第8話 伊藤 咲奈
「はじめまして、私は
丁寧な挨拶と明るい声音。
おそらくは十代後半ないし二十歳くらいだろうか。格好こそまるで違っていたが中身は明らかに日本人そのものだった。天真爛漫という言葉がぴったりで小顔で手足がすらっと長い姿は最近の若者そのもののように見えた。ちなみに身につけているのは漫画やアニメなんかで見る露出度の高い鎧とかではなく、動きやそうな格好だった。…正直服とかファッションにまるで疎い中年にはどう言えばいいのかわからなかったが。ちなみにちなみに、アグニルさんやシーラさんは日本の着物(?)みたいな感じの服装をしている。
「初めまして。横島透と申します」
「透さんですか。なるほど、だからトールさんなんですね?」
「ええ。こちらの方にはその方が発音しやすいようでして」
若者に興味津々に聞き返されると何でも答えたくなってしまう。中年の悲しい性だが、今はこちらの方が赤ちゃんなのでちぐはぐな画になっているに違いない。それもおかしなことだと思いつつ、おれは彼女とのコミュニケーションに集中することにした。
伝手が来た。
突然の出会いというのはいつだってチャンスなのだ。おそらくは長老あたりが気を使ってくれたのだろう。同じ世界から来た者同士で親睦を図れと言うことなのかもしれない。あるいは、彼女からおれの素性や人となりを聞き出すのが目的なのかもしれなかった。
シーラさんとの対話を見るに、彼女はおれよりも彼らと付き合いが長いのだろうから。
「トールさんはこちらに来た時のことを覚えていますか? その、言いにくいかもしれませんが」
挨拶もそこそこに本題に入るのは若さだろうか。
そんな嫌な考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。そもそも、おれ自身に死んだ時の記憶がないのだから嫌な思いをしようがない。彼女なりの距離の詰め方なんだろうかと思いつつ、
「いえ、覚えていないんですよ。目が覚めたら赤ん坊になってまして。正直驚きました」
正直に答えた。
「そう、ですか。目が覚めたら、ですか」
なんてわかりやすい。
初対面のおれから見ても明らかに動揺しているのがわかった。何かあるのは間違いないなと確信した。それがなんなのか聞き出す必要があるだろうかと思ったが、彼女は話題を変えることにしたようだった。切り替えも早い。それも若者らしいのかもしれない。
「あの、突然なんですが、私たちの仲間になりませんか?」
本当に、こう言う単刀直入さや素直さはおれにはなくなったなと心の底から思う。警戒心とか猜疑心とかより前に彼女の正気を疑ってしまうんだから。
赤ん坊を勧誘する女学生。
うん、ある意味微笑ましいがそのまま誘拐事件に発展しないか心配になる絵面でもある。…いや、ないだろうか?
まぁ、赤ちゃんの中身が中年おじさんなのだから問題ないだろうか。いや、それはそれで問題なのではないだろうか。
そんなどうでもいいことを考えつつ、
「仲間というと、日本人のコミュニティのようなものがあるんですか?」
とりあえず話を聞いてみることにした。
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