第三話『ゲームを、辞めたの』
日記みたいになってしまうけれど、結局こういうのって新鮮なうちに書いておかないといけないからさ。
ずっと覚えている昔の事より、きっと忘れてしまう今の事から書いていく事にしようと思うよ。
多分だけれど、語り口調が変わったりすると思う。今はきっと穏やかというか、静かな気持ちが文章に投影されているのかもしれない。決して心中穏やかではないのだけれど、それでもそういう部分も含めて、あえてどうこうするつもりは無いんだ。
誰だって、きっとお堅い言葉を使う時もあれば、柔らかい言葉を使う時もあるでしょう? ということで、今日は『辞めた』のお話。一番最近で、一つ目のお話。
ゲームを辞めたの。
音楽を辞めたの。
友達を辞めたの。
僕は沢山の事を辞めてきて、一番最近がゲーム。それも昨日の話だ。
この、ほぼ日記のような私小説を書くきっかけがそれだったんだ。
子供の頃から好きだったゲームは、僕の心をとても豊かにしてくれたし、今に繋がる大事な要素だったと思うけれど、逆にそればっかりしていても仕方がない物だと思うんだ。
ここから少し話がずれるよ。
僕は基本的に、何事もそこそこまでは上手くやれる。運動は得意じゃあ無いけれど、きっとそれは持病の喘息と運動を推奨しなかった家庭背景から出来ないと思われて育てられたからで、実際の所運動もある程度コツを掴めば人並には出来ると思う。
例えば、剣道なんかは途中で挫折したけれど、道場の中では同期で唯一、先輩で一人だけ出るくらいには難しかった赤銅大会っていうのに参加した事があるくらい。
でも、中学生の部活でいじめに遭って剣道が嫌になって、段位を取るのを諦めたくらいの実力。
体育のサッカーなんて使えないから万年ゴールキーパーだったけれど、胸でリフティングしてシュートをするテストは満点だった、変なの。
同じくバスケットボールもドリブルなんざロクに出来ないけれど背が高いから妨害と、シュートは良く入った、変なの。どっちもどよめきが起きたのを覚えているよ。
だって普段暗くてなんにも出来なさそうな自分が急に点取るんだもん、クラスの元気な人達は驚いちゃうよね。でもなんか、出来た。
始めて気付いたのは跳び箱の事。今の体育の授業ではあるのかな。
小学生の自分は「飛べて三段」だと思いこんでたんだ。だけれどちょっと勇気を出してみたら、四段が飛べた、五段も、六段も、七段も飛べた。
小学生にしちゃ、七段ってのは中の上くらいだったと思う。確か九段ってのは無くて、八段を飛べなかったのを覚えているから。
そんな感じで、今も続いている喘息が酷くて運動が出来ないと思い込んでいた僕のちょっとした成功体験。やれば出来たかもしれない。やらなかったから出来ない、当たり前だね。
何でもそうなんだ。ちゃんと向き合ってみたら中の下か、下の上くらいにはすぐたどり着く。とっても良くて中の上かな。
だけれど限界を見ちゃってそこまでの人間。そこまで行くのは容易くても、そこから上に行けない人間。
勉強もそう。高校は当時は進学校だったけれど、偏差値にすると幾つかな、55から60らへんの高校で、これも心病みが原因で殆ど行けなくなってギリギリ卒業出来たくらい、これは下の下かもしれない。
勉強だとか、運動だとか、一般的な例を上げたけれども、ゲームもそうなんだ。
ある程度までしか出来ない、それ以上上手くならない人。
全部のポジションが出来る、けれど重要な時にポジションを任せられない人。
この前辞めたゲームでは「器用貧乏だ」なんて言われて笑っちゃった。確かにそうだけどそれは人に向けて放つ言葉じゃあなかったんだよ、少年。
尤も、僕は争いが得意じゃあないから、たははと笑っていたけれど。
とにもかくにも、ゲームを辞めた。沢山辞めたんだ。
作品名を出すのは辞めておくよ。それでも複数本のソシャゲと呼ばれる物と、一本のMMORPGと呼ばれる物を辞めた。
そうして、それらに使っていた時間の代わりにこの文章が産まれているってわけだ。さてさて、ゲームに"浸かっている時間"と、この文章を書くのに"使っている時間"は、どちらがよりよいものなのかな?
