残さず消滅する。


 伊400が放った八発の多弾頭MOABミサイルの一発がカーチス・ルメイの頭上で爆発したのであった。


 威力は核兵器が爆発した時の爆風のみの効果であったが平坦な土地に長大な滑走路があり所狭しと戦闘機がひしめいていたため、恰好な餌食になる。


 管制塔は一瞬で粉々になって破片と化して飛び散っていく。


 最新鋭爆撃機B-29も滑走路に並んでいた無数の航空機や掩体壕等諸々、跡形もなく吹き飛ばして更地状態になる。


 爆風が収まった時、辺り一面は静寂で爆心地は数メートルのクレーターが出来ていてかろうじて滑走路の端に駐機していた機体は無事だったが生き残った搭乗員も呆然自失な状態であった。


「目標八か所、全弾命中で壊滅的な状況です」


 “晴嵐”から送られてくる映像を見ながら日下達は頷く。

 一つ一つ各飛行場の状態を見た日下はこれで組織での行動が出来ないなと思い次の行動に移ることにする。


「これで周辺の空軍基地は潰したから暫くは制空権を日本の手で握れるだろうから次は対空兵器を潰すとしようか! メインタンブロー、浮上開始!」


 伊400はゆっくりと浮上開始して海上に巨大な船体を現す。

 日下達が艦橋甲板に出ると遥か水平線からレシプロ機のエンジン音がかすかに聞こえてくる。


「南雲機動部隊から発艦した編隊だな……そうだな、この雄姿を見てもらうのが一番だな、これが日本海軍が極秘に開発した潜水艦だとね?」


「それはいいですね? 早速、手が空いている乗員も出て迎えてあげましょう。そのあと、対地ミサイルを撃ち込めば余計に最高のパフォーマンスができるかと」


 橋本の言葉に日下は笑みを浮かべながら頷くと水平線のほうを再び見ると目視でも確認できるが未だゴマ粒ぐらいであった。


 手が空いている乗員が次々と出てきて彼らを迎える準備をする。

 間もなく肉眼でもはっきりと見えるようになると日下は帽子を振れと命令する。


 一方、“瑞鶴”“翔鶴”から飛びだった艦載機編隊も海上に浮かぶ潜水艦を発見した時には敵か? と思ったが艦橋横に日の丸が描かれているのを確認したので友軍だと認識する。


「凄いな、軽巡洋艦クラスの大きさだな?」


「日本は凄い潜水艦を作ったのだな? 幸先が良いな、流石は日本国だな、この国に生まれて俺は幸せだな」


「あれが噂に聞く潜水空母か、確か山本長官の案らしいぞ?」


「乗員達が手を振っているじゃないか!」


 伊400甲板上で沢山の乗員達が帽子を手にして振っている。

 それの返礼として全機が機体を横にバンクしながら伊400の上を飛び去っていく。


 最期の一機が伊400上空を飛び去った時、日下は橋本に目配せをすると橋本が頷いて50連対地ドローンロケットポッドの展開を命令する。


 甲板から自動的に長方形の形をしたジュラルミンケースの大きさの箱がセットされて蓋が開くとそこには50発の小型対地ミサイルが収められている。


「“晴嵐”が作成した3D地形図に記されている対空兵器が展開している陣地の場所を入力だ」


 日下が命令した数秒後には入力完了との連絡が入る。

 橋本は流石ですね? というと日下も頷いて自慢の仲間だと笑みを浮かべる。


「全弾発射5秒前! ……3秒前……発射!!」


 ロケットポッドから50発のドローン対地ミサイルが一斉に発射されると初速マッハ2の速度で上空に舞い上がっていく。

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