第37話 狂信者
「キルディスの従えた第八皇子の強さは予想以上だ。あのジャルガを単騎で倒した」
四天王の集う円卓の間で、狂炎のガルフが水晶に映した第八皇子の映像を見せる。
「たしかにキルディスといい闇の紋章もちの人間のコンビは少々か厄介じゃの」
濁水のグーンが言う。
「厄介で済む話か!?仮に本当にエルフの大賢者を倒してしまったらどうする!我々ではたちうちできんかもしれんぞ!?」
憤土のデウウが言う。
「それこそ愚門じゃの。現状でわれわれを凌ぐというのなら、手を出したら滅びるのはこちらじゃ。あやつらが我々を強いと勘違いしている間に協力させて、魔王様復活まで利用したほうが賢い」
濁水のグーンが葉巻をふかしながらふぉふぉふぉと笑う。
「そ、それはそうだが」
「まぁ、手をこまねいて見ているのもあれじゃな。どうせなら我々が危険すぎて手をださなかったあれに相手をさせてみるのはどうじゃ?」
濁水のグーンが笑う。
「あれ?あれとはなんだ?」
狂炎のガルフが濁水のグーンを見た。
濁水のグーンは地図を取り出すと、聖教都市ティアラを指さす。
「聖教都市にある神の古代兵器。【聖光のゴーレム】じゃ。【神時のゴーレム】など比べ物にならないほどの戦闘能力を誇る。あれは我々の手にもあまるためいままで封じてきたが、魔王様の魂吸収範囲が広くなったいまなら、暴走させても構わぬじゃろう。うまく行けばキルディスも大賢者も両方滅ぼして魔王様復活に必要な魂も集めてくれるはずじゃ」
そう言って濁水のグーンはにんまりと笑うのだった。
★★★
聖教都市ティアラ。
光の神ネロスを祭る神官達の都市。
光の神ネロスの神託を告げる聖女が国を治め、信仰深い人々の集まる地でもある。
そして今日はその聖教都市ティアラは豊穣の祈りの日でもあった。
城の外に集められた市民たちは今か遅しと、聖女のありがたい神託を聞くために集まっていたのだ。
よく見える位置にあるバルコニーに、神官達に守られた聖女の姿が現れると、信徒たちから「わーっ!!」と歓声があがった。
その姿を聖女は一望したあとにっこり微笑む。
「みなさん、よく集まってくださいました。聖王国ディランの砦が破壊され、帝国においても、知将と知られ信心深かったカンドリア辺境伯が帝国の汚き刃に敗れ、獣人の国ドルガまで堕ち、世界は戦乱に染まろうとしています」
城の外にあつまった人々に魔法で拡張したよく通る声で聖女が告げる。
「聖女様お救いください聖女様!」
聖女の言葉とともに、信徒たちが、一心不乱に聖女に祈りだした。
ここ最近の帝国の横暴はすさまじく、人々はいつ自分たちの国が戦火に巻き込まれるのではないかという不安と常に戦っているのだ。その不安をぬぐってくれる神託を期待して、人々は聖女に祈りを捧げにきていた。みな祈りながら熱心に聖女の言葉に耳を傾ける。
「光の神ネロス様はこう告げました――そう遠くない未来。
我々の不安を払拭、世界に平等の平和をもたらす天使が現れるだろうと!
さぁ、祈りなさい!!我々をお救いくださる光の神ネロス様に!!!」
その声に「わーっ!!!」と歓声があがった。
自らの言葉で喜び勇む民衆を見つめて聖女はにっこり微笑むのだった。
「お疲れ様です聖女様」
城の中に入ってきた途端、神官の中でも最高位にあたる大神官が聖女にタオルを差し出した。
「民の不安を払拭するのは聖女の務めですわ。それより大神官様がわざわざ私の前に来るなんてなにかありましたか?」
聖女はタオルを受け取りながらにっこり微笑む。
「それなのですが……濁水のグーン様から指令がきました。ついに神の機械を動かす時がきたと」
大神官の言葉にその場に居合わせた神官達からざわめきがおきる。
「ああ、やっとですわ。神の機械に蹂躙される帝国兵。すべてが希望に満ち満ちたその瞬間。迷い子たる我が国の国民も下界より開放し、救われるのですね」
そう言って、神の機械が自国民を無慈悲に殺していく姿を想像して聖女はうっとりとする。
この世界はまがい物だ。
弱肉強食という不条理を生き物すべてに課したせいで、皆平等という理念は幻想にすぎなく、真の平和などありえない。ならば生き物などいなくなれば?
