第二十五話 愛からの逃避行②

 やばい。

 最後の最後——あとは正門から出るだけというタイミングで、澪に見つかった。


(ど、どうする!? 他のタイミングはともかく、このタイミングは致命的だ!! なんせ……)


 と、陸は隣を見る。

 そこにいるのは真冬だ。

 そしてそんな彼女は現在、陸と手を繋いでいるのだ。


(ひょっとしてこれ、修羅場というやつになるのでは?)


 だってこれ。

 澪のことだ——陸と真冬の関係を勘違いして、カッターを取り出してきたり。


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


「陸、どうしたんだ? なんで学校から帰ろうとしてるんだ……それも、真冬と一緒に」


 と、そんなことを言ってくる澪。

 澪が真冬を呼び捨てしていることで思い出す——そういえば、澪と真冬は幼馴染で親友だったのだ。


「なぁ陸、どこに行くんだ?」


「そ、それは……」


 と、陸は澪の言葉に対し、思わずつまってしまう。

 そうこうしている間にも、澪は陸へとさらに言葉を続けてくる。


「うち、陸が心配だ! 今日の陸、なんだかおかしい! 急にそわそわしてるし、なんだかうちから逃げて——」


「澪、落ち着きなさい」


 と、澪の言葉を断ち切るのは真冬だ。

 彼女は澪へとさらに言葉を続ける。


「陸は風邪をひいているの。実は昨日、私が足を踏み外して川に溺れてしまってね……陸はそれを助けてくれたのよ」


「陸が、風邪……でもそれがどうして、一緒に帰ることになるんだ?」


「陸が風邪を引いたのは、私を助けに川へ飛び込んだからよ。当然、川に飛び込んだ私も——」


「っ! 陸と真冬は同時に風邪をひいたんだ! だから一緒に帰るんだな!?」


「そういうことよ」


「なんだ! そういうことか! それなら納得だ!」


 と、ニコニコ笑顔になる澪。

 だがしかし、次の瞬間。


「じゃあ、どうして陸の手を繋いでいるんだ?」


 と、全く笑ってない目で言ってくる澪。

 やばい、確かにその通りだ。

 先ほどの澪の理論だと、そこが全く説明できない。


(いや待て! あるぞ、説明できる方法が!!)


 などなど。

 陸はそんなことを考えた直後。


「う、ぐ……っ」


 と、真冬へと倒れるように寄りかかる。

 すると。


「ちょ…….陸!?」


「陸! どうしたんだ!?」


 と、異なる反応をしてくる真冬と澪。 

 陸はとりあえず澪をスルーし真冬へと言葉を続ける。


「ごめん、真冬……ちょっと眩暈が。熱がまた上がってきたのかも……」


「熱……? あぁ、熱……そうね、そうだったわね」


 と、何かを察してくれた様子の真冬。

 彼女は陸を支えるように腕を回してくれる。

 だがここで事件が起きた。


 フニ。


 マシュマロのようなものが、陸の体に当たっているのだ。

 いったいこれは。


(まさか、これは——)


 フニ。

 フニフニ。


 この弾力。

 柔らかさ。


(おっぱ——)


「この通り、陸はいつふらついて倒れるかわからない状況なの」


 と、陸の思考を断ち切るように聞こえてくる真冬の声。

 彼女は澪へとさらに言葉を続ける。


「だから、まだ発熱していない私がこうして、いつでも対処できるように手を繋いでいるのよ」


「そんな……っ! 陸、そんなにわるいのか!? ど、どうしよう……うち、うちっ! 陸が心配だ! 陸が死んじゃったら、うちは!!」


「大丈夫よ。私が責任持って彼の家まで送るわ。だから、あなたは陸の分まで勉強してあげなさいな」


「陸の分、まで?」


「そうしたら、あとで陸に勉強を教えてあげられるでしょう?」


「勉強を…….教え、る? っ…….そうだ! うち、陸に勉強を教えるんだ!」


「だったら、わかるわね?」


「うん! 真冬、陸をお願いします、だ! それと陸、ちゃんと休まないとダメだぞ!!」


 と、そんなことを言ってくる澪。

 彼女は——。


「それじゃあうちは戻る! バイバイ!」


 などなど。

 手をフリフリしながら戻っていく。


「助かった、のか?」


「ええ、あなたの機転のおかげでね」


 と、陸の言葉に対し、そんなことを言ってくる澪。

 彼はそんな彼女へと言う。


「いや、俺は真冬をフォローしただけだ。正直パニックでなんも浮かばなかったよ……それと」


「それと……なにかしら?」


「演技とはいえ、ずっと腕を回されてると照れるというか……割と顔も近いし、その……なにより胸が」


「っ!」


 と、急に離れる真冬。

 彼女は陸をジトっとした瞳で睨みながら、言ってくるのだった。


「……変態」

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