第5話:出撃!

 日本海軍が誇る正規空母“赤城”“加賀”“飛龍”“蒼龍”“瑞鶴”“翔鶴”の飛行甲板上では、ゼロ戦二十一型・九十九式艦爆・九十七式艦攻が所狭しと並べていて発動機が回っている。


 二時間前に空母“赤城”艦橋内で南雲は今朝がた、呉から発信された極秘電波を受信してその内容を見た彼は驚天動地して源田大佐や草鹿参謀長に傍受した内容を伝えると彼達も唖然とした。


「こ、この内容は本当に正しいのですか? 念の為に再度、確認してみてはいかがですか? この無線機は敵には絶対に傍受出来ないと聞いていますので」


 草鹿の言葉に南雲も頷いて源田にも尋ねると彼も頷く。

 つい一週間前に前世の記憶を思い出したばかりなのに今度は前世と全く違う内容になっていたので訳が分からなかった。


「(空母二隻に戦艦を始めとする太平洋艦隊が出撃したとは……こんな事がおこるのか? もしかしたら敵にも前世の記憶の持ち主がいれば辻褄が合うのだが)」


 南雲が通信士に再度、確認しろとの命令を出そうとした時、再び呉の山本長官からのメッセージを受信する。


 それを読んだ南雲は最早、まぎれもなく本当の事で、自分が知っている真珠湾攻撃とは全く違う戦いが起きるという事を実感する。


「草鹿参謀長! こうなれば艦隊決戦だ、幸いに敵艦隊の正確な座標は分かっているから今から出撃用意すれば先制攻撃が取れると思う」


 南雲の言葉に草鹿を始めとする艦橋にいた者達は吃驚して南雲の顔を見る。

 慎重すぎる性格なので真珠湾攻撃を諦めて内地へ戻るのではないか? という

のが満場一致の思いだったが南雲らしからぬ決意に吃驚したのである。

 その表情を見た南雲は前世の自分の事を思いだして成程と納得して今の心情を彼達に言う。


「これから始まるのは日本国の興亡を掛けた戦いの幕開けでしかも敵は世界一の物量を誇るアメリカ合衆国だ! 強大な敵と相対するのだ、生半可な戦いではいずれ日本は物資欠乏になり敗北必須だ! その前に現在の持てる最大戦力で徹底的に叩きつぶして恐怖心を与えて米国全土に厭戦気分を蔓延させて有利な講和を結ぶ。これが山本長官の願いであると思う。それにだ! この艦隊には陸軍三個師団を運ぶ輸送船団もいるのだ、しかも総司令は有名な石原莞爾ではないか。陸軍に海軍の力を見せつけてやろうではないか!」


 南雲の演説の内容は全艦隊に発光信号モールスで一字一句が伝えられたのである。

 各艦艇では大歓声を以て南雲の言葉を歓迎する。

 それは航空母艦“飛龍”艦長である『山口多聞』少将も同じであった。


「南雲さん、どうしたのだ? 人格が変わったのではないか? まあ、どっちでもいいか! 先手必勝、アメ公の尻の穴に特大の魚雷をぶち込んでやろう」


 そして、各空母甲板上では今か今かと発艦を心待ちにしていたのである。

 会議の結果、米空母部隊には一航戦が向かうことになり残りの二航戦と五航戦がキンメル戦艦部隊に攻撃を仕掛ける事が決まったのである。


「結局、ニイタカヤマノボレの通信とトラトラトラが無くなったわけか……」

 南雲が“赤城”艦橋から甲板を眺めながら呟く。

 草鹿参謀長がやってきて数分後に発艦するので外で見送りませんか? というと南雲は直ぐに頷くと艦橋から外に出る。

 数分後、発艦許可の旗が振り下ろされた時、遂に出撃が開始される。


零式艦上戦闘機二十一機

九九式艦上爆撃機十八機

九七式艦上攻撃機二十七機

合計、六十六機が“赤城”甲板上から次々と発艦していく。


南雲以下参謀長たちが帽子を頭の上で振っている。

「南雲長官、敵機動部隊まで二時間というところですね?」

 草鹿の言葉に南雲は頷くと“加賀”の方を見る。


 “加賀”からも次々と発艦していく。

零式艦上戦闘機二十八機

九九式艦上爆撃機二十機

九七式艦上攻撃機二十七機

合計、七十五機が発艦していく。


「頼むぞ!」

 一航戦から全機発艦した二十分後、残りの空母から次々と全機発艦していく。

 南雲は空母二隻を撃沈すれば六空母と切り離して艦隊決戦をして残存艦隊を殲滅すると伝えると士気が今以上に上がる。

「この機動部隊全てを失ったとしても布哇全土を手中に入れてみせる!」


♦♦


 真珠湾口から出て行った太平洋艦隊の後を伊400は追尾していた。

「ふむ、ドローンからの情報では“赤城”“加賀”からハルゼー機動部隊の方向へ向かって行き残りはキンメル艦隊か……。橋本先任将校はどうみる?」


 日下の問いに橋本は暫く考えると、この時の日米の練度は遥かに日本の方が優れているので完勝に近い勝利だと答えると日下も頷く。

「そうだな、この時は未だVT信管もないが……」

「艦長、ハルゼー艦隊と日本航空隊との接触時間ですが後、二時間です」


 日下は頷くと艦内無線電話を手に取ると魚雷管制室に繋いで酸素魚雷八本を装填するように命令する。

「誘導魚雷はもったいない! そうだ、CICルームにも伝えないといけないな」

 日下はCICの徳田大尉に後部十五センチ電磁加速砲レールガンの使用も考えているから準備を頼むと伝える。

「戦艦の一番分厚い装甲も簡単に撃ち抜きますからね? 楽しみです」


 徳田の張り切った返答が返ってくる。

 満足そうに頷いた日下は艦長席に座るとじっとモニターを眺める。


「……いよいよだな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る