第四十話 ペットと餌の時間②

「わー! オムライス、とっても美味しそうだ♪」


 と、目の前に置かれたオムライスを見て言ってくるのは澪だ。


 しかし、彼女は決して食べようとせず、うずうずとした様子で陸を見つめてくるばかりだ。

 故に陸はそんな彼女へと言う。


「どうしたんだ? ひょっとして、オムライス好きじゃなかったり——」


「違う! うち、オムライスは大好きだ! それに陸が頼んでくれたなら、なおさら大好きだ!」


「だったら——」


「うちは陸のペットだ! しかも、うちはその辺のペットじゃない! 陸の出来るペットだ!」


「……」


「だからうち、ちゃんと『待て』をしてるんだ!」


「……」


「うち、偉いか?」


 言って、ひょこりと首を傾げてくる澪。

 彼女はそのまま陸へと、もじもじしながら言葉を続けてくる。


「もし偉いと思ったら……うちにオムライス、あーんって……して欲しい、な?」


「……」


 やばい。

 かわいい。


 思わず、あーんってしたくなる。

 けれどそれはダメだ。


(このまま普通に『あーん』しても、澪の好感度を上げるだけだ!)


 初心を思い出せ。

 これは澪に『陸はやばい変態』と思わせ、嫌われる作戦なのだから。


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち、澪へと言う。


「『待て』をしたぐらいで、この俺が満足するとでも思うのか?」


「り、陸?」


「俺のペットなら、もっとまともな芸をしてみせろよ」


「で、でもうち……何をすればいいのかわからない!」


「全く、澪は駄目なペットだな」


「う、うぅ……」


「ちんちんだ」


「ちん、ちん……?」


「芸だよ。ペットなら人間様の椅子に座ってないで、床に座ってちんちんしろ」


「っ」


「そうしたらオムライスを食わせてやるよ」


 言ってやった。

 ここまで言えば、さすがの澪もドン引きするに違いない。


 というか。

 陸が澪の立場なら、引くを通り越して軽蔑するかもしれない。


(なんせ、女の子にこんな酷いことを言うんなもんな)


 ありえない。

 完全にクズの発言——。


 ガタッ!


 と、聞こえてくる音。

 澪が立ち上がった音だ。

 見ればそんな彼女は両手を握りしめ、ふるふると震えている。


 間違いない。

 澪はそうとうキレている。

 遠回りしたが、これでようやくミッションコン——。


 バッ!


 と、急に動きだす澪。

 彼女はすごい速度で靴を脱ぎ、生足状態で床にしゃがみ込むと。


 ちんちんした。


 それだけではない。

 彼女は続けて。


「これでいい、か? よかったなら……う、うちのこと……はぁはぁ、もっと虐めて欲しい、なぁ」


 と、そんなこと言ってくる澪。

 彼女の表情は見るからに歓喜に歪んでいる。

 見誤っていた。


(まさか、さっきのは怒りに震えていたんじゃなくて)


 陸の変態的命令に喜んでいた?

 まずい、だとしたらさっきの命令は逆効果だ。

 と、考えた瞬間。


「陸ぅ……うち、陸の言う通りにしたよ?」


 すりすり。

 すりすりすり。


 と、陸の下半身に頬を擦り付けてくる澪。

 彼女はそのまま、陸へと言葉を続けてくるのだった。


「だから、ね? うち……陸からお情け(オムライス)もらいたいなぁ♪」

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