第7話 大好きな真実
「お前は清く正しく生きろ。その強さも地位もお前にはあるのだから」
それが帝国の双璧と呼ばれる父、黄金の獅子カンドリア辺境伯の言葉。
そしてその言葉はラシューラ・デル・カンドリアの生きる道しるべだった。
「あら、貴方達何をしているのかしら」
家紋が没落してしまった令嬢を虐めている、別の令嬢にラシューラは微笑みかけた。
目の前には虐められてドレスにワインをかけられてしまった気の弱そうな茶髪の令嬢と、虐めの主犯格と思わしき気の強そうな赤髪の令嬢がいる。
目の前でおこる「悪」は全て打ち砕かないといけない。それがカンドリア公爵家の「正義」。
「これはラシューラ様」
虐めていた令嬢が慌てて、気の弱そうな令嬢から離れた。
「今ちょうど楽しくおしゃべりを」
「ドレスにワインのシミをつけたまま楽しくおしゃべりなのかしら?」
見え透いた嘘をいう意地の悪い令嬢にラシューラは微笑みかける。
「そ、それは……」
「貴方の家はたしか我が家と取引がありましたね。このことはうちの父に伝えておきますわ」
「な!! 本当です、ラシューラ様。私は虐めてなどいません!ほら、貴方もなんとかいいなさいよ」
オドオドしている茶髪の令嬢に強要する赤髪の令嬢にラシェーラは微笑み。
ばきぃぃぃぃぃ!!!
放った波動で庭にあった木が一本粉々になる。
ラシューラの放った波動で粉々になったのだ。
「えっ!!!!???」
「私、嘘が嫌いなの。ご存じなかったですか?」
ラシャーラが微笑むと令嬢たちが真っ青をになって震えている。
「も、申し訳ありません」
虐めていた令嬢たちが土下座をして謝りだす姿にラシューラは満足げに微笑んで
「今度この子を虐めたらただじゃすみませんよ?」
顔を近づけて微笑んだ。
「正義の味方ごっこができて満足か」
オドオドした令嬢にお礼を言われて、別れたあとパーティー会場に戻ろうとした途端、お菓子をばりばりと食べている第八皇子に話しかけれらた。
「これは帝国の輝く……」
「あー、そういう堅苦しい挨拶はいらん。にしても、あんた自分が何をやってるのかわかってるのか」
「それでは虐めを見過ごせと?」
ラシューラが問うと、第八皇子はにんまりと笑う。
「当たり前だろ。虐めなんてどこなんてどこにでもある。下手に関わるな」
「それはあなたの正義でしょう?誇り高きカンドリア家の正義ではありません」
ラシューラが胸を張って言うと、第八皇子はくくくと笑いをこらえたあと
「正義、そう正義か。相手をさらに窮地に追い込むのがカンドリア家の正義ならたいそうな正義だな。弱者に追い打ちをかけるのが趣味の俺と気があいそうだ」
「何を言っているのですか!私は等しく目の前の悪を断つまで」
ラシューラが言うと、第八皇子はずいっと顔を近づけてきた。
(……なっ!? こんなに顔を近づけられたのに、動けなかった。この、皇子強い。)
「親の威光を盾に、目の前の虐めを叩きのめして、あんたはそりゃ気分がいいだろうさ。あんたはそこで終わりなんだからな。目の前から不愉快なものが消えてさぞ満足だろう。だがな虐められている連中はその先がある」
「何が言いたいのですか」
「簡単な事だ。根本から解決できないなら中途半端に手をだすな。あんたのやっていることは単なる自己満足と正義とは名ばかりの欺瞞だ」
そう言ってにまぁっと笑いながら体を離し背を向ける。
「私を愚弄する気ですか!?」
ラシューラが第八皇子の背に叫ぶと、第八皇子は顔だけをくるりと向けて二かっと笑う。
「愚弄かどうか、さっきの虐められていた令嬢の馬車に誰にも気づかれないように同乗してみりゃわかるさ。あんたが何をやったのか、現実を見ることができる」
「何があるというのですか!?」
ラシューラが叫ぶと
「箱入り娘のお嬢様の大好きな、真実さ。それじゃあ俺も今日は他にやらなきゃいけない事があるんで、帰らせてもらうぜ。あんたに本当に正義とやらがあるなら、自分の目で確かめるんだな、世間知らずなお嬢さん」
第八皇子が言うと、ラシューラはぎりっと手を握ると
「私の方が年上ですっ!お嬢さん呼びはやめなさいっ!!」
その背に叫ぶのだった。
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