第24話「初仕事です!」

 翌日。

 開店三十分前にカフェレビィへとやってきた。


 時間を聞いていなかったため開店してからが良かったかな、とちらりとお店を覗くと、ルウィーナさんがやってきて裏口を開けてくれた。


「よく来たね、アイリスちゃん! これからいろいろと説明するから、裏で待っててもらっていいかい?」

「はい、わかりました」


 ルウィーナさんが指さしたところはただの白い壁で、触れるとドアに変化し、中に入ることができた。

 恐らく魔法だろう。


 ルウィーナさんは私がどれくらい働けるかと、福利厚生の説明、給与の説明、服装や髪型の規定などを話してくれた。


 一通り話し終えると、エプロンを支給され、早速働くことに。

 給与も出るから問題ないよ、とまで言ってくれた。


「今日のホールはミル、ナジェリ。兎の獣人のほうがミルだ。キッチンはルザックとルト。ルトが犬の獣人ね。ミルとナジェリにフォローしてもらいながらやってくれ!」

「よろしくお願いしますね、アイリスさん」

「私もよろしく」

「よろしくお願いします」


 兎の獣人であるミルさんは、黄金色の髪で顎下のボブに切り揃えている。

 昨日ホールを担当していた人だ。可愛らしい見た目をしている。


 ナジェリさんは明るい茶髪で、長い髪を一つに結んでいた。背が高く、モデル体型である。


 その日はミルさんとナジェリさんにフォローされながら、オーダーを取って料理を持ち運ぶことだけを行った。

 会計などはおいおい教えてくれるそうだ。


 前世でも学生のころいろんなバイトをしていたからできそう、と思っていたけれど……異世界でのオーダーの取り方は魔法が組み込まれているため全然違う。


 難しくて二人に助けてもらいながら、なんとか一日働くことができた。


 明日はドリンクとパフェ作りを教えてくれるらしい。

 早く仕事を覚えられるようにならなくては。


「アイリスちゃん、お疲れさま。ちょっといいかい?」

「はい、どうされましたか?」

「一日働いてみて、何か違和感を感じたりすることはなかったかい? もちろん、わからないことがあったら教えてくれればいいから」

「違和感……?」


 違和感と言われても、変な部分はあっただろうか。

 強いていえば……。


「女性客しか、いない……?」

「そう、そうなんだよ!」


 ルウィーナさんがずいっと顔を出して同意する。


「うちは男性客も呼び込んでくれってオーナーから言われてるんだ。でもなかなか来てくれなくて……。アイリスちゃんって、こないだカリナの店の売り上げを上げた人だろ? 何か案があったら言ってほしいんだ」

「え、カリナさんとお知り合いなんですか?」

「そう! カリナは昔ここで働いてたのさ。私も時々あの店に顔を出してるんだ」


 まさか、私の働き先の店長とカリナさんが知り合いだとは。

 しかもカリナさん、ここで働いていただなんて。


 ルウィーナさんから聞いた話では、自宅から通うのが遠くて辞めてしまったらしい。通勤時間って大事だよね。


「それで……どうだい? うちの店に改善点はあるかい? ないならないでいいんだけど……」

「改善点……男性客を呼び込みたいんですよね?」

「ああ、そうだ。オーナーに言われたのは、男性客を呼び込めっていうのと……客層が限られているから、もっと年齢層の幅を広げたいってさ」

「それなら……もう少し内装をシンプルなものにしませんか?」


 私が気になっていたのは、店内がかなり若い子向けに作られていることだ。

 男性客も呼び、年齢層の幅を広げたいなら、今の内装を変えたほうがいい。


「ピンクと白の内装は可愛いですけど……男性や年配の方は入りにくいかと思います。もう少し落ち着いた内装にして、ターゲットの方たちが入りやすい風にするのがいいかと。例えば……白や黒といった無機質カフェにするとか、茶色と白のナチュラルな雰囲気にするとか。観葉植物多めにしたり、ぬいぐるみのような可愛らしい小物じゃなくて、キャンドルやオシャレなポストカードの写真立てなどにするとかどうでしょう?」

「おお……おおぉ……」


 ルウィーナさんはいつの間にかメモを取っていた。

 ボールペンを動かした後、バッと顔を上げて前のめりになる。


「明日、良ければ来てくれないかい!? 臨時休業にして、経費で内装を一新しよう! 朝からここに来れるかい?」

「は、はい、来れます!」

「じゃあ、よろしく頼むよ!」


 ルウィーナさんが肩をバシバシ叩いて、期待の眼差しで見つめてきた。

 明日はエリオットもお仕事だろうし……お店の売り上げが上がるなら、貢献しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る