第22話 英霊化
「さて、ずいぶん不思議な体のお嬢さんですね。この世のものでありこの世のものではない。何故私を見張っていたのですか?お嬢さん?」
ぎりっとカルナの首を抑えながら、エルフの大賢者が微笑んだ。
空中にぷかぷか浮いた状態でカルナはエルフの大賢者に首を掴まれ浮いているのだ。
「なんで分体でお前がダメージくらってるんだ!?」
俺が叫ぶとカルナが「わか…‥らな…‥」と、分体と同じ体制で苦しそうにうめく。
「ど、どどどどどどうしましょう!?」
泣き顔でおろおろするキルディス。
エルフの大賢者に掴まれた分体は無表情に首を掴まれたままなのに、こちらのカルナは苦しそうに喉が圧迫されてうめいている。
「ふむ。これくらいでは喋りませんか。姿形だけとはいえ幼い少女に手をあげるのはあまり好みませんが……喋らないというのなら多少痛い目にあっていただくしかありませんね」
そう言って映像にうつるエルフの大賢者がため息をついた。
「カルナ!!俺をエルフの大賢者の前に転送しろ!!」
「で……も」 喉を苦しそうに抑えながらカルナが俺を見る。
「いいからっ!!!」
そう、俺は知っている。あいつはやる。エルフの大賢者はそういうやつだ。
味方には慈悲深いが敵とみなしているものには一切容赦がない。
「このままだとカルナがやられる!!!!」
その言葉にカルナが術を発動するのだった。
がんっ!!!!
俺は転移するなり、カルナの首を絞めていたエルフの大賢者を蹴とばした。
が、あっさり躱される。
「ほぅ、やはり、貴方の手の者でしたか」
エルフの賢者が嬉しそうに笑いながら、カルナと身体を引き離す。
「ったく、いたいけな幼女に手だすとか、お前おかしいんじゃねーの」
俺が力を失ってぐったりしてるカルナの分体を抱きながら、そのまま地面に着地した。
「いたいけな幼女? この世ならざる者。魔族の魂すらも自らに吸収するその異質な存在が「いたいけ」ですか」
大賢者が肩をすくめながら俺の前に着地する。
「気づいていたのか。さすが大賢者様だな」
俺が言うと、大賢者はせせら笑う。
「嫌味なら結構。さて、そろそろあなたの目的をお教えいただけませんか」
「目的?そんなたいそうなものはないが?」
俺の言葉に大賢者はこめかみを抑えて、こちらに視線を送る。
「貴方がエルフの大賢者たる私を魔族の元に誘導し、倒させていたのに気づいていなかったと思っているのですか? 魔族の魂を集めて何をするつもりです?
あなたは魔王を復活させようとしている魔族側という確証はなくとも魔族に関わっていた。王族だから攻撃できないという神の誓約はあなたに対しては無効になりました。正直に言った方が身のためですよ」
エルフの大賢者の言葉に俺はにまぁっと笑う。
「さぁ、何の事かわからないな」
もちろんバレバレの見え透いた嘘だ。エルフの大賢者の読みはあたっている。だからといってわざわざ手の内をあかしてやる必要はない。その挑発にエルフの大賢者は目を細めた。
「わかりました。話す気がないというのなら力づくで聞き出すまで。さぁ、心の底から後悔していただきましょう。この私を怒らせたことをっ!!!」
そう言って大賢者が殺傷能力抜群の『光の矢』をいきなりぶっぱなしてくる。
レベル1の光の矢なら大したことはないのだが、こいつの光魔法熟練度は10。
このゲーム同じ魔法でも熟練度によって威力がアップし最大レベルは10。
つまり最大熟練度の光の矢なので、下手な高位魔法より恐ろしい。
俺はラスボスの壊れスキル 魔法吸収で光属性吸収を発動して、その矢を当たる直前で消し去る。
その様子にエルフの大賢者は目を細めたあと。
「なるほど。属性に応じた吸収魔法を使えるというわけですか。ならばこれならどうです?」
と、言いながら、今度は光の矢、闇の矢、氷の矢、火の矢、土の矢、風の刃などの初級魔法をランダムで秒単位の差で一斉に全方位から放ってきた。
って、ちょっとチートすぎるだろ!?
え、あいつ転生者なのか!?
なんだよ、ゲームでもそこまでできた記憶ねーんだけど!?
さすがに俺でもランダムで襲ってくるその魔法の最適解の吸収魔法を展開し、さらに秒差でくる魔法の吸収魔法を何重も貼るなんて無理だ。
俺だけなら硬質化になれば無敵状態になるので防げる。
でも俺の腕の中にはカルナがいる。
さっき分体のくらったダメージが本体にいっていたのでこのカルナにダメージを与えるわけにはいかない。
「ああ、しゃぁーない!!やってやるよ!!!」
多少俺もダメージを食らうがカルナを守る事を優先する。
魔法タゲ集中のスキルを発動し、最大魔法防御の壁をはる。
魔法タゲ集中&硬質化が使えれば苦労はないのだが、このスキルは同時発動はできないためこれしか手段がない。
どぉんっ!!!