辞めた理由は単純に、時間とお金が続かないからに尽きるよ。ゲームをしている時間を殺さなきゃ、僕は本当に一生そのままだと思ったんだ。
だからこれからはきっと小説を書く事が増えると思う。今書いているこれもいつか書かなきゃいけないと思っていた事の一つ。
でも、結構な喪失感があるものだね。こういう心の痛みはあまり味わった事が無い。
そりゃあこれからも何かしらのゲームに触る事はあると思う。刺激が貰えるからね。だけれど10年続けたり、7年続けたり、3年続けたり、2年続けたり、3000時間プレイしたりしたゲームのデータを全部削除するったら、辛い思いだったな。
特に3000時間プレイしたMMORPGについては、キャラクターを自分の子供みたいに思っていたからね。昨日は夢に見たし、今もゲーム内の風景をふと思い出して胸が痛む。
でもあの子達はもういないんだ。その代わりに、君が今見ている僕が此処にいるっていうのが、このお話の顛末みたいなもの。
ちなみに言えば、器用貧乏だと言われたのはそのゲームでのギルドチャットのような場所で。色々あったけれど、楽しかったな。実際に通話アプリで話した人もいたし、ずーっとやっていくのかなぁって思っていたのだけれど『100か0』みたいな極端な思考傾向を持っている自分は、ゲームを0にする事を選んだんだ。
だって、ずーっとゲームやっているわけにはいかないじゃない?
そう、だから辞めた。辞めたの、ぜーんぶ。かけたお金の事も、かけた時間の事も、失くなるデータも、やっていたら得られていた楽しさも、傷としてちゃんと受け止めて、ぜーんぶ辞めたんだ。
MMO名物の引退ばら撒きだってしてきたよ。メッセージ付きでこっそりとね。
どう思ってるのかなぁ、どう思ってるんだろうね、同じギルドの仲間達は。
それも分からないようにしたよ。見たってどの道辛いだけだしね。
誰が何をしているか分からない、一期一会。もうきっと広いネットの海で出会う事も無いんだろうなぁって思うと、とても寂しい。
ほら、上にも書いた通り僕は『友達も辞めてる』から、ほぼほぼ孤独な人生。
時折話す友達が一人、二人いるかな。そのくらいだ。
ゲームついでに、笑えるような笑えないような、僕の限界を見ちゃう癖をゲームで例えておこうかなって思う。
RPGについては、クリアをして、裏ボスはもしかしたら倒さないかもしれない。
アクションやアクションRPGについては、クリアは出来る。やり込みや縛りプレイは出来ない。程度で言うと隻腕の人が失った命を復活しながら戦う戦国時代のゲームをとりあえず全ボスクリア出来る程度だ。
音楽ゲームが顕著で笑っちゃうんだ。
どんな音楽ゲームでも『イージー、ノーマル、ハード、エキスパート』とかの難易度のうち、『簡単目のハードならすぐにフルコンボ出来るくらい』の実力の人。
その日始めてやったゲームでも、多分そこまではすぐに出来ちゃう。だけれどエキスパートは殆どクリア出来ない。始めて音楽ゲーム、所謂『音ゲー』を触った二十年前から少しも成長していないと思う。
銃で撃ち合うゲームは、人と一緒にやるのは苦手。だって足を引っ張ったら心が痛いから。
でも一人用なら、音楽ゲームと同じく最高難易度ではないハードモードをなんとなくクリア出来るくらい。
ほら、ゲームだけ取っても中途半端が似合うでしょう?
だからじゃないけれど、そんな僕が突き詰められる物を探す為に、辞めたの。
他の辞めた物については、また今度話すね。
でもなぁ。あぁ、自分のキャラクターは本当に好きだったな。あの子がもう見れないのか、寂しいな。
でもね、僕はゲームからこうやって、今この文章を打ち込んでいる事も含めて、現実にログインしたんだ。ゲームから一生ログアウトする代わりにね。
お酒を断った時より、ギャンブルを断った時より、心の痛みは強い。
だけれどね、辞めたの。これが一個目の、一番最近の『辞めたお話』
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