第26話 精神的勝利
「大賢者が倒れたみたい」
俺の作り出した最高トラップでレベル上げに勤しんでいると、カルナが告げた。
俺たちは相変わらず謹慎で城の方に動きはなく、俺は迷宮の権限などやレベル上げに勤しんでいる。
「何かあったのか?」
「やっぱり属性違いの魔法の連射と強硬ワープが負荷高かった。魔力回路ズタズタ。エルフの里で治療中。これでしばらく動けない。1年くらいは無理。無理に動いたとしても魔法使えない」
「それは確実か?罠の可能性は?」
「100%ないとはいえないけど、こちらで見れるデータからみても無理だと思う。ちゃんと随時魔法が使えるようになっているかこちらも確認する」
そう言ってエルフの大賢者の魔力回路が表示される。
その答えに俺はおっしゃぁぁぁとガッツポーズをとる。
「つまりエルフの大賢者が俺を倒す事に夢中になり無茶をしたのなら、俺様の完・全・勝・利!そう、あれは敗北じゃない!あの勝負は大賢者様を無茶をさせるまで追い詰めた俺の勝ちだ!!!」
俺が叫ぶとその後ろで。
「それ、精神的勝利」とカルナが突っ込んでくるが、精神的だろうがなんだろうが勝ちと思った方が勝ちなのでそれでいい。
確かエルフの里は魔族も察知できない場所にあるはず。エルフでしかたどり着けない神の領域。魔族も内情まではわからないだろう。エルフの賢者が動けないうちにこちらが動いてエルフの大賢者のふりをして邪魔な魔族を殺すことも可能になった。
たとえエルフの大賢者が倒れているという情報を手に入れていたとしても、『エルフの大賢者に騙された、なんらかの方法で我々の仲間を殺したに違いない』と勝手に深読みしてくれるはず!
ただ、エルフの大賢者の罠ということも頭の片隅にいれておかないといけない。
その可能性も考慮してちゃんと動くべきだろう。
それにはまず俺がエルフの大賢者と対等以上に闘える力をもつことが重要だ。
エルフの大賢者が罠を仕掛けてきたとしても実力で乗り切るだけの力。
裏ボスのスキルと、このダンジョンの権限があればあのチート能力を使ってきたとしても対等以上に戦えるだけのアドバンテージは俺にはある。
レベルをカンストの120にして、俺の持つスキル熟練度もMAXにすれば、エルフの大賢者と対等かそれ以上。英霊二人もダンジョン産のドーピングアイテムを注ぎ込んで最強にする。キルディスも一応最強にしておくが、対エルフの大賢者においては、すぐ逃げてしまうため戦力外で考えておいたほうがいいだろう。
「というわけで、パワーアップのためにこれから料理を食べてもらおうと思う!」
深夜。キルディスも城の偵察からもどってきたところで俺が、どーんと作った料理の数々をだすと、なぜか全員顔を青くした。
「あ、あのマスターこれは?」
キルディスが全身にぶつぶつを作って俺に聞いてきた。
「見てわからないか。俺が作った超強化料理の数々だ」
そう言って甘い系のドーナツから塩味系の焼き菓子、しっとりしたケーキからカリカリにした揚げ菓子、のど越しすっきりジュースから、カレーやチャーハンなどの主食まで用意してある。
「美味しそう。でもなんでこれ作った?」
カルナが不思議そうに俺が作ったうさぎ型マフィンをつつきながら言う。
「決まっているだろう。この菓子にはATKやDEXなどの強化の木の実などが練り込まれている。ダンジョントラップででた数々のパワーアップの実だ。
これを余すことなく、木の実であげれる限界値まで上げるために食べてもらう!
だが、食べたところ激まずだったので、菓子に練り込んでその味を変えた!
ステータスがちゃんと上がるのは確認済みだ。さぁお前ら命令だ食え!」
「マスターって普段どうしようもない屑のくせに時々、聖者真っ青の気のきかきかせかたして怖いんですけど。なんですかそれギャップ差でも狙っているんですか?」
がくがく震えながらいうキルディス。
「キルディス君、君人の事なんだとおもっているんだ?」
俺が睨むと「申し訳ありません」と速攻で土下座した。
「料理スキルだって、スキルマックスにするとMP回復などかなりの恩恵が得られる。あげておくにこしたことはない。妙に凝ってるのもスキルの熟練度上げだ!」
俺が言うと
「ああ、なるほど!その恩恵狙いですね!ものすごく納得しました!人間の屑が聖人になったのかと!」とキルディスが目を輝かせた。
「後でお仕置き決定!地獄の戦闘猛特訓コース第四弾!」
俺がビシッと指をさすと、「申しわけありませぇぇぇぇぇぇん」とキルディスが全力土下座をするのだった。
「マスターこれ美味しいです」
ウサギ型マフィンケーキを食べながらアレキアが嬉しそうに微笑んだ。
「おう、どんどん食べろ。英霊特典だ、英霊はどんなに食べても太らないし、満腹にならない」
俺の言葉にアレキアとシャルロッテの動きが止まり……
「「本当ですかっ!?」」
と食い気味に聞いてくる。
「もちろんだ、英霊は死んだときの全盛期の姿から変わることはない。ってか随分くいつくな」
「好きなだけ甘いものが食べられる、この経験がいかに貴重か『レイゼル』の身体にいるマスターならご理解いただけるのでは? 生前は毒を恐れほとんど手を付けられません」
そう言って嬉しそうに生クリームたっぷりのロールケーキを食べるシャルロッテ。
あー、確かに、キルディスもそんな事言っていた気がする。
しかもシャルロッテは女性でありながら優秀すぎて王位継承権に絡んできてしまったため、男の皇子たちのやっかみもすごかった。俺なんかよりずっと命を狙われる機会もおおかっただろう。
「うちはシャルロッテほど厳しい状況ではありませんでしたが、甘味のない地方であまり食べられませんでしたから嬉しいです」
ほくほくと焼き菓子を食べるアレキス。
「マスターは料理上手い!」
何故か俺の料理スキルを自慢してカルナも嬉しそうに熊型マフィンを食べていた。
「ところで、マスター」
「ん?なんだ?」
「なぜか私の場所だけ異様なほど菓子がおいてあるのは気のせいですか?」
キルディスが聞くので俺はにまぁっと笑う。
「間違いじゃないぞ。お前は全部喰え!」
「わ、私英霊じゃないんでお腹いっぱいになるんですけど!?」
「大丈夫だ日持ちするものばかりにしておいた!」
「そういう問題!?」
キルディスが全力で突っ込んでくるので、俺は腕を組んだ。
「当たり前だ、お前には強くなってもらわないと俺が困る。エルフの大賢者がダウンしているいまこそ、俺たちが直々に魔族にちょっかいをだせるチャンスだ。お前には俺様の迷宮大レベルアップ作戦のために四天王の一人を倒してもらう予定だからな」
俺の言葉にキルディスが食べていたパンを堕とすのだった。
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