今朝の夢 (短編集)

田井田かわず

最も古い夢の記憶

忘れられない夢がある。


これは年中か年長の頃に見た夢だ。

 私は保育園の庭で三輪車を漕いでいた。いつもは取り合いになるような三輪車だ。今日はみんながそれを漕いでいる。

 母や兄もそこで自転車を漕いでいたように思う。

 みんな必死でペダルを漕いでいた。必死でペダルを漕いで校庭の隅にある木の何本か生えた花壇の周りをぐるぐると回っていた。

 逃げるように花壇の周りをぐるぐる、ぐるぐると回っていたのにひとり、またひとりとどこかに吸い寄せられていってしまう。

 その先は保育園のホールにあたる部屋で、庭の方から入れるよういつもサッシが開けてある。いまはその場所に赤く大きな鬼が立っていた。そしてサッシの向こうは見たことのない赤黒い世界が見えた。

 三輪車や自転車に乗った人たちが次々鬼に招かれて赤黒い世界へ引きよせられて行く。そして操られたかのように列に並ぶのだ。

鬼は先頭になった人体を小さくして手のひらにのせ、それを少し手で潰してこねると美味しそうに舐めた。

 その姿を見ると私はゾッとして、吸い寄せられないよう必死にペダルを漕いで花壇の周りを走る。花壇に生えた木々に隠れていたくても、そうする事はかなわなかった。

 ついに私の兄も母も鬼に食われてしまった。

 わたしは悲しくて怖くて無茶苦茶な感情の中で、鬼が舐めているものがどういうものかとても気になり始めた。

 そうすると私の乗った三輪車も次第に鬼のいる方へ引っ張られ、あっという間に最前列に立った。

小さくなった体を残し、霊だけが穴に吸い込まれるというとき、わたしは鬼の掌を盗み見た。

 その手に乗っていたのは、スイカの汁のような赤い液体と黒い種だった。きっと甘く美味しい汁なのだろうと私は思った。

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