一斉に襲い掛かる魔法にさすがにダメージ量が多すぎて魔法防御の壁を何度はりなおしてもぶち壊して張りなおしてもすりぬけた魔法のいくつかが俺に直撃するが、地面においたカルナの分体はノーダメだ。
HPが半分以上もっていかれたが、裏ボスには全回復の魔法があるので余裕。
「マスター!!」
カルナの分体が俺に叫んだ。
「大丈夫だ!大したダメージじゃない!カルナ!!お前は邪魔ださっさと戻れ!!」
俺が叫んだ。
けれどカルナはがくがく震えて動けない。
くっそ。俺のミスだ!
カルナの言葉が本当か検証しなければいけなかったのに言葉通りに受け止めてしまった。なぜエルフの大賢者が本当にカルナに気づかないのか検証しなかったのか。
俺というイレギュラーがいるんだから、エルフの大賢者もイレギュラーなものになっていないか確認するべきだったんだ。
「美しい主従愛ですか? ですが――私が逃がすとでも?」
そう言って空一面に魔法の武器を展開する。様々な種類の武器の形状をした魔法が空中を埋め尽くした。
しかも属性バラバラというチート。火、風、土、水、氷、光、闇の矢だ。
「ちょ、お前どうしてそんなゲームの法則性無視したことできんだよ!!そんな同時魔法存在しなかったはずだ!!反則だろ!!チートだ!!チート!!!」
俺の言葉にエルフの大賢者は目を細めた。
「何を言っているのかわかりません。ですが、悪は滅っするのみ。一度ずたずたにして殺した後、グール化して真意を聞いてさしあげましょう」
さらりと酷い事を言う。
こいつ、やることのえげつなさ俺と同レベルじゃねーか。
いいだろう、底意地の悪さで俺に勝とうなど5000億年はやい。
売られた喧嘩は全力で買うまで。エルフの大賢者とのレベル差なんて気力で補う。
「ははっ、そっちがその気ならこっちも最初から殺す気でいくぜっ」
そう言って構える俺。
エルフの大賢者は作戦上どうしても必要だった。
けれど、生かさず殺さずなんて生やさしい事を言っている暇がない。
殺す気でやらないと俺が死ぬ。こいつは今の俺にはあまりにも巨大すぎて戦力差がありすぎる。生け捕りや手加減は不可能だ。裏ボススキルを駆使してこいつを殺す。
作戦変更は余技されなくなるが魂さえ保存しておけばなんとかなるだろう。
瞬間。
――私達を
声が聞こえた。この声は――。
「いいでしょう!全力できなさいっ!!!」
エルフの大賢者が放った魔法の雨が降り注ぎ――
『我が想いよっ!敵わず朽ちた魂達に憐れみを!!すべての民を守るその盾となり我とその守るべき親愛なる者の心に反応し現れよっ!!!』
俺の召還したそれが叫び、光輝いた。
『
召還した俺の英霊が、秘儀を発動させ、俺とカルナそして召喚した二人の英霊を守るようにドーム状の盾が出来上がる。
「なっ!?」
驚く大賢者。
そう――目の前に現れたのは、英霊化した、第一皇女聖騎士シャルロッテと聖王国ディランの姫アレキア。聖騎士シャルロッテの秘儀が大賢者の魔法の全てを受け止め無害化した。
「……アレキア。生きていたのですか……」
アレキアの姿に大賢者の動きが止まる。
するとアレキアはにっこり笑った。
「はい。マスターの英霊として再び生をうけました。ごめんなさいデネブ様……いえ、大賢者様と呼ぶべきかしら? 私正義の味方は卒業いたしました。これからはマスターの剣となり、貴方と戦いましょう」
アレキアは俺とカルナを守るようにエルフの大賢者に立ちふさがる。
そう、俺がアレキアと第一皇女を自らの手で殺し、首を持ち帰ったのは二人を英霊化して使役するため。闇落ちした英霊化というやや特殊な状況であるものの、俺の配下になってもらうためだった。そのため培養液で闇化して英霊にする作業にはいっていたのだが……。
英霊化にはもう少し時間がかかるとカルナが言っていた気がしたがなんとか間に合ったらしい。俺の呼びかけに答えて彼女らは現れたのだ。
「その通りです。我ら二人、マスターのため、この命何度でも捧げましょう」
俺達を守るように防御盾を周囲に展開させる、シャルロッテ。
とたん――俺と、カルナの身体が光った。
「帰還。すぐ逃げる」
その言葉とともに、俺の意識が一瞬飛ぶのだった。
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