そうすれば皆平等だ。誰もいなくなるのだから。
理想の世界のために魂が吸収されてしまう彼らも幸せだろう。
理想の世界に逝けるのだから。
そして神はそれを望んでいる――滅びを与える魔王と称されている存在は【救済の天使】であり神の意志なのだ。神の忠実な使徒だからこそ、何度でも蘇り、何度でも世界を滅ぼす。
そしていま、【救済の天使】が望んだ世界がもう少しで実現する。
★★★
「さぁ、民を救済しましょう!みな救済の天使様に魂を捧げ真の平和を!幸福を得るのです!」
いかれた聖女の言葉に神官達から歓声が沸き起こる。
「……あの人達は、あれを本気で言っているのですか!?」
物陰に隠れていたアレキアがぐぐぐぐと壁をめきめき壊しながら言う。
「ええ、ああいう集団です。……まぁアレキアはそういう反応をするからエルフの大賢者様がこの国の攻略に一度も連れてこなかったのですが……」とシャルロッテ。
「アレキアが正義厨なのはあいかわらずじゃの」と、ジャルガ。
「おい、アレキア、目的を間違えるなよ。俺たちの目的はこの城の地下にある「天聖のダンジョン」に眠る 【創造主の宝珠】だ」
俺は分体のカルナの通信で3人の会話に割り込んだ。
結局あのあと、【創造主の宝珠】をとりにいって、世界の権限に触れようぜ!となったのだが、創造主の宝珠があるところには英霊しか入れないらしい。
そのため前世ではジャルガが、ガッツで(本人がこういった)英霊化して一人で取りに行ったらしいのだ。確かに死を間際に、守りたいという気持ちで英霊化になる例はゲームでもあったが、「英霊になりたい!だからなる!」とガッツで無理やり英霊化するとか、ジャルガはいろいろおかしい。ある意味俺以上におかしい。俺って実はまともなんじゃないかと錯覚を覚えるほどジャルガはおかしい。
話がそれたが、そのため今回は英霊化三人組に【創造主の宝珠】をとりにいってもらい、俺とキルディスは魔族に操られてるふりをして聖教都市ティアラへの攻略に乗り出すことになった。
「わかっています。このように神の名をかたり、世界に混沌をまき散らす者たちを成敗するために、私は全力をつくすまで!」
ぐっとポーズをとるアレキアの口をシャルロッテがふさいで、とことこ歩き出す。
うん。その方がいいだろう。
つーか、ジャルガの話を聞いた今、どっちかっていうと忠実に神の意志を汲み取って行動しているのは聖女の方な気もするが。
濁水のグーンがこの都市に動けと命じたということは【聖光のゴーレム】あたりをもちだして、俺とキルディスを殺して、ついでにそのゴーレムを暴れさせて人類も滅ぼそうという魂胆だろう。
魔王の魂の吸収範囲が広まった今なら、人間を無差別に殺戮しまくっても問題ないと、動かすことを決定したのだろうが、俺にとっても魔王に迷宮の魂を送りこむのに都合がいい。
ジャルガの話で――ある程度全貌が見えてきた。
記憶をなくす前のエルフの大賢者の狙いも、何故俺が選ばれたのかも。
さぁ、そろそろ このペテン劇の終章だ。
レイゼル。――そして前世のエルフの大賢者ファンバード・ロッドウェル。
ここまで、お前たちの計算通りだった。
……そう、俺の推測通りなら、決着はもうすぐだ。
神も魔王も、世界をも全てをひっくり返してやる。
最後に笑うのは、誰でもないこの『俺』だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。