第33話 獣人の国ドベル
「獣人の国ドベルを侵略するように命令がきた」
皇帝の指令所を片手に俺が言う。
あれから数日、カンドリアの砦を俺が制圧し、掌握したところで指令が入る。
「……また無茶な事を。兵の補充もあれだけなのにですか?」
勅命の書に目を通していたシャルロッテが悲鳴に近い声を上げる。
そう先ほどのカンドリア騎士団との闘いで第二皇子が率いていた軍はほぼ壊滅。
その後侵略用に補充された兵士はたったの100人。だが彼らは砦の維持に回さなければいけず、侵略は無理といっても差し支えない。
「簡単な事さ。皇帝は四天王の濁流のグーンと繋がっている。キルディスの力で侵略してキルディスが目立つのを望んでる。そうすれば大賢者の標的はキルディスになる。あいつらにとっちゃ、エルフの大賢者が死んでもよし、キルディスが死んでもよし、得にしかならない。キルディスに派手に暴れろということだろう」
俺が菓子を食いながら言うと、キルディスが「いやぁぁぁぁぁ」と叫んで、ソファの後ろに隠れる。
「マスターはこの無茶な指示に従うと?」
「ああ。もちろんだ。ここの魂を捧げれば、一応魔王を倒すぎりぎりの力を送り込めることになるんだよなカルナ?」
「そう、でもあと二つくらいは大きな戦いをおこしたほうが無難。いまはデータ上で本当にぎりぎり」
「エルフの大賢者が復活する前にやっておかないとな。正直魔族なんて敵じゃない。俺たちに脅威になりえる敵はエルフの大賢者のみだ。侵略はさっさとやる」
言いながら俺は視線をアレキアとシャルロッテに向けた。
「で、お前らはどうする?アレキアにシャルロッテ。兵士相手だった今までと違う。今までは戦いの最前線の砦のみで魂の吸収範囲だったため見逃されてきたが、今回は獣人の国すべてが魂吸収範囲だ。戦闘の意志のない無関係な一般人も無慈悲に殺さなきゃいけなくなる。女子供も関係なく殺る。
いくら生き返らせるとしても、一度殺すことにはかわりない。
どんな大義があろうとも、それは俺達にとっての大義で、殺されるやつらには関係ない、これは正義もなんでもない、大量殺人だ」
そう言って俺は二人を見つめる。これは大事な事だ。
「いいか、お前ら二人のメンタルの心配じゃない。
これは作戦をたてるうえで重要な事だ。やれるかやれないか正直に答えろ。
お前たちがためらった途端、計画が破綻する可能性は0じゃない。
お前らが無理なら計画を変えるだけだ。言っちゃ悪いが、お前ら二人がいなくても、俺一人で十分できる。少し時間がかかるか短時間でできるかのだけの違いだ。だからやれと強制はしない。やれないのにやれるという強がりが一番迷惑だ。やれないなら正直に言え」
「英霊化したその時から我らの心は決まっております マスター」
俺の言葉に二人は大きくうなずいた。
★★★
「シャルガ様。カンドリアは帝国の手によって陥落。カンドリア辺境伯も村民を避難してくださったラシューラ様もその部隊も戦死したとの報告がはいりました」
獣人の国ドベルの帝国との国境の砦で、獣人の国の豪拳獣姫と呼ばれるシャルガは部下に声をかけられた。金髪猫耳の小柄な獣人だ。
獣人の国の鬼神と呼ばれ、その強さは父である国王を上回る。
それが故、前線で戦う事が多く、彼女の参加した戦では敗北したことがない
「そうか。援軍は間に合わなかったか」
そう言ってシャルガは砦からカンドリアの方角に視線を向ける。
ジャルガは近々戦争が起こると、ラシューラが辺境の村々の住人を砦まで避難させた知らせをうけ、精鋭部隊をまとめて王都からきたのだがジャルガが到着した時にはすでにカンドリアの砦は堕ちてしまっていた。
「ラシューラ嬢とカンドリア辺境伯の死は無駄にできぬな」
「はっ。帝国もカンドリアの騎士との激闘で兵士の消耗が激しく、帝国から援軍が来る気配もありません。最近100人ほどの騎士が送られてきましたが、我が国に攻めてくるほどの兵では……」
「何を言っている。来てるではないか」
「は?」
兵士の言葉を遮ってジャルガがにまぁっと笑った。
慌てて兵士が視線を向けると、カンドリア騎士団の甲冑を被った大量の騎士を引き連れて、帝国軍が向かってくる。あの旗印はたしか第八皇子のものだ。
ざっと見ただけでも兵士の数は2000近くいる。
「まさか、カンドリア騎士団はほぼ壊滅していました。城内に積まれた死体も我々は確認しております」
獣人の騎士が目を細めて言う。
「おそらく帝国兵が鎧を着ているのであろう。カンドリア騎士団が我々と親睦があったのを知っていて、その情を利用しているのであろうが……我らはそう甘くはないぞ帝国」
そう言って豪拳獣姫が砦内に響く雄たけびをあげる。
砦内の兵士達がそれに呼応するかのように、一斉に雄たけびをあげた。
「さぁ、カンドリア騎士団の弔い合戦といくのじゃ、我らドベルの力見せてやろうではないかっ!!!」
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